第44話 アメリカン・ドリーミン







  私、ヒナコ・カザミが、前世から異世界に転生するまでの経緯は、あらかたカスガの口から語られたことであろう。


 私は、私の最期を自分の意思で選び、最高の人生の幕を降ろしたはずだった……まさか、続きがあるなんて、夢がある話だろ?


 今から20年近く前……悪夢から目覚めれば雲の上、どこかで見たことあるような白人の小娘が私の目の前に現れ、アジア系の私からすれば羨ましい、金髪碧眼の北欧系の美少女とご対面。


 当然のように私よりも身長が高そうで、胸にはメロンのお歳暮……おい、私の分のメロンはどこだ?


 羨ましい、メロン2つをないものねだりしたところで、いつまでたっても届くことなんてなく、自分の胸の前に手をかざしても空振りしたことから、悲しいことだけどそもそもメロンの芽すら存在するのか怪しいものだ。


 少しぐらい夢を見させろよな?


「……Japanese army major?(日本陸軍少佐?)」


 私を見るなりそう呟いた彼女は、姿勢を正して米海兵隊のような敬礼をする。


 あの世でも軍事教練か?……冗談じゃない。


 幸運の女神様というのか、天使の羽根を生やした白地のワンピース姿の金髪碧眼の北欧系の美少女は、あたかも直近まで兵役経験があったかのような仕草だったことで、立ち上がった私は彼女の目線に合わせ、相変わらずの身長にもへき易した悪夢そのもの。


 身長の話はいったん忘れようと念じた一方、私の身に沁みついていたからか、死んでも抜けきらない敬礼を反射的に返してから降ろせば、彼女も私に倣って手を下したことから、階級的にはどのあたりだろうか?


 慣れ親しんでいるかのような様子から、下士官あたりだと私は予想してみようかな。


 彼女の氏名、階級を聴く前に、私も階級、名前を言わないと話が進まなさそうだ。


「Yep. I am HINAKO KAZAMI. He was a Japanese army major(そうだ。私の名前はヒナコ・カザミ。日本陸軍少佐だった)」


 見た目通り英語が通じてくれればいい、返ってきた言葉は意外だったけれどね?


「……そうだったのね、ヒナコ少佐、私もジャパニーズの大尉と一緒に海兵隊にいたから、日本語、少しだったらわかるわ」


 多分、アメリカ人だから英語を喋るのは当たり前だと思ったので、英語で返したら、私のことをよく観察している様子だけに、独特のイントネーションで奏でる日本語は、思ってたよりもうまいね。


 ま、あいつが教えたとなれば、身につくのも早いだろうね……北欧系のアメリカ人、お前のことは写真でしか知らなかったけれど、ここで出会ったということは、そういうことなんだろ?


「ジェニファー=ズザンネ・サマーフィールド伍長……いや、サマーフィールド3等軍曹、はじめまして。まさか死後にご縁があるなんてね?」


「お会いできて光栄よ、ヒナコ。本当は生きて退役するつもりだったのよ?」


「……私もそうしたかったんだけどね?」


「「HAHAHA!」」


 彼女のことは、前世でカスガから聞いていたから、本当は生きたかった気持ちもよくわかる……もちろん私もそうだったけれど、前世で運に見放されたのはお互い様。


 性格が災いして、あの世でもボッチかと思ったけれど、身長とメロンだけは気に食わないが、まるでもう友達でも出来たかののようで嬉しいよ。


「私のことは、ジェニーと呼んでほしいわ? ヒナコ、あなたもキャプテンと深い仲だったようね?……わかっていたけど、少し複雑な気持ちだわ」


「お見通しのようだね。私が自分勝手な理由でさ、カスガを振ったから誰とくっ付こうが関係ないけどさ……私のようなチビじゃなくて、女の子らしい子を選ぶのもわかる……悔しいけどね?」


「そうかしら? あなたはキャプテンを救ったことには間違いないわ。ありがとう……それとごめんなさい、あなたの記憶を覗かせてもらったわ?」


 参ったね、私の赤裸々な事情までお見通しってことかい?


 だったら私の犯した過ちまで覗かれていると言うなら……ジェニー、お前はどう思うんだ?


「ヒナコ、あなたはなにも悪くないわ。あなたは、キャプテン・マーベルに誤射した……もし、そう思い込んでいるとしたら、いつでも誤解は解けるはずよ。彼女なら、今は極東の島国で有名人よ?」


 女神だけにマジックショーのような技はお手のものか、彼女の目の前に出現した古地図を指先で指し示した先なのか、不思議な水晶玉に映る懐かしい顔に思わず目を背けてしまった。


 相変わらずランドマークそのものな身長とチョモランマ、今度は美しい角を生やしたナギさんの美貌にどぎまぎするも、どこか寂しげな表情に胸が痛み、一筋の涙が私の頬を伝っていった───。







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