第48話 王国魔術師マイク・フレイザーからの挑戦状

「おいおい、君たち、トーガ君が冒険者あがりだって舐めちゃいけないよ! この子は、この国で初めて、飛び級でSランク冒険者になったり、先日の"人の魔物化事件"を解決に導いて、みんなと同じ王国魔術師になった子なんだよ?」


 さっそくガトー隊長は俺のフォローをしてくれた。


 どうやらこの方はほんとうに、俺のことを気に入ってくれたらしい。


「あーはいはい、それは凄いですねぇ〜。まぁ、俺も? ガキの頃、ライゼンを10匹まとめてぶっ飛ばしましたけど? それに……アーサー、おめぇは、昨日なんだっけ?」


「俺に煽りを振るなよ……まぁ、俺も昨日は枝道を30程潰してはきたが……」


 と、赤髪ツンツンヘヤーの煽りを皮切りに、王国魔術師たちは好き放題に持論の展開や、無駄な会話を始め、部屋中が喧々ごうごうとした様相を呈し始める。


 さすがは実力はあるが変わり者揃いの王国魔術師達といったところか。

というよりも、この3番隊は、年齢構成的にかなり若い人材が多いので、ただお子様なだけだろう。


「ちょっと、みんないい加減に……!」


 さすがのガトー隊長も、お叱りモードに入ろうとしている。


「お前達、少し黙ったらどうだ!」


 俺が思い切って声を張り上げるとガトー隊長を始め、好き勝手に喋っていた王国魔術師たちが意外そうな顔をして、一斉に口を噤む。


 俺は臆せず、咳払いをして、一拍置く。


「突然、大声をあげてすみませんでした。しかしこのままではなにも進まないと思い、声を上げさせていただきました。もし、自分に何かある方がいらっしゃいましたら、会合のあと、個人的にでお願いします。今は会合を先へと進めましょう。そうですよね、ガトー隊長?」


「そうだね、トーガ君の言う通りだ。それとも君たちは、新人にここまで言われて、それでも好き勝手喋り続けるのかい?」


 さすがの王国魔術師達も、ここまで言われては、再び騒ぎ出す勇気などないのだろう。


「ありがとうね、トーガ君。それじゃあ……あの席へ座ってくれたまえ」


 そうガトー隊長が指示してきたのは、いきなり俺の食ってかかってきた赤髪ツンツンヘヤーの隣だった。


 そして俺が座るなり、赤髪ツンツンヘヤーの王国魔術師は、横目で俺を睨んでくる。


ーーたしかこいつは、史上最年少で王国魔術師となった、魔術大家の御曹司:マイク・フレイザーだったか……?


●●●


「おい、トーガ…ヒューズ、ちょっと待てよ」


会合が終わり部屋から出ようとしたところ、声がかけられる。

振り返るとそこには、赤髪ツンツンヘヤーのマイク・フレイザーの姿が。


まさかさっき俺が言ったことを、本当に間に受けたのだろうか……?


「何かようですか?」


「てめぇだろうが、あとでなんかあるなら話しかけろっていったのはよ!」


「ああ、ええ、まぁ……それで?」


「明日、ツラ貸せよ」


まるで盗賊か何かのような言い振りだった。

どうやら、俺はこのマイク・フレイザーとかいう、お坊ちゃんに目をつけられてしまったらしい。


とはいえ、ここで大人しく「はい、わかりました」と答えるわけにはゆかない。


 王国魔術師は冒険者以上に曲者が多い。

ここで一旦舐められれば、夢への最短ルートに支障がでてしまうからだ。


「俺は男とデートをする趣味はありません」


 と少し冗談混じりで返してみる。


「デ、デートぉ!? んなもんに、誘うかコラァ!」


 何故かマイクは、顔を真っ赤に染めて、わざとらしい暴言を吐き出す。


 冗談のつもりが、まさかこんなリアクションが返ってくるとは……どれ、もう少しマイク君とやらを揉んでみるか。


「その様子ですと、マイクさんはデートの経験がないのでしょうか?」


「そ、そんなわけねぇだろうが! お、俺は炎魔術の名家・フレイザー家の男だぞ!? デ、デートの一つや二つ……そ、そういうお前はどうなんだよ!?」


「それはまぁ……それなり……」


「トーガ様っ♩」


 なんという最高なタイミングだろうか。


 会合の後、デートの約束をしていたパルが現れ、背中から抱きついて来てくれたではないか。


 当然、さっきから随分とウブな様子を見せてたマイク君は、他人のことであるにも関わらず、まるで自分のこととのように耳にまで朱が差している。


「ご覧の通り、俺はこの後この子とデートだ」


「トーガ様、この方は?」


「同僚のマイク・フレイザーくんだ」


「て、てめぇ! 勝手に"くん"付けで呼ぶんじゃねぇ!」


 今のマイク君のリアクションから、俺と同じ考えに至ったであろうパルは、クスクスと笑い出す。

そして俺から離れるなり、マイクくんへ歩み寄った。


「ご挨拶が遅れました。トーガ様の家族のパル・パ・ルルと申します。マイク・フレイザー様、どうぞこれからトーガ様と仲良くしていただければ幸いです」


 パルがそういってニコッと微笑むと、マイクくんの顔色がますます赤らむ。


「う、ぐっ……よ、よろしく……」


 部屋で突っかかって来た時は、嫌なやつだと思っていたが、このマイクという王国魔術師は案外ウブで素直な可愛いやつと思う。


もし俺とエマが若い頃結婚をしてたら、これぐらいの歳の子供がいたかもな。


「だぁぁぁぁ! もう! 話が全然進まねぇ!だから、トーガ・ヒューズ! 明日、俺にツラかせってんだ! 俺と勝負しろ、こらぁ!」


「勝負ですか? それは禁則事項では?」


 王国魔術師は実力がある者の集まりだ。

王国側としても、王国魔術師は1人で、最低でも300人程度の王国騎士と同等の戦力とみなしている。


そんな強力な人員だからこそ、王国魔術師同士の私闘は、規則で固く禁じられている。


「はは、トーガ・ヒューズ、やっぱしらねぇんだな? さすがはダサい田舎もんの冒険者あがりだなぁ? 俺たち、王国魔術師の勝負といやぁこれよ!」


 マイク君は自慢げに、俺へ向けて巻物を突きつけてくる。


 しかしそれを俺の代わりにパルが受け取ると、また顔を真っ赤に染めるといった忙しいやつだった。


 俺はパルからマイク君の巻物を受け取り開く。


 巻物の正体は、とある強大な魔物の討伐を願う、村人からの嘆願書であった。


「俺たち王国魔術師は、国と民を守る正義の英雄ヒーロー! だから勝負と言えば、魔物の討伐に出向いて、どっちが早く狩れるか競い合うんだ!」


 巻物には討伐対象として"テュポーン"という魔物名が記載されていた。


 さすがは王国魔術師らしい、討伐対象だと思い、正直ワクワクしてしまった。

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