第46話 "あえて"王国寮に住み始めた意味
「わぁ! ここが私たちの新しいお屋敷ですか!?」
パルは目の前の大きな屋敷を見て、目をまくるして喜んでいた。
「でも、ちょっと古い感じですね」
今日の引越し作業を手伝うためにやってきたモニカの第一声がそれだった。
確かにケイキ王国は所有するこの館が古いのは否めない。
しかし、今の俺にとってはおあつらえ向きの住処だ。
なぜならばーー
「わぁ! レオパルドくん、ごぉー!」
「がるぅん! ううぅん!」
館の背後にある山さえある大きな庭では、すでにピルを乗せたソードライガーのレオパルドくんが、ご満悦な様子で駆け回っている。
ここを新しい住処として選んだ理由の一つとして、レオパルドくんのストレス軽減が挙げられる。
普通の館には魔獣が満足するほどの広さの庭などないからだ。
続いて俺はパルとモニカを伴って、館の中へ入ってゆく。
「わぁ、すごい!」
「外と全然と違って、中はすごいいい雰囲気だね!」
と、パルはもとより、外観で少々残念がっていたモニカでさえ、目を丸くしている。
長らく放置されていたここに住むことを条件に、騎士団の財力で内装はフルリニューアルさせたからだ。
「ここがパルの部屋だ」
1番目に日当たりがよく、広々とした部屋をパルへ案内する。
「わぁ! こんな良いお部屋をよろしいので!?」
「もちろん、パルには色々とお世話になっているからな」
「ありがとうございますっ! 嬉しいですっ! このお部屋の調度品、品があっていいですね! さすがはトーガ様、ナイスセンスですっ!」
そうパルは褒めてくれたが、これはほとんど金にものを言わせて、商人に選んでもらったもの……とりあえず、そのことは伏せておくこととしよう……
パルは目を輝かせながら、部屋を見て回る。
やがて彼女は、予想通りかなり大きめで豪華なベッドに目をとめた。
「なんだかこのベッド、1人用にしては随分と大きいような?」
「あーいや、だからそれは……その方が、しやすいかなと……」
ここ最近、パルとの夜伽は結構激しめなので、小さいベッドだと行為中にどちらかがよく落っこちる、といった情けない場面が散見されていた。だから、そうならないようにと、最大限大きなベッドを用意したのだ。
「じゃあ、お引越しが終わったら早速、今夜はこの上で……うふふ……♩」
「あ、ああ……そうだな……」
いくらお互い"若い"とはいえ、最近のパルは結構積極的というか、こちらがヘロヘロにされる場面が多くなってきたというか……あとでこっそりと、精力剤を飲んで置く必要がありそうだと思った。
「そういえば、ここにはモニカの部屋も用意してあるぞ」
「ええ!? あ、あたしのも!?」
そうそう、こういうモニカのリアクションが見たかったのだ。
そうして俺は突き当たりの蔵書がびっしりと詰め込まれた部屋を案内する。
「ここには古今東西の様々な書物が所蔵されている。貴重な魔導書もあるらしいぞ。」
「わぁ! これってミコト魔本の原典じゃん! あ、こっちも!」
モニカは部屋へ案内するなり、夢中な様子で書物を漁り始める。
さすがは勉強熱心な性格のエマの娘といったところか。
若い頃のエマのリアクションによく似ていて、とても懐かしい感覚を覚える。
「この本たちも、もしかしてこの館とセットで!?」
「ああ。モニカのいい学習室になると思ってな。好きな時に来て、好きなように使ってくれ。俺が居る時は、呼んでくれて構わない」
実はここに決めた第二の理由がこれだ」
そう意図を語りつつ、モニカへこの館の合鍵を差し出す。
「そ、そこまであたしのことを……! ありがとね、トーガくん……! すっごく嬉しいよっ!」
モニカは頬を真っ赤に染めながら、お礼を言いつつ、館の鍵を受け取ってくれた。
そして再び、興味深そうに書棚を眺め始める。
「トーガ様、もしかしてモニカちゃんのことも? お元気ですねぇ?」
とパルは俺の肩に顎を乗せて、にんまり笑顔で囁いてきた。
「いや、それはその……」
「うふふ、英雄色を好むと言いますし、私的には全然オッケーですよ。ガンガン行っちゃってください。私も、一度モニカちゃんの、あれ触ってみたいなって、思ってましたし……
そうパルは指摘するのは、モニカのローブの裏側からでも存在感をありありと示している"胸"の存在だ。
確かにモニカはパルやピルに比べて随分立派なものを持っているし、俺自身も彼女のソコには強い興味を抱いている。
しかし、それはパルも同じ気持ちだったとは……この子は、本当、ここ最近とてもお盛んなように感じるのだった。
というか、そっちの方面もいけるんだ、パルって……あーでも、よく3人でする時、ピルとも良くそういうことしているしなぁ……
そうして一巡、館の中を見て回ったあとは、皆で手分けして引越し作業を開始する。
特に荷物が多いわけではないが、館が広いので、移動時間など諸々で時間がかかり、ひと段落した頃にはもう、陽が傾き始めていた。
しかし時間的にはちょうど良い頃合いだった。
「パル、手土産の準備は?」
「整ってますよトーガ様。最近フルツでも評判のお菓子を用意しました」
「トーガくん、どこかあいさつにでも行くの?」
俺とパルのやり取りを傍で聞いていたモニカが疑問を呈してくる。
「ああ。実はこれからあいさつに行くところが、俺がこの館に住むと決めた1番の理由だ。よかった一緒にくるか?」
「あ、ごめん。ちょっと今日は用事が……」
用事ならば仕方ないと諦める。
「いってらっしゃいトーガ様、おねえちゃん! お家はわたしたちが守ってるよ!」
「がうぅんっ!」
「ーーっ!」
館の留守をピルと魔獣たちに任せ、俺とパルは館の敷地を出た。
そして長い、長い塀を伝って歩くこと暫く……道の向こうに立派な邸宅が見え始めてくる。
そこの頑丈そうな門の前に達した俺は呼び鈴である鐘を鳴らす。
すると、門の内側にいた衛兵が姿を見せた。
「どちら様で?」
「王国魔術師のトーガ・ヒューズと申します。実は今日から隣の王国寮に住むこととなりまして。王国魔術師のガトー・ガナッシュ様へ、一言ご挨拶をしたいと思い参上しました」
「かしこましました。その場で少々お待ちください」
そうつげ衛兵は転移魔術を使って姿を消す。
転移魔法を使える人物を衛兵として雇っているのだが、さすがと言わざるを得ない。
そうして暫く経って……
「やぁやぁ、お待たせ!」
「だ、旦那様!?」
「大丈夫だって! それにあのトーガ・ヒューズくんだよ? 危険はないって!」
と陽気に衛兵を振りきり、メガネをかけた男性がこちらへ近づき、自ら門を開けてくれる。
「いやぁ! まさかこうしてあいさつしにきてくれるだなんて、初めてで、嬉しくて自分から来ちゃったよ! さぁさぁ、どうぞどうぞ!」
ーーこの陽気な方こそ、俺の上司で、王国魔術師3番隊隊長のガトー・ガナッシュ様。
俺が"あえて"王国寮である、あの館に住むと決めたのは、この方と親しくなるためだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます