第51話 評価爆あがり


「いやぁ、トーガ君さすがだねぇ! あの遺跡のテュポーンをあっさりやっつけちゃうだなんて! これまで被害が大きくて、騎士団も冒険者も、僕たちもアレには手を焼いていたんだよ!」


俺が王国魔術師になってからの、第二回目の会合。

その席で、隊長のガトー様は、始まりの一言を俺への賞賛としてくれた。


「と、いうわけでトーガ君起立!」


促されるがまま、俺は下手席のマイクくんの隣で起立をする。


「みんな! 頑張ったトーガくんへ拍手っ!」


 ガトー様なりに、先日の会合での皆の俺への態度を気にしているのだろう。


 しかし、目の前にいるのは変わり者・曲者揃いの王国魔術師一同。


 そんな他人へ拍手を送るなど……とはならなかった。


 会議室中にまるで雷を思わせるかのような、拍手が巻き起こったのだ。


 さすがの俺も、この状況を隠せずドギマギしていると、突然太ももの辺りを小突かれる。


「もっとしゃんとしろよ。あとでみんなに笑われるぜ?」


 そう言ってきてくれたのは、隣の席のマイク・フレイザーくん。

とりあえず、先輩ではある彼の助言に従って、俺は背筋をピンと伸ばし、皆の拍手を一身に受ける。


そうして会合は第一回目と比べ、かなり和やかに進み、規定時間を過ぎ散会となる。


するとずっと待ち侘びていたかのか、王国魔術師3番隊の面々がわっと一斉に俺へ群がり出した。



「マイクから聞いたぜ! どうやってあの厄介なテュポーンを倒したんだ!?」


「マイクが言ってたよ! あなた、精霊の具現化をするんだって!? どうやってそこまでの魔力を!?」


「マイクから教えてもらったんだけど。お、俺さ、闇属性魔法苦手なんだ! 上手く扱うコツでもあんのか!?」


 皆、一様に開口一番はマイク、マイク、マイク、マイク尽くし。


 どうやらマイクが、色々と言いふらしていたらしい。


 現に、俺をこういう状況に追いやった赤髪ツンツンヘヤーは、ニヤニヤ笑みをこちらへ向けている。


 とりあえず、皆の質問攻めを無碍にするわけにはゆかず、答えられる範囲のことは全て丁寧に答え、応対してゆく。

そんな皆との会話を終えて、本当に会合が散会になってもなお、会議室にはマイク君が残っていた。


「ありがとう」


 まずは開口一番お礼を。

これだけ皆に良い印象を持ってもらえたのは、マイクが俺のことをあれこれと言いふらしてくれたおかげだからだ。


「あれだけの力の差を見せつけられりゃ、言いたくもなるっつーの……」


「最初の当たりと随分違うな?」


「ありゃ通過儀礼みたいなもんだ。俺だって、あれは受けたさ。他の連中もな。で、そこで萎縮しちまったらそれで最後。いくら王国魔術だからって、そいつは底辺確定だ。でも、トーガはあの時ちゃんと俺らへ言い換えた。だから、そこでまずは加点一点。で、あの戦いざまときたもんだ。素直にすげぇと思ったぜ、俺はお前のことをよ!


 王国魔術師は曲者揃いだと思っていたが、中に入ってみれば案外そうではなかったらしい。

やはり噂話というのは話半分で聞いた方が良いと思った瞬間だった。


「つーわけで、トーガ・ヒューズ! ようこそ我がが王国魔術師3番隊へ! これからも一緒に国の、民のために頑張ろうぜ!」


「ああ!」



 俺はマイク君が差し出してくれた手を、しっかりと握り返す。

瞬間、心に満たされるものを感じる。


……思い起こせば、俺はずっとこういう"友情"のようなものに飢えていたのかもしれない。


 本当に若かった頃、俺の友達といえばエマくらいだった。

そんなエマとあんな事態に巻き込まれ、そこから自暴自棄になり……だから、こうして同性の友人ができたことなどなかったのだ。


せっかく若返ったのだから、こういうこともしっかりとやり直す。そう心に決める。


「と、いうわけでだ……そのぉ……トーガに聞きたいことがあって……」


 急にマイクは先ほどの堂々とした態度から一転、モジモジし出す。


「なんだ? 遠慮なく聞いてくれ」


「じゃ、じゃあ! あ、あのよ! おめぇ、もしかして、したことあんのか……?」


「したことととは?」


「いや、だからよ、あ、アレだよ! アレ! お前シフォン人の姉ちゃんや、この間連れてきた、赤目の神官ちゃんとそのぉ!」


 なるほど。マイクはかなり若いし、そういうことに興味があるお年頃なのだろう。


「秘密だ」


 だがあえて、質問を一蹴する。

俺に、そういった経歴を言いふらす趣味はない。


「なんだよ、ケチるなるよ! 教えろぉ!」


 それでもマイクは馴れ馴れしく食い下がって来たので、


「ま、まぁ、経験はあるな……」


「やっぱり! で、どうなんだよ!? 実際!?」


「ぐぅ……」


 さすがにこれ以上、言葉を出すとボロが出かねないと危惧する。


 そう切り抜けるべきか、考えていた時のことーー


「あーいたぁ! トーガくん、何してんの!? あたし、ずっと待ってたんだよ!」


 と会議室へやってきたのは、モニカだった。

そういえば、この後、彼女のたっての願いもあり、王城の図書館を利用することになっていた。

普段は王宮の者や、騎士団、王国魔術師しか利用できないのだが、俺と連れとなれば一般人でも利用が可能となるからだ。


「待たせてすまなかった。行こう。それじゃあまたな、マイク!」


「んったく、またデートかよ……今度ゆっくり話聞かせてもらうからなぁ!」


 そう叫ぶマイクへ俺は別れの挨拶がわりに手を掲げ、モニカと共に会議室を出てゆく。


「なんか、ずいぶん仲良くなったんだね? だって、この間の戦いって、一応あの人との決闘だったんでしょ?」


図書館へ向かう道すがら、モニカが苦笑い気味に、そう聞いてくる。


「どうやらあの時の戦いぶりをみて、マイク達は俺のことを王国魔術師として正式に認めてくれたみたいなんだ」


「そうなんだ! それはよかったね!」


 とはいえ、あの成果は俺だけのものではない。


 モニカが神聖術師として立派に成長しかたからこそ、あの大勝があったのだと思う。


 それに、


「王宮の図書館ってどんな本があるのかなぁ! 楽しみだなぁ!」


 こうしてニコニコ笑うモニカの横顔は、まさに若い頃のエマそのものだった。


 そうした今と、過去の甘酸っぱい記憶が、自然と俺の胸を高鳴らせている。


 それほど俺は、このモニカという少女に心を惹かれているし、この子もひた隠しにはしているが、俺のことを……


「ト、トーガくん、さっきからあたしの顔ばっかみてどうしたの? ちょっと恥ずかしいよ……」


 モニカは朱が差した顔を、俺から背けた。

そして足早に俺から少し距離を置こうとする。


俺は咄嗟にそんな彼女の手を取った。


「モニカ、話がある」


「な、なに? 急に改まって……?」


「俺とデートしてくれないか?」


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