第41話 総力戦ーーそして!

「まぁ、良いでしょう。貴方が生きている必要はありません。その賢者の石によって若返った体さえあればぁー!」


 クーべは懐から複数の"人形のようなもの"が入った小瓶を取り出し、ばら撒いた。


小瓶が割れ中の人形が外気に晒されると、それはむくむくと動き出し、風船のように間に膨らんでーーあっという間に鈍色の肌をもつ人とも魔物とも取れない、不可思議な存在に成長を遂げる。


「これはホムンクルス! 錬金術は命の創造さえ可能なのですよぉ!」


「精霊の意志を無視した命の創造……これは禁忌と言われても仕方がないな」


「んふふ……しかも、これはただの人の模造品ではございませんっ!」


 クーべがまるで勝ち誇ったかのようにそう言い放った途端、目の前の無数のホムンクルスから"魔力"のような気配が発せられた。


そしてホムンクルスは一糸乱れぬ動作で腕を掲げ、そこから雷の弾ーーサンダーバレットを放ち出す。


 だがそのサンダーバレットは、スッと現れたハーディアスの黒衣によって防がれる。


「このホムンクルスは、いわば私の模造品! こうやって魔術だって行使できるんですよぉ!」


『コイツは参ったナァ……サスガのワタシでも、コレを防ぎつつ、チカラをコントロールするのは難しいぞぉ? クカカカカ!』


 まさにハーディアスのいう通りだった。


 もしも、クーべ・チュールとこの無数のホムンクルスを"ぶっ潰す"だけならば簡単だ。

冥府神乃鎌ハーディアスサイズでまとめて切り裂いてもいいし、この異常者をボン・ボンと同じく闇之監獄ダークプリズンへ堕としかっていい。


 しかし、俺はあくまで、クーべを"しゃべれる状態"で捕まえ、ジェシカさんや王国騎士団へ突き出す必要がある。


(やはり時間がかかるのを覚悟で、まずはホムンクルスを掃討したのち、クーべの捕縛に取り掛かるか……)


