第53話 アメリカ産メロンの贈り物







  奇跡のストフラによってヒナコさんの景品と化した俺、トラノスケ・フォン・カスガは、ギルドを跡にしてから軽やかな足取りで飲み屋街へ足を踏み入れた。


 ナギさんが好きそうな酒場は、庶民的な大衆酒場か、こじんまりとした渋いお店のどちらかだろう。


 カウンターがあれば尚更、ナギさんの好み的にポイントが高い。


 敬愛なるクソオヤジ、おっかないけど最高の母ちゃんに連れられて行ったことのあるお店から、記憶を辿って目星を付けてから一軒一軒足を運んだ。


 空振り二回のベースボールで言えばツーストライク、顔出しだけでは失礼だろうと、それぞれのお店の店主やお客さんに挨拶をして、一杯ずつソフトドリンクを注文して喉を潤し、ナギさんはいないと言う情報を貰ったことなので多めに払ってからもう一軒。


 次のお店に入ってから中を見渡せば、カウンターにかけるこれまたわかりやすい二人組の女性の後ろ姿。


 しばらく会わないうちにまたイメチェンしたのか、今度は金髪ショート、漆黒に染めた美しい角、何よりもまわりと比べて一際大きなスタイリッシュな女性と言ったら、ナギさん以外に誰がいるんだろうね?


 おまけに長い大太刀を立て掛けているのだから、人違いなんてことはないだろう。


 ナギさんの隣に掛けるのは、少し癖のあるブロンド、前世で語り継がれるだけの存在となったサザンクロス(アメリカ連合国/アメリカ南部連合)のワッペンをあしらった、天使用に特別な加工を施されたジャケットを羽織り、背中の穴から飛び出す純白の翼が特徴的な後ろ姿なので、ジェニファーさんに間違いないだろう。


 そもそもフライトジャケットを羽織っている女神様なんて、ジェニファーさん以外に誰がいるんだい?


 幸いカウンターは空いている……美人だけど大物過ぎる二人の隣に掛けるような、勇気ある男はなかなかいないらしいからね?……美人だけど、酒が入るとなにかと面倒臭いし、遠目から眺めること自体は大正解。


 普段だったらそうしたいところなんだけど、俺は囚われの姫君を助けないといけなくてね?


 盛り上がっているところ悪いけれど、ちょっと水を差しますよ?


「ナギさん、ジェニファーさん、お隣いいですか?」


 仕方なく、楽しげに語らう二人の後ろから声をかけてみれば、振り向いた二人の美貌に鼓動が高鳴るものの、水を差されて中断することになったからか、揃いも揃って酔いのせいもあるけれど、目が据わっていてとても不機嫌なご様子。


 うん、流石に美人さんでも怒らせると怖いのは、母ちゃんで立証済みだし、ナギさんもジェニファーさんも気が強いからね?


 時間にして数秒間、俺は美女二人の不機嫌そうな視線を浴びたが、俺のことに気付くまで時間がかかるって、ちょっと酒が入りすぎじゃあないかな?


 不機嫌から一転、二人の美女は、みるみるうちに目が輝いてきたことで超ご機嫌。


 知り合いじゃなかったらどうなっていたのやら?


 さて、今から俺は、二人のリアクションに備えて身構えないとね。


「Oh Torry!(トリーは、トラノスケのニックネーム) 久しぶりね! また会えて嬉しいわ!」


「よう、トラノスケ! ちょうどいいとこに来たな!? 今ちょうどさ、クールでキュートな男の子に癒されたいと思っていたんだぜ?」


「そうよ、私たちに声をかけてきた男たちと言ったら、全然イケてないのよ!? どうして私たちの目を見て、自分に自信を持って話せないのよ? 舐め回すようにイヤらしい目付きで視線を泳がせるなんてもってのほかよ!!」


 酔っ払ってるからか、声がデカイ!


 そりゃあ美人でセクシーだけどさ、そもそもあんたらがおっかないから、そうなって当然だよ!


 ある意味で俺が来て平和になったな!


 今日のみんなは、いったいどうなっているんだよ!?


 思わずため息を一つ、深呼吸代わりに吐き出してから、ちょっと役得なご挨拶のお時間の到来だ。


「そう言うわけだ、お前が来てくれてよかったぜ」


「トリー、あなたを歓迎するわ」


 そう言って席から立ち上がった二人は、高低差(ナギさん / 197cm、ジェニファーさん / 163cm、俺 / 178cm)を活かして同時に抱きついて来る!


 思春期真っ盛りの男子の俺にとって、最高のご褒美でもあり、拷問でもある。


 美人な年上のお姉さん二人から、とってもジューシーなメロン四つの贈り物がめっちゃ当たってる!


 むしろ積極的に当てに来ている断れない贈り物だ!


 そして二人揃って酒臭い! ナギさん力加減考えて! ジェニファーさん! 翼を使ってホールドしないで! 


 そんなこんなでとある生理現象に抗えず、モジモジせざるを得なくなったあたりでようやく解放され、二人揃って顔を赤らめているけれど……それ、俺も恥ずかしいからね?


 それよりも早く本題に入りたいからさ、挨拶もほどほどにして、歓迎ムードの二人に着席を促され……あ、俺、二人の真ん中ですか?


 はい、光栄ですね、両手にとても美しくて綺麗な花ですからね? HAHAHA!───。








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