第19話 勇気を出して!――ピルとの初夜
――めずらしく、今夜はパルからの誘いがなかった。
おそらくパル自身も、明日の試験に備えて体力を温存したいようだ。
ここ最近は毎夜のため、たまにはこうして身体を休めるのも悪くないと思う。
なにせ、明日は"合格"がわかっていても、冒険者ライセンス取得の試験日だ。
ピルのことをパルに相談したいが、それも明日の試験が終わってからにしよう……と、ベッドへ身を投げた時のこと。
「パルです。開けてもよろしいでしょうか?」
(なんだ、やっぱり今夜も来たじゃないか)
ピルの件もあるし、ちょうど良いと思い扉を開ける。
「こんばんわ、とーがさま。やぶんおそくにごめんなさい……」
「ピ、ピル!? でも、今パルの声がしたような……?」
扉の向こうに立っていたのは、パルではなく、妹のピルだった。
あれ? 俺、声を聞き間違えたのか?
「こちらのおりますよ、トーガ様」
ピルの後ろに立っていたパルは深々とお辞儀をする。
そして、彼女の前に立っていたピルの背中をそっと押す。
「ほら、ピルあなたが言い出したことよ」
背中を押されたピルは、頬を熟れた果実のように真っ赤に染めつつ、俺へ決意に満ちた視線を向けてくる。
「とーがさま! どうかわたしにも、ま、魔力の注入をおねがいします……!」
ピルの開口一番がそれだった。
さすがの俺も、驚きを隠せず目を白黒させてしまう。
「ちゅ、注入って、君は分かっているのか……?」
「じつはずっとみてました……とーがさまとお姉ちゃんが毎晩なにをしているのか……」
「そ、そうか……」
まさか見られていただなんて……全く気付いていなかった……。
「おねえちゃん、とーがさまとであってからとっても元気になりました。いいえ、元気なんてものじゃないないです。まりょくも桁違いにあがっているんです。だから、おねえちゃんはとーがさまのお役に立てているんです……」
ピルは姉のパルより魔力への感受性が強いらしい。
だから姉の変化を肌で感じていたようだ。
「わたしもとーがさまのお役に立ちたいんです! いつまでも守ってもらうだけじゃ嫌だから……それにたぶん、今のわたしのままだと、明日のしけんは受からないと思います……だから!」
ピルは切羽詰まった視線を向けてきた。こちらが懸念している以上に、彼女自身も自分の分をわきまえているようだ。
だからと言って、いきなり注入依頼とは……これで姉のパルは良いのだろうか……?
「パル。ピルはこう言っているが、君は……」
「私は構いません。先ほど、ピルの訴えを聞き、納得した上でここに来ています。ピルは本気です。だったら妹の気持ちを姉として応援したい。だからこうして付き添っています」
どうやら姉の承認さえも得ているらしい。
だからといって、これはおいそれと頷けるものではない。
「ちなみにだが、俺からの注入はどんなことをしなければならないかわかっているんだろうな?」
「え、えっと、それは……わたしが、とーがさまのを……」
ピルは顔を真っ赤に染めて、俺から視線を外す。
もちろん、こういう反応をするのは想定の範囲内だ。
「やめておけ。これは大事なことなんだ。ただ力が欲しいという理由だけで……」
「ち、違いますっ! ただ力が欲しいだけじゃありません!」
初めてピルの大声を聞いた俺は、思わず怯んでしまう。
それほど今のピルの声は大きく、そして本気だと感じた。
「わたしだって、とーがさまのことが好き! だから、とーがさまからわたしへおねえちゃんとおなじことをして欲しいんです! もう、みているだけじゃいやなんです! わたしもとーがさまのちからになりたいんです!」
ピルは涙を浮かべながら、必死に思いの丈を叫ぶ。
「お願いしますトーガ様。どうか妹の願いを叶えてください。私はそれで構いませんので!」
パルまで説得に加わってきたのだった。
「……分かった」
ここで貞操観念を盾にして、断ることこそ、勇気を出してやってきたピルを深く傷つけてしまうと思った。
だから俺は覚悟を決めて、ピルを部屋へ招き入れることにした。
「頑張ってね! しっかりね!」
「うん! ありがと、お姉ちゃん!」
パルはピルへエールを送ると、そっと扉を閉じるのだった。
これで本当に良かったのか……?
いや、一度すると決めたのだから、もう迷いはしないっ!
「それじゃ行くぞ」
俺はできるだけピルが怖くならないよう肩を抱き、歩調を揃えながらベッドへ向かってゆく。
「あ、あのっ!」
ベッドへ向かう最中、背中へピルの声が響いてくる。
「こ、こっち……」
「こっち?」
「とーがさま、こっち向いてもらえませんか!?」
なんだかよくわからないがピルの方を向く。
すると――
「んっー! はむっ……むちゅ……」
なんということだろうか……振り返った瞬間、ピルは俺の両頬に手を添え、爪先立ちをしながら、こちらの唇をうばってきたではないか!?
「んちゅ……ちゅ、ちゅ……ん、むぅ……」
ピルは拙い舌使いで、こちらの唾液を必死に吸い上げようとしてきている。
必死に頑張っている姿がすごく愛らしい。
ここはしばらくこの拙さを愛でようと思ってきた時のこと……
「え、えいっ!」
「ぐわっ!?」
突然、ピルから圧力のようなものが発せられ、ベッドまで飛ばされる。
今ピルは魔力を発したのだろう。なかなかの強さで、正直びっくりしている俺だった。
そんなふうにベッドで困惑している俺の上へ、ピルはちょこんと乗っかり、下半身へ体重をかけてくる。
「あ、あのえっと……今夜、お誘いしたのはわたしですっ……だから、とーがさまは、なにもしなくて大丈夫です……!」
初めてでいきなり馬乗りとは……しかし、ピルが頑張ると言ってくれるのなら、と俺は彼女の好きなようにさせると決める。
ピルは自ら服を――――
⚫︎⚫︎⚫︎
「はぁ……はぁ……とーがさま、本当にありがとうございました……!」
行為を終え、こちらへもたれかかってきたピルがそう囁き掛けてくる。
「こちらこそありがとう」
一生懸命頑張ってくれたピルをぎゅっと抱きしめる。
すると彼女は愛らしい笑みを浮かべてくれた。
「なんだか、今でもお腹の中があったかくて、力が湧いてくるようなかんかくがあります。これでたぶん明日の試験は大丈夫だと思います」
「ああ、そうだな」
「とーがさまぁ……」
甘えたピルの声から何をしてほしいのか察する。
俺とピルは互いに顔を近づけ、深いキスを交わす。
まだまだ舌使いは拙い。でもそんな初々しさは、ピルの魅力だと思った。
やがてキスを終えると、ピルはとても女性らしい魅力的な表情をしていた。
「これからもその……お姉ちゃんとの間でいいので、わたしのことも可愛がってくれると嬉しいです……」
「わかった。約束する」
「わぁーい! ありがとうとーがさま、だいすき!」
「俺も大好きだぞ、ピル。これからも一緒に頑張ろうな」
「はーいっ! てへへ!」
こういう関係になってしまった以上、ピルとパルを分け隔てなく愛してゆくとしよう。そう決意した夜であった。
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