第40破 モノレールはスケルトン!

 案内板からモノレール駅までの道のりは順調で、さしたるトラブルもなく目的地に到着した。駅舎は2階建てになっており、外付けの階段を上って中に入れるようになっている。改札があれば地球のモノレール駅と言っても通じるような構造だ。


 しかし、ホームに入るとそこにあったのは前世のモノレールとは似ても似つかないものだった。


「げえ、古代人はこんな気持ち悪い乗り物で移動してたんすか」


 眉をひそめるトレードの視線の先には、赤錆びた線路に逆さまにぶら下がる巨大なムカデのようなものがある。


「外装が剥がれ落ちたのだな。素体はドラゴンセンティピードの骨格だったようだ」


 嫌そうなトレードとは対照的に、ハイヤーンさんは物怖じせず車体(?)に近づいている。フランケンシュタインの怪物的な見た目のハイヤーンさんが、巨大ムカデの白骨を撫でたり擦ったりしている光景はなかなかにホラーな雰囲気があった。


「生き物の骨が材料とか、趣味が悪いっすねえ」

「ゴーレム術だけでなく、死霊術も発達していたのだろうな。この巨大なスケルトンに部品を取り付けて乗り物として使っていたのだろう。なに、この種の乗り物は自体はそれほど珍しいものではない。例を上げれば首なし騎士デュラハンのヘッドレスホースなどは――」


 いつものように始まったハイヤーンさんのうんちくを聞き流しつつ、私も恐る恐る車体に近づいてみる。肋骨の隙間から覗いてみると、白骨の内部にはボロボロに朽ちた座席や床板などが残されていた。ところどころに苔や雑草が生えており、いつか見た廃墟写真を思い出した。


 ああいうの、不気味なのだけれどもついつい見てしまうんだよね。廃墟好きというのは世間的にも少なくないらしく、EoGでもハロウィンイベントで廃病院や古い洋館が立ち並ぶマップが登場し、好評を博していたのを覚えている。


 私もあのマップは楽しかったな。

 老朽化した建材は耐久値が低く、ちょっとした爆発で面白いように壊れるのだ。2階に立てこもった芋スナスナイパーを建物ごと吹き飛ばしたのは良い思い出である。


「で、ここまで来たのはいいっすけど、これからどうするんすか? まさかこれに乘っていくとか?」

「路線図とかないかな? あの案内板みたいな」

「なるほど、あの地図には近場しか書いてなかったっすもんね。駅なら遠くまで書かれた地図があるはずってわけっすな」

「う、うん」


 というわけで、駅内の探索を開始する。

 さっきの案内板はあっさり見つかったし、こちらもすぐに見つかるだろうと思っていたのだが……。


「何にもないっすねえ」

「こちらの小部屋に紙束が残されていたが……」


 待合室らしきところから出てきたハイヤーンさんの手に握られていたのは、朽ちて変色した紙の束だった。広げようとするそばからぼろぼろと崩れ、とても内容を確認できたものではない。


 おそらくはパンフレット的なもので、それがあるから案内板が必要なかったんだろう。あるいはムカデモノレールと同様に、壊れて跡形もなくなってしまったのかもしれない。


「うーん、こいつが動けば話は早いんすけどねえ」

「低級だがドラゴン種の骨だからな。術式が生きていればあるいは……」


 探索中に慣れたのか、トレードがムカデの車体にずかずかと入っていき、ハイヤーンさんもそれに続く。そういえば、電車の中にも路線図って掲示されてるんだっけ? そんな前世の記憶を思い出し、私も車内に入る。いや、実際の電車に乘ったことはないんだけど。


 乗り込むと床板がぎしぎしと軋み、車体がかすかに揺れる。骨の隙間からは地面が見え、風も抜けてくるのでちょっと怖い。足を踏み外さないよう慎重に歩きながら車内を調べるが、目当てのものはなかなか見つからない。


「じれったいっすねえ。せめてお宝のひとつでもあればいいんすけど」


 空振りが続いたせいだろう、トレードがふてくされた様子で比較的マシな状態の座席に腰を下ろした。崩れ落ちたりしないか心配だったが、とりあえず大丈夫なようだ。


「うーん、綿が潰れて座り心地も悪いっすねえ……あいたっ」


 トレードが椅子に腰掛けたままうーんと背筋を伸ばし、肋骨の一本にカチリと頭をぶつけた。そこには赤い宝石のようなものが埋め込まれており、それに当たってしまったようだ。


 ……って、カチリ?


 ――ヴィィィィィィィイイイイイイ!!


「うわっ、なっ、なんすか!?」

「おっ、おい、動いているぞ!?」


 けたたましい警笛が鳴り響き、ムカデモノレールが全身をくねらせて動き始めた!

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