第40話 隠した爪
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お祭り騒ぎのハローワーク(ギルド)内にて、喧嘩上等なクソチビポメ柴のヒナコを囲む、体格に勝るばかりか武器を手に取った男たちを相手に対して、ランク帯や体格差すらものともせず、ステゴロで大立ち回りをするバーサーカーと化していた。
流石は放浪の魔女、前世で元軍人だから尚更止めようがなく、武器を手にした男たちの在庫もそろそろ尽きて来た頃合いなので、俺とウィラの二人がかりで止めに入るって訳だ。
こういうときに限ってナギ姐不在、前世で色々あったばかりに、ナギ姐の言うことなら素直に応じるんだ。
ヒナコにとっては、事実上のはじめての友達でもあり、姉貴分でもあり、歳の離れた親友だったからね……以前のエピソードで語った通り、俺とナギ姐のミスだったとは言え、事故でオウンゴールをかましてしまった自責の念が、こちらの世界でも引き摺っていることを否定は出来ないけれどね。
ともあれ、狂犬と化したポメ柴の相手は、全くもって骨が折れるって訳だ。
ハローワーク(ギルド)にお集まりの皆様、クソチビポメ柴のヒナコに対しての身長ネタがタブーであることを以降お見知りおきを。
全く、口さえ開かなければ物静かであまり目立たないだけに、ヒナコを侮ったものなら大変だって訳さ。
ポメ柴と言うだけに、大人しいときはかわいいものだが、一度怒らせてしまえば、手のつけられない狂犬そのものだからね。
凶暴で唯我独尊な性格をうちに秘めているものだから、パンドラの箱を開け放って祟られた結果のボッチ体質もそうだが、放浪の魔女だけあってなかなか1ヶ所に留まらず、各地を転々としているだけに、ミステリアスな彼女の存在そのものが、忘れられし伝承レベルであまり知られていない故の悲劇とも言えよう。
ついでとばかりに沸点がとても低く、瞬間湯沸し器、電気ケトルなら高性能・高品質なだけに、スイッチを入れたのはいったいどこの誰だろうね?
もちろんこの世界においては、俺とウィラ、ナギ姐とカズサの姉貴、あとはジェニファーとグリーンティならば、ヒナコのスイッチの切り方を知っているものの、一度火が着いてしまった以上、しばらく熱気が冷める様子もないね。
ウィラと俺の二人がかりで暴れるヒナコを抱きしめて宥めているものの、彼女の振り上げた拳の行き先は、何故か俺の方にだけ飛んできて痛い……どっちが怖いか、よくわかっていてなによりだ。
いつも凶暴だけど、今日はいつにも増して頭に来ているようで、元魔王じゃなければそうだね、俺も積み上がった山の一角になっていたことだろう。
討伐した小型魔獣よりも手がつけられない、狂犬ポメ柴と化したヒナコをなだめること暫く、ようやく落ち着いた頃には、積み上がった喧嘩自慢だった奴らの山が、コボルト隊によって片付けられていたのだった。
すっかりハローワーク(ギルド)も落ち着きを取り戻したものの、職員や冒険者たちは未だ手にした矛を納めることに躊躇している模様だ。
そんな様子にヒナコは相変わらず、苛立ちを隠そうとすらせず眼鏡越しから放つ鋭い眼光で、周囲に睨みを利かせてから一呼吸を挟み、ゆっくりと口を開いたのだ。
「……おい、まだ挑む気か? お前ら、私をチビと舐めてかかって痛い目見ただろ?……武器を手にして囲んで、ステゴロの私に負けるなんて、ダセェな?」
うん、ハローワーク(ギルド)の空気は最悪だ。
今すぐガスマスクを被ろうか迷うぐらいに悪いね? HAHAHA!
シーンと張りつめたまま凍り付いた空気の中、彼女は更に続けた。
「……ま、それはいい。私が許せないのは、シナエ(前世ウィラの帰化後の名前)さん、ナギさん、そして……カスガを侮辱したことだ……一つ、言っておくけど、お前らがバカにした三人、私よりも強いからな? Sランク?……おい、戦争を知らねえ平和ボケした雑魚が、クソガキどもが、なにイキってるんだよ? 人を殺したこともないお前らとは、住んでる世界が違うんだよ?」
オーケイヒナコ、お前は最高にいい奴過ぎるよ。
俺とウィラは思わず、二人がかりで頭を撫で回せばちょっと恥ずかしそうに俯き、身体をモゾモゾと動かして抵抗するものだけど、クールダウンしないことには話が進まない。
仕方ない、あとは俺に任せてくれよな?───。
◇
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