第八夜 ホットサンドとウイスキー

 金曜日の午後、のんびりとした雰囲気が職場を満たし、そんな中で仕事をしていた時、私の頭の中にある食べ物が浮かんだ。



「……ホットサンド」



 少し前にサンドイッチの専門店をニュース番組で紹介していたのを思い出し、そこの看板メニューがホットサンドだったなと思っていると、石山さんと貫地谷さんが近づいてきた。



「今日はホットサンド? 中々珍しいチョイスね」

「夜ご飯にしてはたしかにそうですね。何か理由でもあるんですか?」

「少し前にサンドイッチの専門店をテレビで紹介してたなとふと思って。どうやらそこの看板メニューがホットサンドみたいなんです」

「なるほどね。まあでも、ホットサンドも色々工夫は出来るし、お酒のおつまみにもなるみたいだから悪い選択ではないかもね」

「ホットサンドがお酒のおつまみ……本当になるんですか?」



 石山さんは貫地谷さんを見ながら頷く。



「そうみたいよ。チーズにトマト、エビを挟んだイタリアンな感じとかコンビーフをマヨネーズで味付けしたのとか色々出来るみたいで、そういうのはワインとかウイスキーとかと合うみたいなの」

「おお、良いですねえ。なんだか私も食べたくなってきちゃいました」

「食パンを余らせても次の日の朝ごはんとして食べられますしね。なんなら二食続けてホットサンドにしても良いですし」

「デザートサンドみたいな感じにも出来るからね」

「でも、ホットサンドってそういう専用の器具がないと作れないイメージがありますけど、三村さんのお家にはあるんですか?」



 家の中で使われる機会がまったくなかったホットサンドメーカーを思い出しながら頷いた。



「一応ありますよ。前に使ってから一度も使ってなかったですけど」

「えー、良いなあ」

「そんな貫地谷さんに朗報よ。ホットサンドってフライパンでも作れるの」

「そうなんですか!?」



 嬉しそうな貫地谷さんに対して石山さんは笑みを浮かべる。



「ええ。具材を挟んだ後に重しでプレスしながら焼けばフライパンでも作れちゃうのよ。重しもホーロー鍋の蓋とかで良いらしいわ」

「そういうのならたしかあったはずです。それならウチもホットサンドにしようかな」

「石山さん、今日も色々な知識を本当にありがとうございます」



 石山さんが微笑みながら頷いた後、私達は再び仕事を始めた。そして終業後、私は最寄りのスーパーに寄って食パンやチーズ、トマトやハム、そして明日の朝に食べる菓子パンをカゴに入れ、会計を済ませてから家に帰った。



「ただいま」

『おかえりんごー。今夜はなんじゃいね?』

「今晩はホットサンドで、まだ残ってるウイスキーをそれに合わせる予定だよ」

『ほうほう、ホットサンドですか。食パンに色々な具を挟んで表面をこんがりと焼いただけに見えてその香ばしさと多種多様な具材の組み合わせがあらゆる美味しさを生むという魔法のような料理。それにこれまた割る物で顔を変えるウイスキーとは……あぁー、これはたまらんよ』

「とりあえずホットサンドメーカーを洗わないとね。一応石山さんからフライパンでも作れる方法は教えてもらってるけど、あるからには使わないと」

『石山さんって本当に物知りさんだよね。まあ華ちゃんならもっと色々な方法を知ってるけど』



 クロは少し冷たい声で言う。



「別に良いんじゃない? 教えてくれるのは良いことだから」

『それはそうなんだけどね。まあ良いか、とりあえず早く作ってガッツガツ食べちゃお~!』

「はいはい」



 部屋着に着替えてから私はホットサンドメーカーを軽く洗い、買ってきた物の中から食パンや具材にする物を取り出した。そして食パンでハムやチーズを挟んだ後に洗ったばかりのホットサンドメーカーにセットし、私は出来上がった後の光景を想像しながらホットサンドメーカーをひっくり返しつつ焼き続けた。



『良いね良いねえ。その調子でガンガン焼いてこー!』

「そうだね」



 答えた後に一つまた一つとホットサンドを作っていき、五つくらい出来上がったのを確認した後、私はウイスキーグラスに丸い氷を入れてから冷蔵庫の中で冷えていたウイスキーと水を注ぎ、それらをテーブルの上に置いた。



『ひゅー、良いですなあ。さあさ、冷めない内に食べな食べな』

「うん」



 いただきますと言ってから私はホットサンドの内の一つを手に取り、それを口に運んだ。噛んだ瞬間にトーストはサクッという音を立て、中に挟んでいたトロリとしたチーズと軽く塩気のあるハムが良い感じで組み合わさっていた。



「……うん」

『良い音だったねぇ。外はサックサクで中はトロン、そしてウイスキーを一口クイッと頂く。はあ……至福の一時だよ』

「まだ飲んではいないけどね」

『だったら飲みなよー。ほらほら~』

「はいはい」



 答えてから私はまたホットサンドを一口齧って、キンキンに冷えているウイスキーを口に含んだ。熱々のホットサンドを食べながら冷たいウイスキーを飲むのは相変わらず中々変わった感じではあったけど、悪い感じではなかった。



「……うん」

『合わないわけがないもんなあ、こういうの。色々な組み合わせを模索して食べていけるのがホットサンドとかの良いとこなんだよね。そしてそれに合うお酒も見つけ出して、至高の組み合わせを楽しむ。人生楽しむならこれくらいはしたいね』

「クロは犬のぬいぐるみだから犬生なのかな?」

『そうかもね。まあその辺りはあまり気にしなくて良いよ。今は食事兼晩酌を楽しめば良いんだよ、華ちゃん』

「そうだね」



 答えた後に私はまたホットサンドを齧った。そしてクロの声を聞きながら今夜も私の夕食兼晩酌は静かに過ぎていった。

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