第三夜 ハンバーガーとハイボール

 金曜日の夕方近く、ふと私の口からある言葉が漏れた。



「……ハンバーガーがいいな」



 今朝通勤時にふと目に入った駅前のファストフード店の事を思い出してそんな言葉が漏れたのだった。そして一般的なハンバーガーの事を考えながら仕事をしていると、石山さんが話しかけてきた。



「あら、今日はハンバーガー?」

「たまには良いかなと思っただけですけどね」

「ハンバーガーってジャンクフードっていう言い方をよくされますけど、ジャンクフードって具体的にはどういうものを指すんでしたっけ?」

「栄養価のバランスを著しく欠いている調理済み食品の事を言うらしいわね。ハンバーガーもそうだけど、スナック菓子やカップ麺もそうで、高カロリーで高塩分、ビタミンやミネラルなんかがあまり含まれてない物みたい」

「そうだとしても中々な言い方ですよね。ジャンクってガラクタとか屑って意味ですし」

「まあ食べたい人が食べれば良いだけではありますよね」



 貫地谷さんは大きく頷く。



「そうですよ。ところで、どんなハンバーガーを食べる予定ですか?」

「特に決めてないですね。まあ定番のハンバーガーにはなると思いますけど」

「それじゃあチーズバーガーとかみたいなのじゃなく、一般的なハンバーガーになるわね。そういえば、ハンバーガーに使うバンズって今では普通に買えるし、結構家でも作りやすくなったかも」

「たしかによく見かけますよね。ハンバーガーかぁ……私も仕事帰りにどこか寄って食べようかな」

「駅前に新しいのが出来たみたいのでそこでも良いと思いますよ。私もそこの事を思い出してハンバーガーが頭に浮かびましたし」

「駅前ですね。よっし、それを楽しみにして残りの仕事を頑張ろう!」



 貫地谷さんが拳を軽く握りながら言うと、石山さんは笑みを浮かべた。



「楽しみがあると頑張れるものね。そういえば、ハンバーガーもお酒のアテにはなるみたいだけど、ハイボールにして合わせるとさっぱりして美味しいって聞いたわよ」

「え、そうなんですか? ハイボールって揚げ物とかのイメージが強いですよ?」

「まあお肉系とは合うわけだし、良いんじゃないかしら?」

「そうですね。今夜はハンバーガーとハイボールにしてみます。教えていただきありがとうございます」



 石山さんが微笑みながら頷いた後、私達は仕事を続けた。そして終業後、私はスーパーに行き、バンズや合挽き肉、レタスやピクルスといった材料とウイスキーや炭酸のペットボトルを買って家に帰った。



「ただいま」

『おっかえりー。今日は何かね?』

「今夜はハンバーガーとハイボールだよ」

『お、良いですなぁ。バンズの間に挟まれる食材によってその食感も味わいも変わる名品で、ちょっとお行儀悪く感じるけど、がっしりと両手で掴んだ後にがぶりとかぶりついた後に味の洪水が待っているなんて本当に贅沢だよね。その上、ウイスキーの芳醇な香りと大人な味わいが炭酸によって昇華されてあらゆる物を至高の逸品に変えてしまうハイボールだなんて華金だからこそ許される魅惑的な組み合わせだよ。因みに、ハンバーガーは何を作るの?』

「とりあえず普通の奴かな。一応スライスチーズとかベーコンもあるし、その辺りは休みを使って作ろうかな」

『いいねいいねぇ! とてもワクワクする連休になるじゃないか。早速作ってこー!』

「はいはい」



 クロのテンションに少し呆れながらも私は調理に取りかかる。合挽き肉に塩を加えてから少し和え、それを炭酸と一緒に冷蔵庫に入れてからパテを成形する型をアルミホイルで作り、ケチャップやマスタードを混ぜてソースを作った。その後、冷蔵庫から合挽き肉を取り出して捏ね、型に入れて成形をしてからフライパンに油を引いて少し余熱をしてからパテを焼き始めた。ジュウジュウという音と匂いを出しながらパテが少しずつ焼けていき、しっかりと焼き上がった事を確認してからバットに移した。キッチンに焼き上がったパテの香りが漂う中で私はバンズを焼き始め、断面に焦げ目がついたのを確認してからそれを引き上げた。



『おお、準備が出来てきたねぇ』

「まあね」



 返事をしてから私はバンズの上にソースをかけたパテ、トマト、多少ソースをかけたレタスといった順で載せていき、同じものを二つ作るとそれをテーブルへと持っていった。その後、冷蔵庫から持ってきた炭酸を使ってウイスキーを割り、ハイボールを作ると、クロは嬉しそうな声をあげた。



『よっしゃきたー! 天下無敵の組み合わせ! 華金だからこそ許されるヤバさ! これは本当にテンションが上がるよ!』

「クロって人間だったらお酒好きすぎて止められる人だよね」

『酒は飲んでも飲まれるなって言葉もあるけど、酒は百薬の長という言葉もあるしね。それに、やっぱり次の日が休みならガッツリ飲みたいじゃない。さあ、早く食べて飲んで楽しんでこー!』

「はいはい」



 私はいただきますと言ってからハンバーガーを両手で掴み、軽く押し潰した。そして私は口を開け、ハンバーガーにかぶりついた。



「……うん」

『お、その食べ方を知ってるんだね。分厚いハンバーガーを食べる時は手で持つ時に上下から軽く潰してから食べると大きく口を開けなくて済むから恥ずかしさも軽減されるんだよね』

「別に家だからよかったけど、知ってるからやってみたよ」

『そっかそっか。因みに、レストランだとナイフやフォークが出される事もあるようだけど、それはお店側の意向と配慮みたいだからフォークで刺して一口分食べていこうね』

「そうだね。それでハイボール、と……」



 ハンバーガーを一口食べてからハイボールを口に含んだ。その瞬間、炭酸のシュワシュワと一緒にウイスキーの風味が口の中に広がり、パテやソースの風味と混ざりあっていった。



「……うん」

『いやあ、やっぱりいいね。口に広がるハイボールの美味しさと熱々のハンバーガーの香ばしさ、その組み合わせ足るやたまらないね! さあ、のんびりたべてこー!』



 その言葉に頷いた後、今夜も私の夕食兼晩酌は続いていった。

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