第42話 悪役の流儀







  三発の銃声が鳴り響いたハローワーク(ギルド)内は、それまで武器を手に取ったものたちの喧騒で、熱気に包まれていたのが嘘のようにしんと静まり返り、武器をしまうよう説得していた善良な三人の冒険者が、床に倒れてうめき声をあげていた。


 武器を離そうとしなかった男は、突然の出来事に固まったまま、ようやく理解した頃には震えだし、やがては武器を落として倒れた仲間のもとへと駆け寄った。


 再び時が動き出せば、ハローワーク(ギルド)から逃げ出す奴らを捨て置き、避難誘導ならばコボルト隊の面々に任せよう。


 残って呆然と立ち尽くすもの、そして救護に駆け寄る勇敢な冒険者の中に、それまで敵対していたヒナコも加わり、応急手当て、回復魔法をもってして事の収束にあたった。


 そして、マカロフ PMを手にしたまま警戒を緩めず、周囲の状況を把握した俺は、もう大丈夫だろうとマカロフのセーフティをかけて引き金を引き、『click……』というハンマーを落とした音だけを確認してから、ゆっくりとホルスターに戻した。


 すぐ後ろに立つウィラの方へと視線を向ければ、絶対零度に等しい冷たく鋭い視線と交差した刹那、乾いた音と共に右頬が痛んだのは言うまでもなく、耳鳴りが止まらないね。


 おかげで注目の的らしく、ウィラから何度もビンタを受けるぐらいは想定済みさ?


「トラチヨ、あんたそらやり過ぎやろ? こないなことなるのも仕方あらへんっちゅうのもな、わからなくもないんやけど……自分な、やっとること、そらマフィアのやり口とちゃいますか?」


 ああ、全くもってその通りだ。


 この場に必要なのは、悪役そのものなんだ……若き冒険者たちの誰かが、悪に堕ちようものなら、三発の銃弾で済む問題じゃあないからね。


 で、いったい誰が悪役をやるかって話だろ?


 きっかけはともかく散々ヘイトを集めたヒナコが、武器を手にすれば不幸なすれ違いの末に全てが終わる。


 もちろん最悪な方の結末を迎えることだろう。


 ならば少しでもマシな方法、尚且つヒナコに向かったヘイトを俺が背負うだけの簡単な方法は、悪役に適任な元魔王の俺が、引き金を引いてクールダウンすればいいのさ。


 若き冒険者たちよ、武器を手にする重みと言うものが、少しは理解出来たんじゃないか?


「……カスガ! 救護完了、三人とも無事、健在だ……お前、いくらなんでも演出が過ぎるぞ?」


「ご苦労、ヒナコ。お前と違ってな、俺は銃の扱いが上手いんだよ」


「うるせーよ、でも……ありがとう。それと……私のせいでこんな騒ぎを招いて申し訳ない」


 ともあれ、悪党らしい強引なやり方で場を納め、クールダウンしたハローワーク(ギルド)内で立ち尽くすものたちに対し、それまでの悪役から一躍ヒーローに転じたヒナコは、それまで武器を手にしていた奴らに詫びを入れ、一件落着となった。


 まだまだ面倒な事が沢山あるけれど、今回はこの辺で幕を閉じようか───。







【第三章】元魔王のヒモ、ついに働き始める───。




 ───cut!








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