第24話 たくらむローレンス一行


「お前ら借金があるんだってな!? 聞いてないぞそんなの!」


 パーティーへ加入させたばかりの、若い魔術師はそう声を荒げた。

冒険者ギルドのホールにいたほとんどの冒険者が、魔術師と怒鳴られたローレンスへ迷惑そうな視線を寄せる。


「こ、こんなところで怒鳴るな! 場所を考えてくれよ!」


 ローレンスは羞恥と怒りで顔を真っ赤に染めながら叫んだ。

しかし魔術師はふん、と鼻を鳴らすのみ。


「借金持ちのパーティーなど冗談じゃない! 俺は精霊に選ばれし"魔術師"なんだぞ!? こちらを低く見積もるのも大概にしてもらいたい!」


「いや、別に低く見積もっていた訳じゃ……」


「よって俺はこれで君のパーティーから離脱させてもらう! これまでの報酬は協会を通じて請求するので、しっかり支払うように! 以上!」


「ちょ、ちょっとまってくれよ!」


 ローレンスの言葉になど聞く耳を持たず、加入させたばかりの魔術師は彼のパーティーから離脱して行くのだった。


(くそっ……借金さえなければ……なんで魔術師ってのはあんなにもプライドが高いんだよ……)


 魔法をつかうためには相応の努力と、資質を必要とする。

故に、魔術師はおしなべてプライドが高い傾向にあった。


(あのおっさん……トーガは素直で扱いやすかったよなぁ……)


 しかしトーガは、歳のためか、右足が不自由だったためか、魔術師のくせに非常に従順で、腰が低く扱いやすかった。

魔術の実力はいまいちだったが、それでも戦闘の役には立っていた。

 彼らが冒険者を初めて早々に全員がBランクまでのしあがれたのは、彼の活躍が大きい。

と、側から見れば、これが事実なのだが、ローレンス達はあくまで、この成果が"自分たちの実力"と信じて疑っていなのである。


「はぁ……魔術師の離脱を知ったら、リナのやつ怒るだろうなぁ……」


 ローレンスは恋人の魔人のような怒りを想像しつつ、ことの次第を報告するために、待ち合わせ場所である武具屋へ入って行く。


「ねぇねぇ、これ私に似合わなくない?」


「いやいや、リナはこっちだろうが」


「ええーそれぇ? すっごくエッチなんですけどぉー」


 武具屋に入って早々、仲間のエディと恋人のリナが、肩を寄せ合って装備類を眺めていた。

異様に肩と肩の距離が近く見えた。

人混みではっきりをとはわからないが、2人は腰の後ろで手を繋いでいるような……


「お待たせ!」


「ーーっ!?」


「お、おかえり!」


 声をかけるとエディとリナは慌てた様子で振り返り、さりげなく肩と肩の距離を離す。


「随分と仲が良さそうだったじゃん?」


「え? そ、そう? ほら! ここ珍しい武具がいっぱいじゃん!? だから、ちょっと夢中になっちゃって……ねぇ、エディ!?」


「あ、ああ、まぁ……」


 益々疑わしい2人の態度に、ローレンスは不信感を抱く。


「ところで! 魔術師からの話ってなんだったの!?」


 しかし話の矛先が、そちらへ向かった途端、ローレンスは表情を曇らせる。

彼が言いづらそうに、先ほどの魔術師のやり取りを伝えると、


「なに素直に手放してんの!? バカじゃない!」


 先ほどとは打って変わり、リナとの形成が逆転する形となってしまった。


「だいたい借金だって、ローくんが貯水塔を壊すよう指示を出したのが原因なんだから!」


「まぁまぁ、リナ。ここはお店なんだから、あんまり大き声出さない方が良いぞ」


 さりげなくエディはリナの肩へ手を置いた。

するとリナは素直にヒステリーを止めるのだった。

そしてローレンスへ丸めた羊皮紙を突きつける。


「これは?」


「コイツを探して加入させて。さっき、噂話を耳にしたからメモっといた」


 羊皮紙の紐を解く。

そこには"先日の冒険者ライセンス取得試験でトップ合格を果たし、更にこの短期間で様々な成果を収めている少年魔術師"の噂話が断片的に記されている。


「トーガ・ヒューズ……って、なんだよ、これ……!?」


 先日、離脱をさせたおじさん魔術師と同じ名前に、ローレンスは驚きを隠せないでいる。


「私も最初は驚いたよ。でも、歳が全然違うし、同姓同名みたい。実力も、あの臭いおじさんより全然あるみたいだし」


「なるほど……お上りさんしたばかりのガキだったら、Bランクの俺らが声をかければ、あっさり加入させられるということか……いい案だな」


 エディの賞賛に、リナは心底嬉しそうな笑みを浮かべるのだった。


「たぶん、昼過ぎから集会場でライセンスの受け渡しが始まるから、その直後が勝負よ! 待ち伏せして、トーガ・ヒューズを私たちが最初にパーティーに誘うの!」


「ライセンス授与直後に俺たちのようなBランクパーティーが誘えば話題騒然! あっちにとっても悪くない提案ってことだな?」


「そうそう! こっからはスピード勝負よ! 行くわよ、エディ、ローくん!」


「おう!」


「お、おい! 何を勝手に……!」


 とはいえ、戦力を欠いている以上、トーガ・ヒューズという優秀な魔術師を加入させるのはローレンスにとっても渡りに船である。

とりあえず今はエディとリナへの嫌疑は忘れて、トーガ・ヒューズ獲得に全力を注ごうと思う、ローレンスなのだった。


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