若返った！ 追放底辺魔術師おじさん〜ついでに最強の魔術の力と可愛い姉妹奴隷も手に入れたので今度は後悔なく生きてゆく〜

第71話 ジェシカ、圧倒す！

映像スフィアの中から、開戦のゴングが鳴り響く。

　早速、マイクはその手に赤い炎を宿し、それをジェシカへ向けて放った。

　一瞬、闘技場の地面が赤い炎に彩られる。

しかし、その炎の中にジェシカの姿はなし。

「ーーっ！？」

　マイクは驚愕を顔に浮かべ、空を仰ぎ見た。

　そこには高く舞い、レイピアの鋒を鋭く向けるジェシカの姿が！

　マイクは慌てて、障壁を展開し、ジェシカの鋭い突きを凌ぐ。

しかし、ジェシカの力が強かかったためか、体勢を崩す。

　そんなマイクへ綺麗に着地したジェシカは、再び素早い突きを繰り出す。

「は、早ぇっ……！」

　マイクとて誉ある王国魔術師。

　冷や汗を浮かべながらも、的確に障壁でジェシカの突きを防いでいる。

「うふ……やっぱり王国魔術師の障壁は硬くてご立派ね！　なら！」

　ジェシカは腕を引く一瞬で、レイピアの刃へ指を滑らせる。

すると指の動きに応じて、刀身が紫色の輝きに包まれる。

「これならどうかしらっ！」

「なっーー！！」

　暗色に輝くジェシカの剣が、マイクの障壁をまるでガラス細工のように突き崩した。

　マイクはすぐさま複数の障壁を多重に発生させ、ジェシカの攻撃を凌ぎきり、彼女との距離を置く。

「あっぶねぇ……！　にしても、まさか魔法剣を使うだなんて……しかも闇属性……てぇことは……くっそぉ、トーガのやつぅ……！　ジェシカさんともぉ……！　俺、ジェシカさんファンだったんだぞぉ……！」

　どうやら"察した"だろうマイクは、実に羨ましそうな表情で歯を食いしばる。

　しかしマイクがジェシカのファンだったとは、そっちの方が驚きだった。

「ああ、もうくそぉ！　ジェシカさんだからって遠慮してたけど、これからは本気だぁぁぁぁぁ！！！」

　マイクは己の中にある魔力を高めた。

　長い詠唱を用いて、彼の得意とする炎の精霊サラマンダーの力をその手に集約してゆく。

マイクの周囲で演舞を披露する女型のサラマンダーがうっすらと浮かんでいる。

　そんなマイクを見て、武闘大会の係員たちは慌てて会場の端々へ駆けてゆき、観客を守るための魔法障壁を展開し始めた。

「うふ、マイクくんもちょっとは精霊を具現化できるのね。さすがは王国魔術師……だけど！」

「いっけぇー！　ハイマグマボォォォルゥゥゥ！」

　溶岩を彷彿とさせる赤い火の玉が、豪速でジェシカへ突き進む。

　ジェシカは臆した様子を全く見せず、剣を構える。

彼女の口元は、まるでハーディアスのような笑みが浮かべる。

彼女の背後へ、大鎌を持ち、黒ローブを羽織った小柄な精霊が一瞬浮かび上がったように見えた。

「う、嘘だろぉ！？　上位魔法を切り裂いたぁ！？」

　ジェシカの剣で、あっさりとハイマグマボールを切り払われたマイクは驚愕の声を上げる

「し、しかも一瞬、なんかハーディアスっぽいのがジェシカさんの後ろに見えたような……？」

「あら、そうなの？　まぁ、確かにあの子は、意外と寂しがり屋だっからねぇ……」

「まさか、ジェシカさん、ハーディアスと契約を！？」

「契約なんてしてないわ。だけど、そうね……彼女とは裸の付き合いをした、親友とでもいうべきかしら？」

「なんじゃそりゃ！？」

「さて、次はこっちの番よ！　これで終わらせてあげるわ！」

　ジェシカは暗色に輝くレイピアを地面へ突き立てた。

瞬間、剣から黒い霧が溢れ出て、あっという間に闘技場をそれが包み込む。

やがてーー

「あがっ！　くわっ！？　あがぁぁぁぁーー！」

　黒い霧の中に幾重もの紫の軌跡が浮かび、マイクの悲鳴が湧き起こる。

　そして霧が吐け、視界がクリアになると、情けなく地面に突っ伏しているマイクの姿があった。

「これが暗黒剣が一つ"闇の舞"よ。もし、私のような相手が現れた時の参考にしてね！」

「ジェシカさんのような、完全にハーディアスの力を使いこなす暗黒騎士なんて、そうそういるはずがない……ぐふっ……」

　マイクが完全に伸び、終了のゴングが響き渡る。

　一回戦を見事な勝利で飾ったジェシカへ、観客は熱狂的な歓声を送る。

　それはディフェンディングチャンピオンとして王の下段の席で観戦をしていたガトー・ガナッシュも同様であった。

「ジェシカさんすごい！　と、いうことは……トーガ様、相当濃く、ジェシカさんへお力を授けたんですねぇ？」

　と、一緒に映像スフィアでジェシカの様子を観戦していたパルが、そう漏らす。

ちょっと視線が怖い……

「いや、あの力は俺だけではなく、ハーディアスがだな……」

「闇の精霊とも！？」

「あ、あ、いや、それはアイツが急に現れて、それで……」

「むぅ……今夜は寝かせませんからね！　覚悟していてくださいっ！」

　ある意味嬉しく、そしてゾッとする宣言がパルから下されたのだった。

「では、今夜のためにもちゃっちゃとお仕事を済ませてしまいましょう！」

　パルが元気よく立ち上がり、ズンズン闘技場の外周を進んでゆくのでついてゆく。

　やがて彼女は、会場の裏口を警備している王国騎士の前で立ち止まる。

「警備の参加を申請したパル・パ・ルルとその一行です！　今回は我が主、王国魔術師のトーガ・ヒューズ様も加わってくださいます！」

　パルが俺の名前を出した途端、警備に当たっていた王国騎士たちは背筋を伸ばす。

「お疲れ様です！　大会へ参加せず、警備に加わっていただき感謝の極みです！　皆様はどうぞ、ご自由に会場を回っていただき、警備に当たってください！」

　なるほど……たしかにこういう立場に置いてもらった方が、色々と探索がしやすい。

　さすがはパルだと思った。今夜はこの分も含めて、ウンと彼女にサービスできればと思う。

　そうしてなんなく、闘技場の内部に入ることのできた俺は、さっそくモニカへ視線を寄せる。

「準備はいいな？」

「うんっ！　任せて！」

　元気よくそう受け応えたモニカは、手始めに近くにあった柱に触れ魔力を解放し、物質念写（サイコメトリー）を開始する。

「なにか見えたか？」

　物質念写を終えたモニカへ問いかける。彼女は首を横に振るだけだった。

「ここじゃないみたい。もうちょっと奥へ行ってみない？」

「そうだな。では、モニカはそのまま物質念写に集中してくれ。パルとピルは俺と一緒にモニカの護衛だ！」

「了解です！」

「はーいっ！」

　そうして俺たたちはモニカを守るように陣形を汲み、会場施設の奥へと進んでゆく。

「あっ……！」

　やがて、壁に触れていたモニカが、何かに気づいたそぶりを見せた。