第22破 砦はもちろん爆破する!
「装填よーし!」
木の根が絡み合って出来た砲身に、森から
「仰角45度! 12時の方向ママ! 発射3秒前、2……1……発射ァ!」
ぼっごぉぉぉおおおん!
ひゅうううぅぅぅ……
どどん!
砲口が火を噴き、丸太が発射され空中に弧を描く。着弾地点はヨツメの砦の手前50メートルほど。丸太は地面に弾かれると、断崖から転がり落ちていった。
「仰角50度! 方向ママ!」
「はいはい、これくらいの角度でいいのかしらぁ?」
「ばっちりです! ありがとうございます!」
砲身を作り出しているのはヒナゲシさんの植物魔法だ。
大砲と言えば金属製という印象が強く、そしてそれは正しいのだが、歴史を紐解くと木製の大砲がしばしば登場する。資源、技術的な問題で作れないときの代替手段だ。日本でも戦国時代、そして時代が飛んで幕末やさらに日露戦争でも使用された記録がある。
丸木をくり抜き竹のタガなどで補強して作るのだが、ヒナゲシさんの魔法で出来た砲身は木の根っこが複雑に絡み合っているため補強の必要がない。その上、発射のたびに修理もできるから暴発の恐れも低い理想的なものに仕上がった。
そして発射に用いる火薬はもちろんC4である。遠隔起爆式のC4を丸太のお尻に貼り付けているのだ。爆発によって生じるガスが砲身内に閉じ込められ余すことなく推進力に変換されるため、裸で丸太を飛ばすよりも遥かに長い射程が得られるという仕掛けだ。
「第2射、3秒前! ……2……1……発射ァ!」
ぼっごぉぉぉおおおん!
ひゅうううぅぅぅ……
どずん!
よし、2射目にして見事命中だ。砦の壁に丸太が突き刺さり、その周りが崩れ落ちている。ヨツメたちが巣を突かれたアリのようにパニックを起こして駆け回っていた。
「すっごぉい……本当に届いちゃった……」
「あんな丸太をぶち込まれちまったら、たまらんでしょうなあ」
「ふふふ、ニトロの本領はまだまだこんなもんじゃないっすよ!」
唖然としているヒナゲシさんとディノさんに、トレードが胸を反らしている。
あまり期待値を上げすぎないで欲しいなあ。まあ、確かに本番はこれからなんだけど。
「次弾装填! 弾頭セット! 仰角、方向ママ! 3、2、1……発射ァ!」
ぼっごぉぉぉおおおん!
ひゅうううぅぅぅ……
どずん!
先ほどとほとんど同じ場所に丸太が突き刺さる。
かーらーのー……
どっごぉぉぉおおおおん!!!!
着弾地点から爆炎が爆炎が吹き出し、広範囲が崩れ落ちる。灰色の煙が立ち上ると、それが雨雲かのように石塊がぼとぼとと辺りに降り注いだ。
くくく……これぞ百八のC4技のひとつ<丸太飛ばし・爆 with 異世界魔法>だ。発射する丸太の先端に時限式のC4を取り付けることにより破壊力を高めた技だ。立てこもった相手を建物ごと吹き飛ばすために開発した技である。
「さあ、どんどん行きますよ! 発射! 発射! 発射ァ!」
「ま、待ってぇ!? お姉さんの魔力が持たないわぁ!」
「魔力枯渇には<真祖・ハジケマメ>! おひとついかがっすか?」
「ああ、頂くわぁ。もぐもぐ……ふぅ、生き返るわねえ」
そういえばヒナゲシさんがハジケマメを試食したとき、魔力が漲るなんていってたっけ。ゲームに例えるならMP回復アイテムってところだろうか。
C4付き丸太を角度を変えながら釣瓶撃ちにし、砦を端から吹き飛ばしていく。爆音にヨツメの甲高い悲鳴が入り混じる。10発も撃ち込んだ頃には、回廊の出口には瓦礫の山が残されていた。
「よし、せっかくだから瓦礫もふっ飛ばして整地しちゃおうかな」
「はぁ……はぁ……ストップストップ。こんなところで十分でしょぉ。お姉さんももういっぱいいっぱいだわぁ」
調子に乗ってぽんぽん撃っていたら、ヒナゲシさんからギブアップが入った。木砲が萎れ、地面に吸い込まれるように消えていく。いかん、うっかり夢中になってしまっていた。
ヒナゲシさんの指示で待機していた冒険者たちが回廊に突入し、砦の残骸を確保。そのまま周辺に散ったヨツメの掃討を進めている。統制も防御拠点も失ったヨツメはろくな抵抗もできず冒険者によって追い散らされ、駆除されていっている。
「さぁて、これでようやくヨツメも片付いたわぁ。ニトロちゃんもあんな大魔法を連発して疲れたでしょ。ひとまずゆっくり休んで……って、ぜんぜん疲れてなさそうねぇ」
「は、はい。とくには……」
C4を作るのに体力を使ったりはしないからなあ。一方で、この世界では魔法を使うと疲れるのがどうやら常識らしい。MPゲージとスタミナゲージが共有なのだろうか?
いや、何でもかんでもゲームに当てはめるのはよくないな。これは現実の世界なんだから。
「お姉さんも魔力には自信のある方だったけど、これは驚いたわねぇ。トレードちゃんが大魔法使いって呼ぶのも納得だわぁ。ねぇ、あなたサウスゲイトの冒険者にならない? 最初から金級にしてあげるけどぉ」
「ちょっと! 引き抜きなんてダメっすよ!」
「うふふ、冗談よぉ。怒ったらやぁだ」
毛を逆立てるトレードに、ヒナゲシさんがひらひらと手を振る。トレードがこんな風にあしらわれるなんてびっくりだ。
「怒ってなんかないっすよー。ただ、真祖ハジケマメはキャンペーン期間が終わったので値上げするっすね」
「ええっ!? そんなのはひどいわぁ」
「ふふふ、冗談っすよぉ。本気にしちゃ嫌っすねえ」
と思ったら、すぐにやり返してた。やっぱり一筋縄じゃいかないなあ。
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