第52話 モニカの決断<モニカ視点>

「はぁ……もう、あたしのばかぁ……せっかくのチャンスだったのにぃ……」


 あたし、モニカ・レイはトーガくんと別れた後、街の公園の中で、すごく後悔しているのでした。


 何に後悔をしているのかというと……



『俺とデートしてくれないか?』



 今日トーガくんはそう言ってくれました。


 その瞬間、あたしは『じゃあ……!』と、言いかけたのですが、口をつぐみ、逃げるように彼のところから走り去ったのでした。


「やっぱり、パルさんやピルちゃんに悪いよなぁ……」


 そうしたのはやっぱり、ルル姉妹に悪いと思ったからです。


 あの2人とトーガくんが深い愛情で繋がっているのは、側から見てもわかります。

そんな2人を差し置いて、あたしがデートに誘うなどあってはならないことです。

 あたしはあくまでトーガくんの仲間で、友達で、好きな人で……でも、その好きな人にはもう恋人がいて……


 あたしはルル姉妹のことも大好きです。

これからもずっと仲良くしてゆきたいと思ってます。

だから、そんな2人からトーガくんを誘惑するような真似はしたくはないのです。


 でもこうして1人になると、ダメだとはわかっていても、やっぱり"デートはしたかった"と思う、訳のわからない思考なあたしでした。


 それに今日、どさくさに紛れてトーガくんにおっぱい揉まれて、その感触が忘れられないあたしは、今とてもウズウズしています。


「はぁ……もう……トーガくんのばかっ……」


 ルル姉妹のことを考えて、これからもあたしはこの想いを現実では封じることでしょう。

でも、大丈夫。あたしの中には、イマジナリートーガくんがいて、そんな彼とエッチをしている風に、あたしは毎晩1人で……


 さっさと帰って、1人でこのムラムラを解消したい。

そう思って帰路に着こうとした時のことでした。


「こんばんは、モニカさん!」


「モニモニやほー!」


「パルさん!? ピルちゃんも!?」


 なぜか突然、現れたルル姉妹はあたしを挟むようにベンチへ座り込んできます。

普段は一緒にいて安心できるこの2人なのですが、今日に限っては少々居心地の悪さを覚えます。


「どうしてあたしがここにいるって……?」


「もうどれだけ長く一緒にいると思っているんですか? 今の私が本気を出せば、モニカさんがどこにいたって探しだせるんですから」


「モニモニの魔力のふんいきってどくとくだから、簡単に探せるよぉ」


 相変わらずルル姉妹は規格外だと思いました。

さすがは魔力や魔術に愛されるシフォン人。

そしてやはり、すごく実力のあるトーガくんには、ルル姉妹の方があたしなんかよりも相応しいと改めて痛感します。


「ところであたしに何かご用で……?」


「先ほどトーガ様がお帰りになったのですが、随分元気がなかったので、モニカさんと何かあったのかなと思いまして」


 さすがは長くトーガくんと一緒にいるパルさんだと思いました。


「あ、いえ、ちょっとした喧嘩というか、その……」


「トーガ様とモニカさんが? 珍しいこともあるものですね」


「そ、そうなんです。あはは! でも、大丈夫です、きっと……」


 あたしなんかよりも遥かに大人なトーガくんです。

 

 勇気を持って、普通に接すれば、きっといつものように応対してくれるはずです。


 胸に抱えたこの想いをしっかり封じて、仲間として接すれば、何もかも解決なのです!


そう決めたあたしは元気よくルル姉妹の間から立ち上がります。


「ご心配をおかけしてすみません。きっとすぐに元通りになるとおもいますから! だから……!」


「ねぇ、なんでさっきからモニモニは、そんなに苦しそうな顔してるの?」


 とピルちゃんが静かに問いを投げかけてきます。


 意外すぎるところから口撃に、胸がどきりと鳴ります。


「べ、別に、特に意味はないというか……」


「モニモニ、なんか遠慮してる」


「そ、そんなこと……!」


 さすがはいつも獣と一緒にいるピルちゃんです。

野生の勘? 的なものなのでしょうか……?


「ずっと、モニモニに聞きたいことがあった……」


「え? な、なに……?」


「モニモニはとーがさまのこと、どう思っているの?」


 これまた鋭くて、意外な言葉に驚きを隠せません。

それでもあたしは平静を容易ます。


「ど、どうって……ま、まぁ、頼りになるリーダーとか……」


「うそつき」


「ーー!?」


「モニモニがもっと別の目で、とーがさまのこと見てるのわたし知ってるもん! なんで隠そうとするの?」


「だ、だから別にそんな目で、あたしは……!」


 反論を試みますが、二の句が出てきません。


「どうなの!? ちがうんでしょ!?」


「いや、だから……」


「ばかモニモニっ!」


 とピルちゃんは叫びつつ、何故かあたしの胸の中へ飛び込んでくるのでした。


「……わたし、わかるもん……モニモニの苦しさ……だって、わたしも最初そうだったもん。お姉ちゃんに悪いと思って、ずっととーがさまへの気持ち隠してたもん!」


「ーーっ!?」


 意外でした。まさかピルちゃんもあたしと同じような想いをしていたことに……


「はぁ……もう……私、別にトーガ様を独り占めしたいとか、そんなこと全然思っていないんですけどね……」


 パルさんはかなり呆れた様子でベンチから立ち上がり、あたしとピルちゃんのところまで寄ってきます。


「モニカさん、もしもご自身想いを、私たち遠慮して堪えているなら、そんなのは不要ですよ?」


「そ、そうなんですか……?」


 あたしは馬鹿正直に問い返してしまいました。

するとパルさんは、その問いを笑顔で受け止めてくれます。


「もちろんです。私たちはもう家族なんですから、そういう遠慮はしなくて良いです。私の幸せは、トーガ様が幸せになってくださること。思いのままに、自由に生きてゆくことなのですから」


「そうだよ! わたしだってそう! だから、前にずっと我慢してたこと、とっても後悔した! トーガ様だって、モニモニのこと満更じゃないよ! 側で見てればわかるよ! だから遠慮しないで!」


 もはや2人にここまで言われて臆する方が失礼だと思いました。


 だからあたしは……


「お二人のお気持ちわかりました。だったら、もう遠慮しません! 好きにさせていただきます!」


 あたしはそう強く宣言をしました。


 すると、2人は笑顔でそれを受け止めてくれたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る