第42話 夢への第一歩を!
「次のかたどうぞー」
「19番、トーガ・ヒューズです。本日はよろしくお願いします」
「おお! 君が! あの噂の!」
試験官各位は俺が名乗るなり、嬉々とした様子を見せた。
ーー見事、錬金術師クーべ・チュールを捕らえ、"人の魔物化事件"に貢献した俺には十分な実績が与えられていた。
そんな俺をジェシカさんは文句なく、王国騎士団付属魔術師へ推薦してくれた。
そして筆記、実技試験をパスし、ただいま最終段階である"面接試験"の最中である。
「では、トーガ・ヒューズ君、君はなぜ、王国魔術師を志したのか理由をお聞かせください」
「自分は長年の民の悩みの種である、魔空を潰したいと考えております!」
俺は面接官の質問に対して、迷うことなくそう答える。
そして着実に俺は面接をこなし、自信に満ち溢れた状態で、退出する。
「お疲れ様、トーガ君」
部屋を出るなり、真っ先に声をかけてくれたのは、俺を王国魔術師に推薦してくれたジェシカさんだった。
「わざわざ付き添っていただきありがとうございます」
「そりゃ、私は貴方の推薦人ですから。でも、その様子だと?」
「ええ、まぁ」
たったそれだけの短い言葉。
それでも、ジェシカさんを安心させるには十分な威力を誇っていたようだ。
きっとジェシカさんに恥をかかせるような結果は招かない自信がある。
「ところでジェシカさん、俺からも良いですか?」
「クーべ・チュールのことよね?」
察しが言いジェシカさんは、奴を捕らえた功績者として、現況を俺に語り始める。
とはいえ、あまり芳しい話ではなかった。
ーークーべ・チュールは錬金術師で、一連の事件の首謀者であったことは、取り調べの結果確定した。
しかしそれ以上のことを奴は語らず、騎士団内でも手を焼いているらしい。
「でも、あれだけの事件を起こした奴よ。単独犯だなんて考えられないわ」
「それは俺も同意します」
なにせクーべ・チュールはかつての俺のライセンスを容易に抹消できるほどの、力を有していた。
それは魔術の類か、錬金術の奇跡か、いや……
(おそらく奴の背後にはもっと大きな組織が関与しているのかもしれないな……)
風の噂では、異端視されている錬金術師の連中は地下へと潜り、国家転覆を狙っているという。
この事件を機に、ケイキ王国にとって錬金術師は魔空と並ぶ脅威になるやもしれない。
だが何者であろうととも、俺の夢を邪魔するものは叩き潰すだけだ。魔空を滅ぼし、パルとピルの国を取り戻し、モニカを一人前にする……そのためだけに俺はこれからもまっすぐと進んで行くと改めて心に結ぶ。
ーーそうして、王国魔術師認定試験を終え、さらに数日後……俺と俺の家族は、ケイキ王国王城の中にあった。
「トーガ・ヒューズ前へ!」
ケイキ王国の王城の中庭。
大勢の王国騎士と、現国王ショット・ケイキ3世陛下が見守る中、俺の名前が声高らかに叫ばれた。
俺は背筋を伸ばして、自由になった右足で最初の一歩を踏み出す。
そして王国騎士団騎士団長カヌレ・サブレへ跪く。
「トーガ・ヒューズよ、其方を王国騎士団付属魔術師に任命する。国家と民のため、その魔術を存分に振るうと良い!」
「はっ! 国家と民のために!」
傅く俺へ、カヌレ騎士団長は、濃い紫色をしたマントを羽織らせる。
このマントこそ、俺が王国魔術師になった証。
若がえる前からずっと欲し、そして目的にしていたもの。
「この者、トーガ・ヒューズは今日より、誉ある王国騎士団付属魔術師となった! この偉大なるものを、皆讃えよ!」
万来の拍手が贈られ、俺はその音を一身に浴びる。
ーーこれで一つの目標は達成できた。
しかし、この名誉さえも、夢の第一歩、スタートラインに過ぎない。
なにせ王国騎士団付属魔術師は、冒険者の世界など足元にも及ばないエリート集団なのだ。
王国魔術師といえばーー魔術学会の異端児、名門魔術一家の嫡子、赤ん坊の時から上位魔法を使えた天才、他所の世界からやってきたなどと噂される規格外な輩、などなど……異次元の存在が平然と存在するとてつもない場所だ。
ここで俺は地位を固め、上り詰めて行かねばならない。
何故ならば、魔空を潰すといった一大事業は、いくら能力があるとはいえ、個人では一筋縄では行かないことだからだ。
でも、きっと俺ならば大丈夫。
だって……
「おめでとうございます、トーガ様! 遂に!」
「やったぁー! とーがさますっごぉい!」
こうしてパルとピルがそばにいてくれる。
この2人があらゆる意味で支え続けていてくれる限り、どんな困難が前に立ち塞がっても、乗り越えられると思う。
「ほ、本当に……本当にトーガくん、王国魔術師に!? お、お母さん、あたし、これからどうしよう!?」
「ふふ……なら、仲間として一生懸命、モニカも頑張らないとね?」
俺はかつての思い人のエマと再会し、さらにその娘のモニカと仲間となった。
この縁にも感謝をし、そしてこうして道がつながったのだから、この2人も幸せにしたいと思っている。
(俺の2度目の人生は始まったばかり! これからも頑張るぞ!)
俺は改めてそう決意をし、王国魔術師としての生活を始めるのだった!
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