第50話 成長したモニカの実力
「ガアァァァァァ!」
俺とモニカの飛行に気づいたケルベロスが跳躍し、鋭い犬歯を向けてくる。
「……っ!」
すると俺が風の魔術で吹き飛ばすよりも早く、モニカが錫杖から放った光波弾が、ケルベロスを撃ち落とす。
「露払いはあたしに任せて! トーガくんはテュポーンの討伐に集中を!」
「わかった。よろしく頼む!」
始めてこうやって身を寄せって戦った時よりも、モニカは格段に成長し、頼もしくなっていると実感する。
俺はお言葉に甘え、モニカに雑魚の一切合切を任せ、飛翔を続けることとした。
すっかり頼もしくなったモニカは、適宜障壁を展開しつつ、各個魔物を光波弾で冷静に殲滅している。
やはり彼女をパルに預けて、無理矢理にでもSランク冒険者の依頼へ連れ回してもらって良かったと感じている。
「ぐわあぁぁぁぁーーーー!」
と、そんな中、孤軍奮闘をしていたマイクくんが、テュポーンの尻尾攻撃をモロにくらい、吹っ飛ばされていた。
さすがの王国魔術師でも、あの速度で地面か瓦礫に叩きつけられれば、一瞬で
(ハーディアス、頼みます)
『シカタナイナァ……!』
頼みに応じてくれた闇の精霊ハーディアスは、俺から離れ吹っ飛ぶマイクくんのところへ飛んでゆく。
そして、今まさに瓦礫にぶつかりそうになっていた彼を、黒衣で受け止めた。
「ひぃっ!? な、なんだよ、この変な感覚!」
受け止められた途端、マイクくんは顔を真っ青に染めて、心底恐ろしそうな悲鳴をあげた。
いきなり目の見えない存在に受け止められ、さらにそれが恐怖など司るハーディアスの化身なのだ。
驚いたり、自然と恐怖心を抱くのは無理からぬことだろう。
「マイク・フレイザー! もう限界ならば、そこで大人しくしていろ! テュポーンは俺が狩るっ!」
マイクくんの頭上を飛びながら、そう言い放つ。
「くっ、くそぉ……! このマイク・フレイザー様が、なんて無様な……!」
彼はとても悔しそうに地面の砂を握りしめるも、立ち上がる素振りは見られなかった。
俺は相変わらず飛行に専念し、モニカに露払いをしてもらいつつ、テュポーンとの距離を詰めようとする。
しかし案外、敵が生み出した眷属の数が多く、なかなか近づけないでいた。
「あのさ、トーガくん、もうちょっと加速することできる?」
モニカが冷静にキマイラを光波弾で撃ちながら囁きかけてきた。
「可能だが?」
「じゃあ、最大加速でこのまままっすぐ飛んで。あたしがなんとかするから!」
「了解だ!」
モニカに言われるがまま、俺は飛行を加速させる。
そして俺にしがみついているモニカは、静かに祝詞を読み始めた。
「いと慈悲深き天空神様へ祈ります……どうか我々へ其のお力をお貸しください……我らを守る、奇跡のお力を……!」
今祝詞を読むモニカの姿は以前の比ではなく、まさにSランク冒険者に相応しいと思う立派なものだった。
「行きますっ!
かつての数倍の輝きと防御力を持った光の障壁が俺とモニカの周囲全てを取り囲んだ。
この障壁を纏いながら飛ぶ姿はまるで、銀の流星。
銀の流星と化した俺とモニカは、その力で無理矢理ケルベロスとキマイラを焼き、ぐんぐんテュポーンとの距離を詰めてゆく。
しかしテュポーンも黙ってはおらず、目や口から激しい火炎を吐き出してくる。
だが、その火炎さえも、モニカの障壁は完璧に防ぎ、偏向させている。
「ちょっと狙いがつけづらいね、これ。上手く魔術当てられそう?」
「無理矢理しかないだろ、この状況では……」
さすがの俺でも火炎の幕の中で、テュポーンだけを正確に狙って魔術を当てるのは難しい。
ここは発掘途中の貴重な遺跡なので、少しでも戦闘での被害を抑えたいと思っていたが、この際は仕方ない……と、考えたその時のこと。
すると突然、ボンっ!と音が上がったかと思うと、テュポーンの火炎が途切れた。
敵は頭部から煙を上げながら、怯んだ様子を見せている。
「おい、トーガ・ヒューズ! いつまでも遊んでんじゃねぇ」」
足元から、ズタボロのマイクくんがそう叫んだ。
おそらくテュポーンが怯んだのは、マイクくんが魔術で援護してくれたからだ。
「この勝負は俺の負けだ! お前の実力認めてやる! だからさっさと民に迷惑をかけるそいつをぶっ潰せぇ!」
最初はあまりいい印象を抱いていなかったマイク・フレイザーという男。
だがそんなに悪い奴じゃないらしいし、王国魔術師として誇りはきちんと持ち合わせているようだ。
俺はマイクくんが作ってくれた隙を利用し、魔力経路を暗色に染め上げる。
よろけるテュポーンへ最接近し、奴の頭部へ紫電の迸る、手のひらを押さえつける。
「
『ウケタマワルぅ!』
鍵たる言葉を受けた闇の精霊ハーディアスが、俺の魔力経路へ潜り込む。
化身の姿は黒色の暴力的な力となって、テュポーンの中へ潜り込んでゆく。
「ガッーーーーーーーっ!?」
断末魔をあげる間も無く、テュポーンの巨大な上半身が、破裂した。
肉片は全て暗色の炎に包まれ、灰から塵となって遺跡へ雪のように降り注いでゆく。
これにて討伐完了。俺たちの大勝利であった。
そんな俺とモニカへ、目下の王国騎士、冒険者、そしてマイクくんまでもが歓喜の声を送ってくれている。
「や、やったね、トーガくん……! あ、あのね……ちょっとそのぉ……」
ふと、モニカが頬を赤く染めながら、モジモジした態度を見せてくる。
「どうかしたか?」
「え、えっとね、さっきからずっと気になってたんだけど……トーガくんの手が、ずっとあたしの、その……お、おっぱいを……」
言われて始めて、左手の辺りにとても柔らかい感触があり、かなり指を沈ませていることに気がついた。
どうやらあまりに戦闘に夢中で、俺の手は自然とモニカの豊満な胸を掴んでいてしまったらしい。
「おっと、これはすまない」
「あ、うん、しょうがないってわかってるから謝らないで……」
俺が胸から手を離すと、モニカは苦笑いを浮かべる。
だがその苦笑いは不快感やそうしたものではなく、寂しさのように思われた。
(そろそろ、良いだろうか……モニカの俺に対する想いを受け止めるのも……)
今日の戦いで、モニカはかつてに比べ、とても冷静だと思った。
身体接触によるバフを加味した上で、様々な戦闘方法を提案してきたことをとても評価したい。
これはやはり日々パル達と一緒に冒険者として活躍した経験と、本人の努力による賜物なのだろう。
俺の中では、モニカはもうすっかり立派なSランク冒険者だ。
だからーー
「お、おい! トーガ・ヒューズ! 俺様の目の前でいつまでもイチャイチャしてんじゃねぇ!」
とても良い雰囲気だったのに、割って入ってきたのは相変わらずウブな様子なマイク・フレイザーくんだった。
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