第57話 モニカへのプレゼント
「くれぐれも気をつけてくれよ」
「ありがと! 気をつけるね! それじゃ行ってくるね!」
モニカは光の障壁で全身を覆いつつ、コインの嵐の中へ飛び込んでゆく。
途端、無数のコインが障壁にぶち当たり、無数の甲高い衝撃音と紫電を浮かべ始める。
「お、おい、あれ大丈夫なのかよ……?」
さすがのマイクも、この状況に驚きを隠せないでいる。
「大丈夫だ。問題ない」
なにせモニカは昨晩からずっと、俺の恩恵を受け続けているのだ。
彼女の中に蓄積された魔力は相当な量なので、障壁が簡単に破られることはない。
そして、こうして危険を冒してでも、コインの中へ飛び込んだ最大の理由はーー
「……」
モニカはコインの嵐に屈せず、静かに息を吐き、意識を集中させ始めた。
どうやら
『フライングコインって、操ってる本体を探し出せば良いんだよね? だったら、あたしがあの中に飛び込んで、物質念写をするのが良いんじゃないかな? なにせここのコインは、みんなの願いのこもったものだからさ!』
この状況が始まる前、モニカは自らそう提案してきた。
確かにこの大量のコインの中から、コインに擬態した魔物を探し出すのは容易ではないというか、全てを吹っ飛ばす以外ほぼ不可能だ。
しかし、モニカの物質念写の力を使えば、本物のコインであれば誰かの想い願いが刻まれていて、逆にそれを一切感じないものは本体になるという寸法だ。
本来、こんなに一気に物質念写をしてしまえば、能力者の精神はあっという間に崩壊してしまう。
だがモニカは、先ほど自らが進言した通り、天空神の加護を受けている。
故に、情報量は多いものの、精神が崩壊することはない……と、モニカ本人は言っていたが、それでも少々心配しているのは否めなかった。
「これだぁー!」
と、俺の心配を裏腹に、モニカは元気な声を上げつつ、腕を振り一枚のコインをキャッチ。
そのコインはまるで生き物のように、モニカの手の中で蠢いている。
「大人しくしなさあーいっ!」
モニカは掴んだコイン型の魔物へ、魔力を流し込んだ。
魔物がモニカの手の中で粉々に砕けると、コインの嵐が、雨に変わって、石畳へ一斉に降り注ぐ。
「ト、トーガくん! 今だよっ!」
「行くぞ、マイクっ!」
「お、おうっ!」
俺はマイクと共に枝道のあるトレバの泉へ接近を試みる。
すると水中の枝道から、ケルベロスが飛び出してきた。
「邪魔だぁ!」
発生したケルベロスの首を風の刃で跳ね、それを足蹴にして一気に飛び上がり、泉の中に浮かぶ黒い渦ーー魔空の枝道を視界に収める。
「
『ウケタマワルゥ!』
現出したハーディアスが泉へ飛び込み、黒衣を翻す。
黒衣は泉の水のみを弾き飛ばし、底に開く枝道を露わにした。
「いまだ、マイクっ!」
「ぶっ飛べぇ! マグマダートぉー!」
マイクの手から、火炎を凌ぐ熱を秘めた、赤い矢が放たれた。
それは見事、渦の中心を射抜き、枝道のみを消滅させる。
俺たち王国魔術師の目的は民の平和維持。
といって、トレバの泉のような貴重な文化遺産を傷つけるわけには行かない。
だからこそ、俺は泉の水をハーディアスに弾いてもらい、マイクに枝道のみを狙って貰ったというわけだ。
「さすがの判断だったな、トーガ・ヒューズ!」
「マイクが察してくれたからこそだ。こちらこそありがとう!」
俺とマイクはお互いを称え、拳をぶつけ合う。
そんな俺たちへ、周囲の人々は興奮とそして感謝の歓声を送るのだった。
「はぁ……はぁ……トーガくん、さっすがぁ……!」
ヘロヘロな様子のモニカが、錫杖を杖に寄ってきていた。
そんな彼女へ近づき、そっと抱き留める。
