3章 夕暮れの領域と蒼の城

【3-0】天邪鬼(キリヤside)

『あんた、ちゃんとコハクちゃんを見ているのかい?』


 ある時そうアンナから言われた事があった。

 最初は俺の知らぬ間にコハクが悪戯でもしたのかと思ったが、今思えばあれは俺とコハクの関係に対する忠告だった。

 だが、それに気づいたのは遅く、思い出した頃にはもうコハクあいつはいなくなっていた。


 ……そう。俺はいつだって、逃げてばかりいる。

 親父みたいになりたくないからと言って、けど本心の何処かでそれを望む自分がいて。

 結局役目だ何だと言って線を引いて、俺はまともにコハクを見ようともしていなかったのだ。


(今だってそうだ)


 一度はつい、フェンリルあいつを息子だと言ってしまった事はあったが、あれからずっと曖昧な関係になっている。

 本当にこれで良いのだろうか? いや、これで良いのだ。

 そう無理やり納得させる自分に、「ああ、またいつものか」と感じる自分もいる。


(めんどくせぇ。非常にめんどくせぇ)


 どいつもこいつも、そして自分もすごく面倒だ。

 けれどももう。そろそろ俺は変わるべきではないのか?


 そう思って自宅の廊下に立ち止まると、深く息を吐き、ある部屋にしまわれた神器を取りに向かったのだった。

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