第48話 トラノスケ・フォン・カスガの憂鬱







  引退した敬愛なる元魔王のクソオヤジは、前世においては最強の兵士であり、現世でも個性的な仲間たちをまとめ上げ、最前線で戦い抜いた英雄だ。


 前世から持ち越した記憶障害もあってか、俺と妹のウィルマこと、ウィルヘルミナが15歳の誕生日を迎えていたことも忘れ、まるでタイムマシンとお友達になっているかのような計算ミス、チョンボをやらかしているのはちょっと悲しいね。


 もっとも、最高の肝っ玉母ちゃんと幸せな日々を過ごしているから、今はゆっくりと悠々自適な引退ライフを送ってさ、気が向いたときにでも会ってくれれば、それだけでも俺とウィルマは嬉しいよ。


 それはいい……引退して暇だからってさ、母ちゃんと一緒に楽しい日々を過ごすのはいいんだよ?……元魔王のシーフになった?


 おいおい、敬愛なるクソオヤジ、今更なんの冗談だ?


 元魔王で国家元首だったクソオヤジもさ、今ではただの一国民だからさ、ギルドで冒険者登録するぐらいの道楽はいいんだよ。


 母ちゃんもそうだし、ナギさん、ヒナコさんまでチュートリアルダンジョンに挑ませるギルドの対応は、正直疑問と言うか、もう少し他のやり方とかあったんじゃないの?


 リスポーンすることをいいことに、親父によってダンジョンを爆破されたのは言うまでもないし、ギルドのスタッフが何度もリスポーンしてチュートリアルを失敗とかさ、笑いすぎて俺とウィルマのお腹が痛くなったんだぜ?


 ダンジョンのメンテナンスの為に、ミノタウロスさんたちが緊急出動したのもそうだし、ギルドの職員が親父を止められないのも残念ながら当然だけど、もっと他にやり方とかあっただろ……ギルドの職員、および冒険者たちに同情すら覚えるけれど、親父を止められるのは……母ちゃん、ナギさん、ヒナコさん、ジェニファーさん、タバサさん、グリーンティの姉さん意外に誰がいるんだい?


 今やエステライヒの棟梁であるコボルト族のチャゲさん、相変わらず有能な二番手であるウェアウルフ族のジローさんは、親父に見出だされて大出世を遂げた元部下だけあって、苦笑しながらも「魔王様のおかげで今の我々がありますから」……と言って、なんだかんだ親父を許してしまっているから、余計に調子に乗るんだぜ?


 もちろん、俺もそうだし、妹のウィルマも親父のことを尊敬しているけれど……流石にさ、ギルドで発砲騒ぎを起こすのはどうかと思うよ。


 親父を知らない世代、先の大戦の英雄のことを忘れた奴らが、知らない奴らがさ、舐めたことをするものなら痛い目を見るのはわかるよ?


 ヒナコさんを侮った冒険者たちもそうだし、形骸化したランクという物差しでしか測れないことも問題。


 今回の件はさ、ヒナコさんと親父の仲間意識の強さから起こったことだし、未だ強い影響力を残す母ちゃんも動いたのは言うまでもない。


 同盟国であるフェアデヘルデのタバサさん、グリーンティの姉さん、ユニオン・ザ・スカイのジェニファーさん、そしてギルドでSランクを所有する俺、トラノスケ・フォン・カスガと、ウィルマも呼ばれたんだ。


 ……あのね、母ちゃん、新年会やお誕生日会で集まる面々が、非常召集されるってことはさ……面倒ごと確定ってことだろ?


 おいおい、俺は行きたくないよ……それと親父、ヒナコさん……あんたら引退しているんだからさ、少しぐらいおとなしくしてくれよ。


 全く、誰でもいいから敬愛なるクソオヤジと、狂犬のヒナコさんをなんとかしてくれ!───。








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