第41破 プールは飛び込み禁止です!
「えっ、あうっ、落ちっ、止まっ!?」
「うわぁぁぁ!? 落ちるっすーーーー!!!!」
「ぬおおっ、骨格にしがみつけ! 椅子や装飾品は外れかねん!」
ムカデモノレールは背骨をくねらせながらガシャガシャと動き始めた。ハイヤーンさんの警告の通り、骨の隙間から座席や床板がぼろぼろと崩れ落ちていく。一緒に落とされないよう、露出した白骨に必死でしがみつく。
モノレールは段々と加速し、振動も激しくなっていく。内装はほとんどがこぼれ落ち、完全に白骨だけに変わってモノレールらしい姿は欠片も残っていない。逆さまの巨大ムカデが線路にぶら下がって走っているだけだ。
「うっ、うあっ、あっあっ」
「こっ、古代人はこんなのに乘ってたんすか!?」
「がっ、外装が動きを抑えていがっ……ぐうっ!」
舌を噛んだのだろう、ハイヤーンさんが表情を歪める。振動はますます激しくなり、悲鳴を上げる余裕すらなくなる。ぐっと歯を食いしばり、四肢を骨に絡めて必死でしがみつく。
高さは2階程度だが、この速度で落ちたら絶対にただでは済まない。
――ばきゃっ
車体の後方から異音が響いた。
――ばきゃっばきゃっ
首をひねってなんとか後ろを見る。
――ばきゃっばきゃっばきゃっ
ムカデの背骨が砕け、車体が末端から脱落していっている。
崩壊は瞬く間に進み、私達のすぐ背後まで迫ってくる。
「崩れっ、落ちっ、落ちっ!!」
注意しようとしたその瞬間、突如振動が止まり、ふわっとした浮遊感に襲われる。
「「「うわぁぁぁぁぁあああああ!!!?」」」
私たちは脱落した骨格とともに空中に投げ出されていた。ぐるぐると視界が回り、上下も左右もわからない。文字通り目を回しながらやがてくる落下の衝撃に備えて身を固める。
――どっぼぉぉぉおおおん!!
「「「がぼぼっ、がぼっ、ごあぼぼ!?」」」」
衝撃に続きくぐもった水音。水を飲みかけるが慌てて息を止める。もがもがと手足をばたつかせ、なんとか水面に顔を出した。そのまま不格好に泳いで岸に上がる。
「げほっ、げほっ」
「ひい……ひい……ひどい目にあったっす……」
「下が水場で助かったぞ……」
三人で水辺に膝をつき、ぜえはあと息をつく。本当に死ぬかと思った……。
「ところで、こんな川があったとはな。いや、これは堀か……」
ハイヤーンさんに言われて水辺を振り返ると、大きな楕円状の池が広がっていた。岸辺は苔に覆われているものの、コンクリートに似た素材で舗装されている。水は透き通っているが水面にはところどころ水草が浮いていた。
池の中央には四角い建物が見える。水が大きな植物の侵入を妨げたのか、他の建物と違って木の根では覆われていない。蔦はびっしり生えているけれども。
「ほう、あの遺跡は状態がよさそうだな」
「いかにも何かありそうっすねえ。あそこに行ってみるっすよ」
岸辺からは細い通路が一本、中央の建物に向かって伸びていた。通路は狭く、縦1列になって進む。
トレードが「水から何か飛び出してきそうで怖いっすねえ」なんて軽口を叩くが、そんな危険生物がいたら最初に落ちてきた時点で襲われていただろう。私たちは難無く水上の建物までたどり着いた。
建物の扉は分厚い金属で出来ていて、装飾はなく無骨な印象だ。テーマパークの雰囲気にふさわしくないが、スタッフ向けの設備だったのだろうか。
「押しても引いてもびくともしないっすねえ。ニトロ、お願いっす」
扉と格闘していたトレードがそうそうに諦めて私にバトンタッチする。派手に爆破をしてマキナや警備ゴーレムが集まってきたら大変だし……私は慎重に扉の構造を調べ、
少し距離を取り、対爆防御姿勢を取ったら発破だ!
――ぼんっ!
両開きの扉の4隅から白い煙が上がり、どうんと低い音を立てて手前に倒れる。扉の裏面を見ると中央にはいかつい錠が複数設置されていた。鍵よりも蝶番の方が弱いってあるあるなんだよね。EoGでも閉じられたドアは蝶番を破壊するのが定番のテクニックだった。
建物の中は薄暗くて見通せないが、広い空間になっているようだった。物音などは聞こえない。警備ゴーレムが溢れ出てきたらどうしようかと心配だったが、その心配は杞憂だったようだ。
「さーて、お宝はあるっすかねえ」
「こらっ! 遺跡を無闇に荒らすな!」
トレードがスキップしながら中に入り、ハイヤーンさんが続く。私も慌ててその背中を追った。
「おおっ、これは何すか!? またドラゴンっすか!?」
「なんだこれは? 巨大な鳥のような……エイのような……これもゴーレムなのか?」
暗闇に慣れた目に映ったのは巨大な翼を持つ物体。
平べったい二等辺三角形のそれは、闇の中でステルス戦闘機を思わせるシルエットを浮かび上がらせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます