第10話 ローリングサンダー
◇
無茶な要求を押し通そうとした転生者も、スピルバーグ映画のトラックに追突されたことでようやく諦めてくれた。
ものわかりのよくなったそんな彼には、少しぐらいの慈悲を与えてもいいだろう。
映画のエキストラ、出逢え出逢えな大部屋役者、将来魔王軍(エステライヒ軍)専属の戦場カメラマンのどれがいいか訪ねた。
将来の進路のことは、俺の門外漢でもあるし、その時が来たら決めるといい。
今度は平和な人生で自分の居場所を勝ち取れよ!
それじゃ、一仕事終えたことだし、ジェニファーとランチデートを楽しもうか。
天界から帰ってきた俺は、目映いほどに輝くウィラの笑顔を直視できないでいた。
何故かって?……そりゃあね、帰りが遅くなってしまったからさ?
うん、とりあえずハローワーク(ギルド)でダークフェアリーの戦力評価に誤りがあることを、抗議しにいかないといけないね?
もちろんウィラも同伴、目映いを通り越して怖い笑みを浮かべる彼女に、どうやって許してもらうか……考えろ、考えるまでもなく土下座一択な気がするね?
ハローワークに到着するまで、なかなか話を切り出せなくて困ったものだけれど……このままでは埒が明かない。
「……ウィラ、大変申し訳ございませんでした!」
ウィラの前に躍り出た俺は、ローリングサンダーで前転、前方宙返りを繰り出し、土下座の姿勢で着地した。
技として考えると、常用外(本来は仰向けで倒れている相手に使うプロレス技)の為、ウィラの反応は如何に?
「……トラチヨ、いっくら綺麗なローリングサンダーを決めた言うてもな、土下座はタダや」
現実は非情であり、正論過ぎてなにも言えない。
「そらな、ちょっとぐらい浮気するのはかめへんけどな……お遊びが過ぎるんとちゃいますか? ほんでな、ジェニーんとこいくのはええけど、うちに黙っていくのはあかんやろ? せやからうちな、今日は……ちょっと妬いてしもうたから覚悟しぃや?」
寛大だ、実に寛大な彼女の優しさが、五臓六腑に染み渡る……あとが怖くないのかって?
ああ、画面の向こうのあなたは、いったいどんなことを想像しているんだい?
とりあえず、報連相は大事って訳で、その為にハローワーク(ギルド)と話をつけないとね?
ダークフェアリーを何だと思ってやがる?
とりあえずそうだな、ダークフェアリーの驚異をハローワークの面々に知らしめてやろうではないか!
元魔王の俺が訓練、教育を施した精鋭たちの練度がどんなものか、ハローワーク(ギルド)の連中に対して目にものを見せてやろうではないか!
我々の誇りを、尊厳を、祖国を、同胞たちを護るべくして立ち上がったエステライヒの将兵たちの意地を見よ!───。
◇
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