「大丈夫か?」
「……やっぱ、あの量を
体力と魔力は相応に消費をしているが、精神崩壊の兆候はなし。
しかしモニカをどこかで休ませた方が良さそうだと判断し、モニカをお姫様抱っこで抱える。
「わぁ! この抱っこ嬉しい! ありがと!」
モニカは疲れていながらも、俺の腕の中で満足そうな笑みを浮かべてくれた。
ほんと、この子は昨夜から垢抜けたことで、素直になり、すごく可愛いと思えてならない。
「それではな、マイク」
「んったく、またデートかよ! この色ぼけめ!」
「なら、お前もすれば良いじゃないか、デートを」
「ぐっ……お、俺だって、これから!」
たぶん、マイクの今の発言は強がりの嘘だと思った。
しかしそのことはあえて指摘せず、再度マイクへ頷きを送って、俺はモニカを抱えたまま、ベネテタを覆う青空へ風の魔術を使って飛び出してゆくのだった。
●●●
「少し落ち着いたか?」
「うん、だいぶ……ありがと……」
モニカは甘えた声でそう囁きながら、俺の肩に寄りかかり、キュッと手を結んで来る。
そんな彼女を俺はより身近に抱き寄せる。
モニカの休憩のために訪れた森はとても静かで、俺自身も眠気を覚えてくる。
「眠い?」
モニカはまるで若い頃のエマのように、優しい声で問いかけてくる。
「少しな」
「そ、そっか……眠いんだ……やっぱし……」
「なにか問題でも?」
「ちょっと、そのぉ……欲しいなって……トーガくんの魔力……さっき使いすぎちゃって……」
アッシュグレーの髪の間から除くモニカの耳が、先っぽまで真っ赤に染まっていた。
股の間をもモジモジさせて、何を求められているのかは容易に察しがつく。
俺とて、眠気を感じてはいるが、こうしてモニカと触れ合っていると、そうした気分になってくる。
ならば、昨夜は夢中ですっかり失念していた"あの行為"をモニカにしてもらうことにしようと思い、彼女のそのことを伝える。
「え、ええ!? そ、そんなことしたいの……?」
「むしろモニカにしかできないと思うのだが……嫌か?」
「あ、えっとぉ……そんなにそれしてほしい……?」
「ああ、すごく」
「わ、わかった……! トーガくんがして欲しいっていうのなら! が、頑張りますっ!」
モニカはいそいそと横から離れて、俺の正面へ座り直す。
そして上着を脱いで、立派な胸の谷間を俺へ見せつけてくる。
やはり、モニカの胸は、俺の知りうる限りの女性の中で最も立派で、大きい。
昨晩から、モニカにしかできないそれを、ぜひ味わってみたいと考えていた。
「じゃ、じゃあ、始めるね……?」
モニカはおずおずと俺へ立派な胸を押し当てて、願いを叶え始める。
最初こそ、辿々しさが目立ったモニカだったが、だんだんと慣れて、逆に楽しくなってきたのか、次第に俺を弄ぶようになってゆくのだった。
ーーそして、ことを終えた後、俺はずっと隠し持っていたモニカへのプレゼントを差し出す。
「わぁ! 指輪! 素敵っ!」
モニカは渡された銀の指輪をはめて、とても嬉しそうに陽の下へとかざし、それを煌めかせる。
この時のモニカの表情も、かつて本当に若かった頃の俺が、エマに同じものを渡した時と、同じような表情をしている。
「喜んでくれたのならよかった」
「うん、すっごく嬉しい! こ、これで名実ともに、あたしは、トーガくんだけのものなんだよね……?」
そう問いかけてくるモニカがあまりに可愛く、そのまま抱き寄せる。
モニカもまた、それに素直に応じ、俺たちはしばし、森の中で互いの体温を確かめ合うのだった。
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