第31話 仲良くなる3人

「トーガ様! どちらへ行かれてたのですか?」


 ローレンスの元から、ライゼンの死骸の上へ戻ると、パルが出迎えてくれた。


「ちょっと野暮用でね。ところで摘出は?」


「一つは! トーガ様のおっしゃった通り、腰のあたりにありましたよ!」


 パルは綺麗に翡翠色に輝く、雷玉をこちらへ見せてくる。


 雷玉は長く生きた角竜種の体内にのみ形成される、不純物の塊だ。

しかしライゼンには不純物でも、人にとってこれは、軽い魔力を浴びせるだけで、ライトニングブレイクに匹敵する力を引き出す物凄い貴重品。


 昇段には対象討伐魔物の体を一部を提出する必要があるので、俺はパル達にこれの摘出をお願いしていた。


 この雷玉さえ提出すれば、冒険者ギルド側は否応なしに、俺たちをSランクと認定せざるを得ないだろう。


 これは認定試験を受けて、ライセンスを取得すればなれる誰にでもなれる冒険者という職業の、ある種のいい加減さである。


 だからこそ、強大な力を得た俺は、いつまでもそんな不確かな世界に居座るつもりは毛頭なく、むしろこのスキップは好ましいものであった。


「ちょっとーモニモニも協力してよぉー」


「がうぅん!」


「ううっ……ご、ごめんなさい……うぐっ……!」


 一生懸命、ライゼンの血まみれになりながら雷玉を探すピルとレオパルド君の傍で、モニカは苦しそうに呻いていた。

おそらく、こうした"生き物の解体"が初めてらしい。


 仕方ないな……と思いつつ、俺は蹲っているモニカへ近づいていった。


「ただいま」


「お、お帰りなさい、トーガくん! すみません、あたし……」


 俺が目の前に現れた途端、モニカはバツの悪そうな顔をする。

俺はあえて、厳しい表情を意識する。


「モニカ、これからもそんなんじゃ困るぞ。俺たちはこれからこうやって討伐した魔物を責任を持って解体しなきゃいけないんだからな」


「すみません……」


「でも、もし本当に難しく、無理だって思うのなら、いつでも離脱していいんだからな?」


 向かないことを続けることこそ、心に良くはない。

本当の若さがあるのなら、やり直すことは容易だ。

 おじさんだったころの俺は、そうした選択を誤り苦労をした。

だから、モニカには同じ轍を踏んではほしくないと思い、かけた言葉だった。


 たとえその結果、彼女が俺の元から離れてしまったとしても……


「い、嫌ですっ! がんばります!」


 しかしこちらの覚悟に反して、モニカは別の覚悟を見せてくれた。

やはりこの子も、エマと同じく、こうして煽るのが1番効果があるようだ。

ならば、俺も、モニカのこの選択を尊重することとしよう。


「いい心意気だ。じゃあ、まずは刃物の持ち方からだな」


「は、はいっ!」


「そんなに力むな。だから余計なところを切って、血まみれになってしまうぞ?」


「すみません……」


 俺は手取り足取り、モニカへ生き物の解体方法を教えてゆく。

当初こそ、彼女は何度も嗚咽を漏らした。

それでも一生懸命、解体を行ってゆく。

そしてだんだんと嗚咽一つ漏らさず、俺が見守っていることなどすっかり忘れて真剣な表情で解体を進め始めた。


 そんなモニカの真剣さに惹かれてなのだろうか。

自身の解体を終えたピルがモニカへ駆け寄ってゆく。


「モニモニ、いっしょにやろ!」


「あ、ありがと、ピルちゃん!」


 なんだかとてもほっこりとする光景だった。


「ひゃあぁぁぁぁーーー!」


「モニモニ、ぐしゃぐしゃー!」


と、そんな中、突然モニカが悲鳴を上げ、そんな彼女を見てピルが笑いこけている。

モニカは解体中、余計な血管を切って、ライゼンの血を浴びてしまったらしい。

それでもモニカは、袖で血を拭い、作業を継続しようとするも……


「モニカさん、そのまま!」


 モニカへ駆け寄ってきたパルは、彼女の顔についた返り血を手にしていた布切れで丁寧に拭う。


「袖で拭こうだなんて、だめですよ? お洗濯してもおちなくなっちゃいます!」


「すみません……ありがとうございます……」


「いえいえ。こちらも終わりましたので、ちゃっちゃと済ませちゃいましょうね、モニカさん!」


「は、はいっ! よろしくお願いします! パルさん!」


 こうしてパルも加わり、3人は仲睦まじく、雷玉の摘出作業を再開する。


 それにしてもパルは面倒見のいい、本当にいい娘だ。

ピルとモニカへ接する姿から、なんとなく自分自身の今は亡き"母親"を連想してしまう。


(だんだんとモニカも俺たちに馴染んできているな……良い傾向だ)


 3人に遠慮して、少し離れたところから最後の雷玉を魔法で取り出す俺は、1人ほっこりとした気分に浸っている。


 やがてモニカは袖をまくり、腕をグッと肉の中へ押し込んだ。

そして、


「と、取れましたぁ!」


「おおーモニモニのでっかぁーい!」


「よくできましたよ、モニカさん!」


 初めての摘出を褒められ、嬉し恥ずかしと言った具合のモニカ。

そしてすぐさま、笑顔で雷玉を手に、俺のところへ駆け寄ってくる。


「トーガくん! 取れたよ!」


「ああ、お疲れ。よく頑張ったな」


 と、ついうっかりモニカの頭を撫でてしまった。

しかし、モニカは嫌な表情ひとつ見せず、それを受け入れてくれた。


 パルとピルはニコニコした顔でこっちを見ているから……多分大丈夫では、なかった……



⚫︎⚫︎⚫︎



ーーその日の晩のこと。


宿へ戻り、風呂に入ってさっぱりした頃合い、突然部屋の扉がバタン! と開け放たれる。


「パ、パル!? ピル!? なんだよ、突然!?」


「おねえちゃん!」


「トーガ様、大変失礼致しますっ!」


 突然、高速移動のスキルでパルは俺の背後を取り、腕を拘束してくる。


「ちょ、パ……んんっ!?」


 パルは俺を拘束しつつ、無理やり唇を奪ってきた。

歯茎がしごかれ、俺は一瞬で骨抜きにされてしまう。


「続きは今夜……と、仰いましたよね?」


「トーガさまぁ……モニモニばっかずるいですよぉ……!』


 俺の足元にひざまづいているピルの手が、俺の感情を昂らせている。

やはり、2人は俺のモニカに対する態度をみて……!?


「モニカさんはいい子で、私たちも大好きになりましたよ」


「そ、そうか! だったら、これからもよろしく頼む……!」


「ええ、もちろん。でも、それはそれ、これはこれ……昼間にトーガ様とモニカさんの様子をみて、私たち、ちょっとモヤモヤしましたし……」


「こんやは、とーが様がもやもやしてください!」


ーーやっぱりこの2人は、嫉妬していたんだと思い知る俺だった。

その日の俺は、いつもとすっかり立場が逆転し、パルとピルの2人に無茶苦茶にされるのだった。

 それでも、ずっと元気だったのだから、若い身体おそるべし……。


 と、そんな激しい夜を過ごした翌日。

俺たちはいよいよ、Sランク冒険者資格授与式の日を迎える!

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