第20話 冒険者ライセンス取得試験……あっさり合格!?
「お、おい! あいつ見てみろよ!」
「ん……? ま、まじか!? シフォン人を2人も!?」
「あのガキだろ!? この間城門前でお尋ね者を一網打尽にしたっていう魔術師は!?」
冒険者ライセンス取得資格試験の実施会場である、岩場へ辿り着くと、早速好奇の視線を浴びる俺たちだった。
(それにしても……未だに"ガキ"と指されるのは違和感があるな……)
見た目こそ若返ったものの、俺の中身はおじさんのままだ。
だから、"ガキ"と言われて、やはりこそばゆいものを感じぜざるを得ない。
「ピル、調子はどう?」
「ちょっとお股に違和感が……歩くと、痛い……これ大丈夫……?」
ピルは少々不安げな視線を姉のパルへと送った。
「大丈夫よ。お姉ちゃんも最初はそうだっからあ。その痛みは、ピルがトーガ様を受け入れた、大事な証なの」
「そっか! そうなんだ! とーがさまがわたしの中に……てへへ……」
パルとピルは、少々アレな会話を平然としていて、周りの好奇の視線などなんのそのといった具合だ。
やはりさすがは元、王族? というだけあって、こうして注目されるのには慣れているのかもしれない。俺も二人のたくましさを見習わなければな!
「ピル、ちょっと耳貸して」
「なぁに?」
「あのね、今日無事に済んだら今夜2人でトーガ様と……」
「コホン! 2人とも、お喋りはそこまでだ! 試験の説明が始まるぞ!」
半分は、これ以上の俺の前で、恥ずかしい話をしないでほしいという気持ちで二人の会話を遮る俺だった。
やがて、俺たち冒険者候補の前へ、ギルドの職員が登壇してきた。
あの職員は、おじさんだった頃の俺へ"紹介できる仕事はないですねー?"と促してきた彼のようだ。
「あーえー、皆さんご苦労さまっすー。お手元の資料が今回の課題で、回収して戻ってきた時点で合格ですー」
職員からの説明を期待していた俺を含めた候補者一同は、慌てて一斉に資料へ視線を落とす。
(せめて簡単に説明くらいしてくれ……税で収入を得ている身だろうが……)
と、心の中で愚痴りつつ、資料の内容を確認。
(今回はベイキング草の採取が課題で、期限は半日……新人には難儀な課題だな)
広いの野山の中から、たった一品種の野草を探すのは、しかも制限時間付きともなればかなり難儀だ。特にベイキング草はそこそこ希少性の高い代物で、見つけるのは困難である。
(しかし今の俺には精霊たちという強力な味方がついている。こんな試験は楽勝だ……!)
「あーと、じゃあ、みなさん試験開始です。気をつけてくださーい」
職員の気のない返事で試験が開始された。
職員の態度とは裏腹に、ライセンス取得を目指す一同は勢いよく動き出す。
だが俺は敢えて、スタート地点に留まり続けていた。
「あのトーガ様は向かわれないのですか?」
パルとピルは俺に遠慮をしてか、一緒にスタート地点に留まってくれていた。
「おかんがえがあるんですよね?」
「ピル、さすがだな。その通りだ」
俺に褒められ、ピルは嬉しそうに微笑む。
そんな彼女の傍で、俺は周囲へ意識を集中させる。
そしてきっと近くにいるであろう、精霊へ問いかけた。
(大地の精霊バーストよ、教えてくれ……この山で1番上等なベイキング草はどこにある……)
俺の問いかけに、大地の精霊バーストはすぐさま答えを示す。
どうやら、この山を超えた先の断崖に、一際立派なベイキング草が生えているらしい。
駆け足で行っても、制限時間内に戻って来れるかあやしいところではある。
だが、今の俺はーー
「それじゃあ2人とも、俺は先にゆく。後でフォローはきちんとするので、安全第一で試験に励むように!」
「かしこまりました!」
「はいっ!」
「二人とも、危ないので少し下がっててくれ」
俺の言葉に、パルとピルは素直に応じ、距離を置いてくれた。
「では……行ってくるっ!」
足へ力と魔力を込める。
すぐさま風の精霊が力を貸し与えてくれた。
風の精霊の力は砂塵を巻き上げ、旋風を起こしつつ、矢のように俺を空へ舞い上がらせる。
スタートを遅らせたのはこれが原因。
自分の力のせいで、皆の妨害になってしまっては困ると思ったからだ。
「お、おい!? 今のドォーンって音なんだぁ!?」
「み、見ろよ! 人が飛んでるぞ!?」
「あいつ、もしかして例の少年魔術師!?」
数多の候補者たちは、空を疾駆する俺をみて驚いていた。
(良いぞ、それで良い! もっと俺に注目しろ! それが王国魔導士への近道なのだから!)
この試験では毎度、現役騎士団員が運営スタッフとして紛れ込み、王国魔導士に相応しい者を探していると聞く。
目立てる場所があるのなら目立ち、人生の最短ルートを突き進む。
若さで注目される期間は非常に短いと、前の人生で痛感した結果である。
(この手にした時間と若さを、もう2度と無駄にするのものか!)
俺は何度か、風の精霊の力を受けて、空を蹴り、飛行を続ける。
あっという間に目的地の断崖へ辿り着き、立派なベイキング草を採取する。
そして再び、空を蹴り、ものの数分で、スタート地点へ戻って行くのだった。
「ふあぁ……昼寝でもすっか、暇だし……」
「すみません、戻りました」
怠惰な職員へそう声をかけると、彼はビクンと背筋を伸ばし振り返ってくる。
「戻ったって、まさかそんな早く……うぇっ!? ほ、本当に……!?」
俺の差し出したベイキング草を、みてやる職員は驚きで目を見開く。
やる気がほとんど感じられない彼でも、こういう表情をするほどの成果なのだろう。
「疑うなら鑑定魔法でもなんでもかけてください。摘んだばかりのものなので、鮮度保証します」
職員は慌てて、巻物を開き、ベイキング草へ鑑定を施し始める。
彼の驚きの表情はますます強まってゆくばかりだった。
「ほ、本当だ……これ、ついさっき摘んだばかりのもの……!」
「なら、これで俺は合格ということ構わないですよね?」
「君、すごいね! こんな短時間なの初めてだよ! もちろん合格!」
彼はいたく興奮した様子を見せて、馴れ馴れしく肩を抱いてこようとする。
さすがにそれはご免こうむりたいと、軽く手で払いのけた。
「少し馴れ馴れしいと思いますが?」
「あ、ああ、ごめんね!」
「言葉遣いもです。俺は貴方の友達ではありません。そういうのはやめてください、いい大人なんですから」
「あ、えっと……すみません……気を付けます……」
俺に諭され、職員はシュンとしだすのだった。
「あのさ、良かったら、君うちのギルドの助っ人冒険者に……」
「では、身内が試験の最中で心配なので見に行ってきます! 失礼しました!」
「あ、ちょっと君!」
おそらくあの職員もまた、助っ人冒険者のスカウトを上司か何かに言いたわされているのだろう。
だが、お前のポイント稼ぎに付き合ってる暇などない。
特に、あまりやる気のなさそで、更に人によってコロコロ態度を変える貴様などには!
(まずはパルだな。あの子なら、心配はいらないと思うが……)
あっさり合格を果たした俺は、まずはパルのところへ飛んでゆく。
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