第53話 モニカとデートを……だがしかし!?
「ありがとう。今日は誘ってくれたことをありがたく思っている」
「あ、うん、最初はごめんね。断ったりして……」
デートの集合場所である、街の噴水前へ行くと、モニカは開口一番にそう謝罪を述べてきた。
どういう心境の変化かはわからないが、モニカは俺とのデートの提案を受け入れてくれたのだ。
「じゃあ行こうか!」
「うんっ! 今日は1日よろしくねっ!」
俺はモニカを伴って、街の中へ繰り出してゆく。
自然とお互いの身体的な距離が近いのは、心の距離の短さも示しているのだろう。
ニコニコしているモニカを最初に連れて行ったのはーー
「わぁ! ここすごいっ! 雰囲気あるっ!」
最初に彼女を案内したのは、おじさん時代にお世話になっていた、路地裏にひっそりと佇む古い魔本屋だった。
「よくこんな良いお店知ってたね?」
「昔からの馴染……ああ、いや、この間たまたま見つけて……モニカなら喜んでくれるかなと」
そういうとモニカはほのかに頬を上気させ、微笑むと、迷わずやや埃の被った魔本の数々へ興味津々な様子で手を伸ばしてゆく。
どうやら存外にこの店のことを気に入ってくれたらしく、俺は内心でホッと胸を撫で下ろしていた。
ここでモニカは予想外に時間を使いーー
「半分もつよ……?」
「いや、これぐらい……ぐっ……!」
今、俺の背中には風呂敷に包んだ、目一杯の魔本の数々が背負われていた。
これは全て、先ほどの魔本屋でモニカが選んだものだ。
「やっぱり半分もつよ! 全部買ってもらった上に悪いよ!」
「き、気にするな……! この間、大活躍してくれたモニカへのお礼の一環だ……!」
と、強がってみたもののの、やはり重く歩きづらい。
これは大変失礼な行為にあたるのだが、俺は意を決し……
(すみません、ハーディアス。少しお力をお貸しください)
『シカタナイナァ……』
俺の大変失礼な願いに、ハーディアスは応じ、見えない姿をすっと、俺の背中へ押し当ててくれる。
すると、背中へずしっと感じてた重みが、ふっと軽くなる。
これまで苦楽を共にしてきた、ハーディアスだからこそ頼めたことである。
そうして時間はそろそろ昼の頃合いだったので、昼食を取るべく、再び大通りを離れて、路地裏へ入ってゆく。
「わぁ! こういう雰囲気大好きっ!」
やはりモニカはここでも、とても良いリアクションをとってくれた。
案内したのは、またしてもおじさん時代に俺が大変お世話になった、路地裏にひっそりと佇む串焼き専門店。
若い女の子が1人で入るには少々アレな雰囲気である。
「さっきの魔本屋もそうだったけど、トーガくん、結構雰囲気のあるとこ知ってるんだね?」
「あ、ああ……まぁ……モニカは、こういうところが好きかなと……」
「なんか、心見透かされてみたいで、ちょっと怖いなぁ……でも、ありがと! すっごく嬉しいよ!」
モニカは言葉とは裏腹に、とても嬉しそうに微笑んでくれていた。
これは全て、モニカのことをわかっている、というよりも……彼女の母親である、エマとの記憶を辿っているに過ぎない。
(エマは昔から、こういう"おじさんくさいところが好き"だったからな……)
逆に本当に若かった頃の俺は、もっと綺麗なところが好きで、よくエマとそのことで喧嘩をしていた。
だからこそ、娘も同じ思考なんじゃないかと思い、今日のデートプランを考えたのだが、大成功だったらしい。
やはりモニカは似姿も、性格までも母親のエマによく似ている。
こうして彼女と一緒にいると、本当に若かった頃を思い出し、まるで初恋の時のように胸が高鳴って仕方がない。
「あ、あのさ……この間から、時々、あたしの顔よくみてる気がするんだけどなんで……?」
不意打ちに質問だった。
俺は珍しく狼狽えてしまう。
「ねぇ、なんで……?」
するとモニカはさらに、体が密着するかしないかの距離にまで、身体の距離を詰めてきた。
まだ体が触れ合っていないにも関わらず、彼女から暖かい熱のようなものを肌で感じた。
その熱によって蒸散したであろう甘い匂いが鼻腔を掠め、胸が激しく動悸をし始める。
「ねぇ、トーガくん……」
モニカは恥ずかしいのか、顔を俯かせ、俺の服の裾を摘み、肩を震わせている。
彼女がここまで勇気を出してくれたのだ。
それに俺も、今日こそはこの子の想いを受け止める覚悟で、ここに来ている。
そうするのは十分にデートを楽しんだ後だと考えていたが、ここまできたらもうタイミングなど……
「「ーーっ!?」」
そんな良い雰囲気をぶち壊すような、不穏な気配を察知した俺とモニカは同時に顔を上げる。
「この雰囲気は……行くぞモニカ!」
「うんっ!」
俺達は一瞬で甘酸っぱい雰囲気を霧散させ、戦うもののそれの気持ちで、路地裏を出てゆく。
そしてすぐさま、大通りの上空に浮かぶ黒い渦ーー魔空の枝道の存在を確認する。
ここ最近、やけに枝道の発生が多い気がする。
これが何かの前触れでないことを、祈るばかりだ。
「トーガくん、なにかくるよ!」
モニカの声を促され、意識を枝道へと戻す。
そしてそこから現れたのは、二対の首と、蛇の尻尾を有する凶悪な魔獣。
「オルトロスか……」
テュポーンの眷属で、奴ほどではないないものの、上位の魔獣が姿を現す。
しかも1匹ではなく、次々と魔空から現れ、その数総勢10匹以上。
勝つこと自体は、今の俺とモニカでは容易だが、しかしそれでも街への被害は免れない。
ならばーー
「モニカ、準備はいいな?」
俺は背中から魔本を下ろし、代わりに"王国魔術師"の存在を表す、紫のマントを羽織る。
途端、絶望に沈んでいた近くの人々から歓声があがった。
「うん、いつでも!」
言葉少なくとも、すっかり俺の意思を汲んでくれるようになったモニカはひしっと俺へ寄り添ってくる。
準備が完了した俺は、まず空へ向かって、暗色の魔力の塊を放った。
これですぐにここへ騎士団か、王国魔術師の誰かが駆けつけて、枝道自体は潰してくれるだろう。
そうして準備を済ませた俺は、
「さぁ、一気に行くぞ!」
魔力経路が魔力で満たされ、身体中から光が溢れ出て、真昼にも関わらず辺りを明るく照らし出し。
その輝きは俺を中心に広がり、俺たち2人を、そして発生したオルトロスたちの姿をかき消してゆく。
発動した転移魔術は、俺たちもろとも、オルトロスを遠くの、いくら魔術をぶっ放しても問題ない岩場へと移動させる。
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