第51話 異世界ポーカー








  母ちゃんに呼ばれた俺は、正直面倒臭いと思いながら重い足取りでゆっくりとギルドへと向かい、ようやくたどり着いた頃には、なんだかとても騒がしいと言うのか、どこからか母ちゃんの怒号が轟いていた。


 扉を開けば、多分親父に呼ばれたと思われる、マイケル大尉の率いるコボルト隊の面々からの敬礼を送られ、手短に答礼をしてから、詳しい事情を訪ねてみれば、概ね予想通りと言うのか、母ちゃんが大暴れしているご様子だ。


『このハゲ! あんたギルドマスターやろ!? 今の立場に胡座かいた自分がな、日和見かまして責任の所在を曖昧にしとったんやから、そらめっさ面倒なことになって当然やろ!? なんべん言うたらわかるんや、ボケ! さっきから全然話にならへんわ! なんや、ドタマどついたら少しはマシになるんとちゃいますか? ほな、黙っとらんではよなんか言えや!……』


 ……ああ、願わくば今すぐ帰りたい。


 コボルト隊の面々も笑いを堪えているし、俺が行ったところで状況も変わらないだろう。


 母ちゃんの怒号は一旦無視して、コボルト隊以外の冒険者の姿など無く、暇そうにしている受付のお姉さんに敬愛なるクソオヤジ、ヒナコさんがどこにいるのかを訪ねてみれば、特にやることがないのか、お姉さん自ら案内役をしてくれるようだ。


 案内された先、初めて入る座敷牢のような場所にて、ギルドのスタッフの監視下で対面することになった親父とヒナコさんは……。


「ベット」


「……レイズ」


 ああ、アグレッシブゴリラな敬愛なるクソオヤジと、ポーカーフェイスのヒナコさんが、ポーカーを楽しんでいるようで?


「……ヒナコ、ハンドが良さそうだな? リレイズ」


「……お前もな? オールイン」


「おいおい、プリフロップでオールインか? いいポケットじゃねえか……コール」


「正気か?……私のハンドは、スペードのA、スペードの2だ」


「あー、気持ちはわかる。だが、俺はハートとクラブのAだ」


「強いな……じゃ、ショーダウン……フロップ……ダイヤのA、スペードの5、ハートの5か……ターン、リバー次第だ」


「よし、フルハウス確定。お前がワンチャンストフラで負けるかもな」


「どうだろうね? ターン……スペードの4。カスガ、ちょっとばかり期待したくもなるよ?」


「ああ、僅かな希望に裏切られなければいいな?」


「そうだな、転生しても身長と胸だけはどうにもならなかったよ?」


「「HAHAHA!」」


 ああ、座敷牢で暇をもて余した敬愛なるクソオヤジと、ヒナコさんがテキサスホールデム(フロップポーカー)を楽しんでいるようでなによりだよ?……やっぱりさ、俺、帰っていい?


「この状況でさ、ヒナコ、お前を応援してくれそうな奴が来たぜ?」


「……うるさい。カスガ、今はそれどころじゃない」


 俺が来たことに気付いた親父に茶化されたヒナコさんは、顔を赤らめて……ああ、かわいいけど嫌な予感しかしないね。


 敬愛なるクソオヤジ、クレイジーなあんたが、クソッタレな爆弾を投下するのが目に見えるぜ?


「もしもだ、お前がストフラ(ストレートフラッシュ)で勝ったら……トラノスケを好きにしていいぞ?」


「おいクソオヤジ、あんたはいったい何を言ってるんだ?」


 ほらな?


 個人的にヒナコさんが、ストフラで勝利することの方が、流れ的に面白いけれど……これまた嫌な予感しかしない。


「……乗った」


 嫌じゃないけど、嫌な予感が的中したぜ? HAHAHA!


「いや、ヒナコさん、なに言ってるんですか!? いやいや、顔を赤らめないでくださいよ!」


「……嫌なの?」


「いやっ、そうじゃないですけど、むしろ歓迎ですけど!……って、あんたらなんでテキサスホールデムやってるんだよ!? 母ちゃんに怒られても知らねえぞ!?」


「トラノスケ、安心しろ……多分俺だけが怒られるから」


 うん、知ってる。


 そんな訳で、勝負の行方は、リバー次第。


 最後の一枚をめくった結果は───。







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