第58話 知られてしまった過去
楽しい二日間のベネテタの旅でした。
しかもあんなにもたくさんトーガくんに抱いてもらえて、最後は指輪までプレゼントされたのです。
あたし、モニカ・レイは、幸せすぎて今にも死んでしまそうでした! ……いや、せっかくトーガくんとそういう関係になれたのですから、絶対に死にたくはないのですが……
と、そんなホクホクした気持ちのまま、あたしは2日ぶりに家へと帰ります。
すると、家のなかはシンと静まり返っていたのでした。
お母さんいないのかな……? まだ、大学にいるのかな?
とりあえず居間へと進んでみます。
すると、机の上に綺麗な箱に入った、指輪がありました。
「これ、お母さんの? こんな素敵なの持ってたんだ」
その指輪は、今日あたしがトーガくんからもらったものと、同じような形をしていました。
だからなのか、その指輪に興味をもったあたしは、それを手にします。
「ーーーーーーーーっ!!!!!?????」
途端、あたしの物質念写の能力が、とてつもない光景をあたしへ突きつけてくるのでした。
●●●
「トーガ様! モニカさんがいらっしゃってますよ! ご用があるそうです。表で待っていらっしゃいます!」
館の自室で書類仕事をしていると、扉の向こうからパルの声が聞こえてきた。
俺は仕事の手を止め、部屋を出て、なぜか館の中に入ってきていない、モニカの元へと急ぐ。
「あ、おはよ、トーガくん……」
館の外で出会したモニカには、いつもの元気さがなく、初めてみた彼女のそんな表情に一抹の不安を覚える。
「ど、どうかしたか?」
「……とっても大事なお話があるの。今から、あたしの家へ来れる?」
「今からか? なら別にここでも……」
「ここじゃだめだし、今じゃなきゃ……良いかな?」
切羽詰まったモニカの様子に、俺は首を縦に振らざるを得なかった。
そうして俺はモニカが用意したであろう立派な馬車に乗り込み、一路彼女の家を目指す。
「……」
車内でもモニカは、ずっと黙っていて、どこか憂いのある横顔をしていて……これが怒りではないのはわかる。
むしろ、今のモニカの横顔に浮かんでいるのは、悲しみにも似た何かのような。
しかしそのことを、俺は言及できず、ただ静かに馬車に揺られるのみだった。
「ただいま、お母さん」
「お、おかえり! ヒューズさんも、お、お久しぶりです……」
エマは驚きと、僅かな喜びを滲ませたかのような表情で、俺とモニカを出迎えた。
どうやら今日は休日らしく、鋏で花の手入れをしていたらしい。
「お母さん、悪いけど作業をやめてもらえる?」
「ど、どうしたのよ、そんな怖い声をして……?」
「お願い」
やけに真剣なモニカの声に気押され、エマは鋏を置くのだった。
俺もまた、エマの正面へ座るよう促され、席に就く。
そしてモニカはちょうど俺とエマの間にある席に腰を据えるのだった。
「2人に聞きたいことがあって……お母さんとトーガくんってどういう関係なの?」
開口一番の衝撃的な言葉に、俺とエマは同時に驚きの声を上げてしまった。
「ど、どういう関係って何よ。あなたも知っているでしょ? ヒューズさんとは、この間の事件を一緒に捜査……」
「その前からの知り合い? なんでしょ?」
射抜くようなモニカの視線に、エマは二の句を繋げないでいる。
「それともう一つ……トーガくん、貴方は一体何者なの?」
「それは……」
まさか、モニカは俺の正体を?
しかし、急になぜ……?
「ごめん、あたし見ちゃったんだ……お母さんとトーガくんの過去を……この間、お母さんが出しっぱなしにしてた……指輪から……」
モニカは指に嵌めた、先日俺がプレゼントした指輪を覆い隠しつつ、苦しそうに言葉を紡ぐ。
「そ、それはどういう……?」
「モニカはこの間から、
モニカの代わりに、俺がエマへと説明する。
エマもその能力のことは大学校の教授として周知しているのか、それ以上そのことへの言及はしてこないのだった。
「指輪からね見えたの……今のトーガくんにそっくりな人が、泣き叫びながら、必死に手を伸ばしていて……それで、あたしにそっくりな女の子が、男の人に……男の人に、ひ、酷いことを……!」
モニカは顔色を真っ青に染めて、恐怖のあまりか体を震わせていた。
どうやら、モニカはかつて、俺がエマへプレゼントした指輪から、二十数年前の惨劇を見てしまったらしい。
なら、これ以上、あんな記憶の話など、モニカの口からはさせられない。
「エマ、もう、ここまでバレているんだ。話しても良いな?」
そう問いかけると、エマは暗く沈んだ表情で、首を縦に振る。
次いでモニカへ視線を移し、彼女の見てしまった俺とエマの過去と関係を、俺自身の正体を口にし始める……。
「モニカ、一つ先に行っておくけど、貴方はお父さんと私の子供よ。貴方が見てしまった、あの事件とは関係ないからね?」
俺が話し終えるや否や、エマはすぐさまそうフォローを入れる。
「ありがと、お母さん。でも、ちゃんとわかってるから大丈夫だよ。トーガくんの話が何年前のことで、そこからあたしの年齢を加味して計算すれば、あたしのこの命が、あの事件と関係ないってわかるから。あたしは、お母さんとお父さんに望まれて生まれた子供だってわかってるから……」
こんな衝撃的な場面であっても、モニカは冷静だった。
この子は、本当に逸材なのかもしれないと、こんな状況ながら感心してしまう。
「やっぱり、トーガくんとお母さんって、そうだったんだ。でもなんとなくわかってたよ……」
モニカは寂しげな声が、俺の方へ向けられた。
「しかし、モニカ、誤解しないでくれ。別に俺は君を若い頃のエマの代わりだと思って、あのようなことをしたわけでは……」
「そこはわかってるよ。あたしが言いたいことは、そんなことじゃない……」
ずっと俯き加減だったモニカが、ようやく顔を上げる。
そこに浮かんでいたのは、悲しみを孕みつつも、どこか嬉しそうな、不思議な表情だった。
「よ、よかったね、トーガくん、お母さん! あんなことがあったのに、2人がまたこうして巡り会えて……!」
モニカの意外すぎる発言に、俺とエマは同時に息を呑む。
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