第31破 謎はすべて解けた!

「不壊の軍だなんて言うわりにあっさり壊れたっすね。やっぱりニトロの魔法はやばいっすねえ」

「こらっ、乱暴をするな! 貴重な古代王国の遺物だぞ。何か研究に役立つ秘法が隠されているかもしれん」

「えっ、お宝かもってことっすか!?」


 ガーゴイルの残骸をつま先で蹴飛ばすトレードを、ハイヤーンさんが慌てて止めに入った。トレードもぞんざいな扱いを止め、一緒になって残骸を調べ始める。


 そういえば巨人ゴーレムのときも魔石がなんとかって言ってたな。そういう貴重品が入っているのかもしれない。


 ともあれ、私が気になるのは謎解きの方だ。密室(密室じゃないけど)で謎解きなんて、脱出ゲームみたいでわくわくする。


「ええっと、まずは数字を整理してみよう。飾りにはなかったのを補うと……」


【台座の飾り】

 第一:3

 第二:?

 第三:7

 第四:?

 第五:?(答え)

 第六:17


 こういう感じになる。最初からわかっているのは3、7、17の3つだけだ。


「二つに裂くことあたわずってことは、2で割れない数……奇数ってことかな?」


 しかし、奇数では候補が多すぎる。第四が9だった場合、11、13、15。数字が小さい順とは限らないから、19って可能性もある。


「せめて第二か第四の数がわかれば……あっ」


 つぶやいて気がつく。『過ち時は第二軍が愚か者に罰を下す』がさっきのガーゴイルを指しているのだとすれば、第二に入るのは5だ。


 3、5、7、?、?、17。

 第四はわからないままだが、ここまでくれば察しがつく。

 これは2つで割れる数……2を除く素数の数列なんじゃないか?

 そうすると、第四には11、第五には13が入ることになる。


 念のため、補充されたガーゴイル像にC4を貼り付けてから、第五の列に13個の黒曜石を嵌めてみた。


 すると、大きな黒曜石の球に、白い縞模様が浮かび上がってぐるぐると渦巻き出した。回転させたコーヒーにミルクを垂らしたときみたいだ。


 渦は周囲を侵食し、球の周りの景色まで歪み出す。視界がぐるぐると周り、目の前が真っ白になって、身体の重さがふわりと消えて――


 * * *


「ど、どこっすか、ここ!?」

「うーむ、どうやらアレは転送装置だったらしいな」


 気がつけば、さっきまでとはぜんぜん違う空間にいた。

 目の前には大理石の柵があり、バルコニーのような場所らしい。眼下には白い町並みらしき・・・ものが広がっている。「らしき」と言ったのは、建物がすべて飾り気のない長方形で、建築要素のあるゲームなら「豆腐ハウス」と揶揄されるようなものが並んでいたからだ。


「明るいっすけど……外ってわけでもなさそうっすねえ」


 トレードにつられて頭上を見ると、何百メートルも上の空には木の根に似たものがびっしりと垂れ下がっていた。光は根の隙間からぼんやりと溢れており、光源がその奥にあることがわかる。


「ここはもしかすると……」


 ハイヤーンさんが懐からトランシーバーみたいな形の道具を取り出し、アンテナをあちこちに向けてぶつぶつと呟いている。


「何を調べてるんすか?」

「瘴気濃度だ。ううむ……この数値はやはり……」

「もったいぶってないで早く言うっすよ」

「君はまったく……! どうやらここは瘴気領域の地下、それもかなりの奥地のようだ」


 瘴気領域……これまで何度も耳にしてきたけれど、結局何なんだろう? そういえば、キーウィ族のロジャーさんは瘴気領域に行くって言ったら自殺する気かなんて言ってたな。よっぽど危ない場所なんだろうか。


 そんな疑問が顔に浮かんでいたんだろう、「瘴気領域も知らずにサウスゲイトまで来たのかね……」と、ハイヤーンさんが呆れながらも解説してくれる。


「瘴気領域とは、古代王国の滅びとともに生まれたとされる汚染された土地だ」

「お、汚染?」

「君たちはヨツメを見たのだろう? あれも汚染の一種だ。瘴気に長く晒された生物は変容する」

「ってことは自分らもやばいじゃないっすか!?」


 慌てて口を押さえるトレードを、ハイヤーンが笑う。


「ふふふ、1日や2日曝露したところでなんともならんよ。この何百倍も濃度が高ければ別だが、変容は数十年、数世代と時を経て起きるのだ」

「そういうことは早く言ってくれっすよ!」

「ふん、この程度も調べずに来たのが間違いなのだ」

「もともと瘴気領域の探検なんてする気はなかったんすよ。時間は有限っすからね、調べ物は必要な情報だけに絞る流儀なんすよ」

「まったくこれだから商人というやつは……。知の偉大さを知らぬとは哀れなことよ……」

「偉大な知とやらがあっても、自分ちで締め出し食って文無しになる哀れな人もいるらしいっすけどね」

「ぐぬぅ……!」


 トレードとハイヤーンさんはどうも反りが合わないようだ。EoGでも研究肌の人と効率厨の人とは仲が悪かった。トレードは効率厨ってわけじゃないけど、商売第一だから学者のハイヤーンさんとは根本的に価値観が違うんだろう。


「ともかく、本格的な探索の準備なんてしてないっすからね。一旦帰るっすよ」

「何!? これほどの発見を前にしてもう帰るというのか!? これほど状態のよい遺跡は深層でも滅多にないんだぞ!」

「わ、私も戻るのに賛成……」


 私は小さく手を上げてトレードに賛成する。

 見た感じ、眼下の地形はEoGの都市マップに近い。隘路や遮蔽物が多い地形は私の得意とするところだが、初見マップは事故の可能性も高まる。ゲームならリトライして死に覚えすればいいが、現実でそういうわけにはいかない。


「ぬう、ニトロ殿までそうおっしゃるなら致し方ない……」

「そうそう、さっさと戻るっすよ。けど、諦めたわけじゃないっすからね。お宝の匂いがぷんぷんするっす!」


 ハイヤーンさんが納得してくれてほっとする。C4は遭遇戦に向く武器ではないのだ。探検にはわくわくするけれど、身の安全には代えられない。


「で、帰り道はどこっすかね?」

「そんなことは同じ装置を起動すればよかろう」

「だーかーらー、その装置ってどこにあるのかって聞いてるんすよ」

「それはこの近くに……」


 辺りを見回すが、バルコニーにはもちろん、部屋の中にもそれらしい装置はない。ひょっとしてこれって……


「か、片道だった……?」

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