 そう判断し、動き出そうとしたその時のことーー


「たあぁぁぁっ!」


 満月を背景に、頭上からしなやかなシルエットが湧く。

 パルだった。彼女は一体のホムンクルスを足蹴にし、レンガブロックへ叩きつける。


「いっけぇー! レオパルドくん、ごぉー!」


「ごおぉぉぉぉーー!」


 ついで現れたのはソードライガーに乗っかったピル。

ソードライガーの鋭爪が、ホムンクルスを引き裂く。


 更に俺を神聖の力が覆い、ホムンクルスのサンダーバレットから防いでくれた。


「あ、あたし、戦闘はへっぽこだけど、トーガくんを守ることくらいはできますっ!」


 俺に寄り添ったモニカは、光の障壁を展開してくれている。


「トーガ様、大変お待たせしました! 枝道の掃討完了です!」


 パルは回し蹴りでホムンクルスを張っ倒しつつ、報告を叫ぶ。


「ご苦労。パルもモニカもな!」


「私たちはこの変なお人形を退ければ、いいんですよねっ! せぇいっ!」


「ああ、頼む」


「了解ですっ! ピル、そっちよろしく!」


「はーいっ! 踏んづけちゃえ、レオパルドくん!」


「ごおぉぉぉ!」


 やはりパルは察しが良くて助かると思った。

そして相変わらず、この子の回し蹴りは綺麗で鮮やかだが、破壊力は抜群だと思う。


「んふふ……人数が増えたなら、こっちも増やせば良いこと! この数にいつまで耐えられますかぁ!?」


 と、クーべは更に小瓶をばら撒いて、新たなホムンクルスを招聘する。

しかし、そのホムンクルスの一部は生まれる前に、圧倒的な光の渦に呑まれ、壊滅する。


「まったく……事件の重要証拠が掴めると思ってきてみたら、いきなり乱戦、しかも相手が錬金術師だなんて……私はもうただの学者なのよ?」


「お母さんっ!?」


 どうやら今の光の渦は、エマ教授の放った光属性魔術だったようだ。

これほど頼もしく、そして嬉しい救援はないと思った。


「エマ教授……ありがとうごさいます!」


「いいえ……またあなたとこうして肩を並べて魔術を行使できるの、本当に嬉しいわ!」


「しかしその……くれぐれも気をつけて下さいね?」


「安心して。もう昔見たいなヘマはしないわ……それじゃあ行ってくるわね!」


 エマ教場が爽やかにそう言い放ち、戦いの中へ飛び込んでゆく。


 ほんとエマの勇ましさは昔から変わらないな……


 更に背後には魔銃を構えた王国騎士団の歩兵連隊がずらりと並び、ホムンクルスへ向けて、無数の弾を放ち出す。


「よし! 28番隊、私に続けぇ! トーガ・ヒューズさんの援護をするんだ!」


 ジェシカさん率いる王国騎士団の切込隊が俺の傍を過り、ホムンクルスの群れへ飛び込んでゆく。


 大通りはすっかり人類対ホムンクルスの乱戦状態になってしまっていた。

しかし、この乱戦のおかげで――


『クカカカ……オマエに降り注いでいた、サンダルガの力は無くなったなぁ!?』


 ハーディアスのいう通り、皆がホムンクルスを引き付けていてくれるおかげで、俺は完全にフリーな状態に。

逆にクーべは乱戦の様子に苦々しい表情を浮かべている。


――これは好機!


 俺はすかさず魔力経路を、闇の力で満たして行く。


「死と闇を司り、夜と冥府を支配せし黒き偉大なる精霊ハーディアス……」


 力をコントロールするため、今回は敢えて詠唱を行う。

 いつもはわりと自己判断で動いてくれるハーディアスも、今は大人しく俺の詠唱に耳を傾けてくれている。


「恐れ多くも、下賎の人たる我へ、其の素晴らしき力を貸したもう!」


 掲げた腕に黒く輝く、闇の力が収束する。

俺はその腕を、クーべ・チュールへ向ける。


闇之緊縛ハーディアスハント!」


『クカカカカ! ウケタマワルぅ!!』


 黒衣のハーディアスの姿がすぐさま、無数の縄のような、腕のような形へ変化した。

それらは蛇のようにうねり、クーべ・チュールへ突き進む。


「なっーー! これは……があああぁああぁ!!!」


 闇の力によって緊縛されたクーべは、俺とハーディアスに魔力を吸われ、悲痛な悲鳴をあげている。

そんなやつを、こちらまで思い切り引き寄せる。


「はぁ……はぁ……せっかく、世界に復讐ができるというのに、あなたは……貴方という人は……!」


 まだそんなことを言っているのかと、俺はクーべに呆れて仕方がなかった。


「俺はそんなくだらないことに興味はない。俺は夢を叶える。もう2度と後悔しないためにもなっ!」


「そ、それはこっちだって同じだ! こんなところで捕まってたまるかァァァ!!!」


 クーべは絶叫と共に、眩い輝きを伴わせつつ、魔力を解放する。


 激しい魔力の渦が周囲に嵐のような風を巻き起こす。

異常な圧力が発生し、俺の足がレンガブロックを砕いて、埋まってしまう。


『ぐっ……ヌゥ……! ボ、ボウダイな魔力……吸イキレン……!』


「だ、だな、ハーディアス。だがーー!」


 俺はクーべの魔力の渦に逆らいつつ、腰のポーチから辛うじて、未だに換金せずに所持していた"竜玉"を取り出す。


「りゅ、竜玉!? まさか、貴様っーー!?」


「その通りだっ!」


 竜玉をクーべへ押し当てた途端、魔力の渦の流れが変わった。

渦が反転し、どんどん竜玉へ吸い込まれている。


 なぜ竜玉が高値で取引されているのかーー希少性や美しさも勿論ある。

だが1番の特徴は魔力を封じることができるということだ。

しかも、その量は内包していた竜の体躯に比例する。

よってーー


「あがあぁぁぁぁ!! ああああああ!!!」


 人の身であるクーべは、巨大な竜の力にどんどん魔力を吸われ、見るからに弱ってゆく。

そんなやつを見据えつつ、俺は氷に覆われた右拳をグッと握りしめた。


「さぁ、俺の夢の礎となってもらうぞ! クーべ・チュールっ!」


「ごふぅぅぅぅーーーー!」


 俺は硬い氷を纏った拳をクーべの腹へ叩き込んだ。


 そのままクーべは白目を剥き、ぐったりを首を垂れる。

そしてその瞬間、大通りを埋めて尽くしていたホムンクルスが一斉に弾け飛ぶのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る