第36破 迷子センターも爆破する!

「さあ、こちらにどうぞ。おいしいお菓子やジュースもありますよ」


 植物に覆われた建物の前で、マキナは金属製の顔ににこやかな笑顔を浮かべている。微妙にホラー味を感じるのは不気味の谷ってやつだろうか。


「どうぞって言われても、これじゃ入れないっすけど」

「ロックは解除済みです。遠慮なくお入りください」


 そう言われても、びっしり茂った木の根っこには入れるような隙間なんてない。


「ううむ、小生が見るになんらかの仕掛けがあったようだが……何か機械の動作音のようなものも聞こえる」


 ハイヤーンさんは興味津々の様子で木の根をかき分け、そこに耳を当てたりしている。私も耳を澄ませてみると、うぃうぃーん、うぃうぃーんとモーターが空回りするような音が聞こえてきた。本当なら自動ドアにでもなっていたのだろうか。


「どうぞご遠慮なく。中でゆっくりしている間にご両親もきっと見つかりますよ。遊び上手な専門のゴーレムたちがたくさんいるので退屈も致しません」

「だーかーらー、中に入れないって言ってるじゃないっすか」


 にこやかなマキナに、トレードがしかめっ面を返す。

 トレードは文句を続けるが、マキナは似たような反応を返すだけで変化がない。おそらくだけれども「迷子を迷子センターに連れてきた」という時点で役割が終わってしまっているのだろう。ゲームで言う決まった行動を繰り返すNPCのようなものだ。


「外に出られたのはいいっすけど……どうするっすかね、これ?」

「小生は内部が気になるぞ!」


 あの白塗りの迷宮から脱出できたのは進展だが、未だにここがどこで、どうやったら帰れるのかもわからない。


「ええっと、マキナさん。こ、ここってどこなんですか?」

「こちらは迷子センターとなります。おいしいお菓子やジュースもありますよ」

「そ、そうじゃなくて、ここ全体はどこなのかなって……」

「スカイパークへようこそ! 当パークはMKN社が提供するゴーレムの一大エンターテインメント! 気になるゴーレムはご購入も可能です。カタログをご用意しますか? 大口の場合は法人契約なども――」

「あっ、あっ、だ、大丈夫です……」


 迷宮からの脱出でプロンプトハッキングを試みたせいだろうか。反応が最初よりもますますAIじみたものに変わってしまっている。いくつか切り口を変えて質問をしてみたが、役立ちそうな情報は得られなかった。


「け、結局中に入るかどうかだけど……」

「ニトロの魔法で入口をぶっ飛ばしちゃえばいいんじゃないっすか」

「バカモノ! そんな乱暴なことを!」

「じっと眺めてたってそれこそ得られるものはないっすよ。それに食糧だってろくにないんす。中に食べられるものが残ってたら見逃せないっすよ」


 約千年前の遺跡に残っている食糧が果たして食べられるのか……とは思うが、前世地球では蜂蜜が食用可能な状態でピラミッドに残されていたり、二千年以上前の遺跡から発掘された植物の種子が発芽した例もあるらしい。建物の強度がわからないが、ふっ飛ばして穴を開けるくらいは簡単にできそうな気がするが――


「だから考えが浅いというのだ。地底湖の下にいたガーゴイルを思い出せ」

「でも迷路で爆発させても来たのはこのポンコツだけじゃないっすか。他のゴーレムもいたらしいっすけど、壊れてこなかったみたいっすし」


 しばらく議論を重ねた結果、やはり迷子センターの内部は確認しておこうということになった。食糧も情報も不十分な状況で、ここをスルーする手はない。


 とはいえ、最低限の安全対策は必要だ。

 ということでマキナの首にはプレゼントと称したC4製のネックレスがかかっている。破壊行為に対応してくるとしたら一番可能性が高いのがマキナだ。いざというときには申し訳ないが頭と体がさよならを告げることになる。


 ポンコツAIとはいえ一応は言葉をかわした仲だから、無情にふっ飛ばしたくはない。これからすることに反応をしないでくれればよいが……と思いながら、ガガドンガさん謹製のノミで筋を掘り、溝にC4を細長く埋めていく。


 作業中、マキナの顔色をちらちらと確認するがこれくらいのことでは反応しないらしい。傷つけているのはほとんどが壁面ではなく木の根っこだというのもあるのかもしれない。ともあれ、作業が終わったら起爆だ。


「み、みんな、耐爆態勢を」


 ここまで来ると心得たもので、トレードもハイヤーンさんも声を掛ける前に耳をふさいで身をかがめていた。マキナは相変わらずにこにこと立ったままだが、私がしていることの意味がわかっていないのだろう。


「発破ぁッ!!」


 ぼっごおおおおん!!!!


 迷子センターに貼り付けたC4が環状の爆炎を上げ、辺りが煙で包まれる。煙が晴れると、その向こうには煤けた白い壁面が露出していた。想定よりも素材が頑丈だったのか、はたまた木の根っこが緩衝材となったのか、壁面ごと吹き飛ぶことはなかったらしい。


「これはやりなおしかな……」と、私がつぶやきかけたときだった。


 煤けた壁がぐらりと揺れた。手前に向かってゆっくり倒れ、地面にぶつかり砕け散る。その向こうには、緑色にぼんやりと照らされた空間がぽっかりと口を開けていた。


 そのときになって、マキナの両目が赤く点滅し、金切り声を上げた。


「いけません、いけませんお客様! 当パークの施設の破壊はいけません! 困りますっ、困りますぅ~!!」


 マキナの目の光が伝染したかのように、辺りが赤い光で照らし出される。うぉんうぉんとサイレンが鳴り、辺りの茂みががさがさと一斉に揺れ始めた!

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