第13話 犯罪者は容赦なく葬れ!


「今すぐ城門から離れろ! 巻き込まれるぞぉー!」」


 門番がそう叫んだ途端、固く閉ざされていた城門が吹っ飛んだ。


 入場審査待ちの長蛇の列が真っ二つに割れ、その間を馬車に乗った盗賊集団が駆け抜けてゆく。

 そしてその集団を追って、馬竜に乗った王国騎士団が城門内から追いかけている。


「逃すなぁー! 生死は問わん! 1人残らず捉えるんだぁー!」


 騎士団率いていたのは、長いブロンド髪の綺麗な女性。

間違いない、この間ダンジョンで助けた"ジェシカ・フランソワーズさん"だ。


――ならこんな美味しい状況をみすみす見逃すわけにはいかん!

俺の、俺たちの明るい未来を築き上げるためにも!


「パルとピルはそこで待っていてくれ!」


「お気をつけて、トーガ様!」


「とーがさまがんばれぇ!」


 パルとピルの声援を受けつつ、一気に駆け、そして暴走する盗賊集団の馬車の前へ立ちはだかる。


「ガキ、てめぇどけぇ! 轢き殺すぞおらぁー!!」


 馬車から武装した盗賊風の男が叫んでくる。

 おそらく、今の警告はこちらの身を案じいているのではなく、俺を轢くことで、馬車が減速したり、止まったりすることを恐れているのだろう。

現に馬車は一向に減速する様子を見せない。


「退け! 退けぇぇぇぇ!!」


「いや、退くのはお前たちのほうだ!」


 地面へ手をつき、魔力経路を開放する。

すると俺の考えを迅速に察知してくれた、氷の精霊エルザが望みの力を与えてくれた。


「ブリザードウェイブ」


 燦然と照りつく太陽の下では絶対に発生し得ない"氷の波"が馬車へ向けて突き進む。


「こ、氷!? ひぎゃあぁぁあぁぁーーっ!?」


 荷車を引く馬竜は、あっという間に氷結する。

氷は瞬時に荷車を、そしてそこに乗っていた盗賊集団をも侵食し、一網打尽にはできたものの……


「う、うわぁ、ちょっと!?」


 氷結したまっすぐな道の上を、氷塊となった馬車がつるる~と迫ってきているではないか!?


 氷塊はかなりの大きさなので、軽く横へ飛んだ程度では回避は不可能。

この場合は、氷塊が砕けてしまう覚悟で、魔力障壁にて受け止めるべきか。


「トーガ様っ! ここはパルにおまかせを! たあぁぁぁぁーっ!」


 すると、後ろにいたパルが、ものすごいジャンプ力で俺の頭上を過ってゆく。


「止まり、なさぁぁぁぁいっ!」


 パルは、その綺麗な御足からは想像すらできない圧力を発し、氷塊を地面へ押し付ける。彼女の圧倒的な怪力は、氷塊と地面の間に強力な摩擦力を発生させる。

やがて氷塊は砂塵を巻き上げつつ徐々に減速し、俺の目の前でぴたりと止まるのだった。


「ご無事ですか、トーガ様!?」


 氷塊の上からパルがひょいと顔を出し、心配そうな視線を向けてくる。


「あ、ああ……パルのおかげで……」


「良かったぁ……!」


 パルは心底安堵した表情を見せた。

うん、相変わらずパルはよく気が利いて、おっとりしているところもあって、可愛いし、美人だ。

でも、あの氷塊を片足一品で押し留めてしまう怪力の持ち主。

彼女のことはあまり怒らせない方が身のためだろう……


「こ、このクソガキ! やりやがったな! ぶっ殺してやるぅ!」


 と、不穏な声が聞こえてきた。

どうやら寸でのところで、氷結魔法から逃れた盗賊集団の生き残りが一人いたらしい。


「トーガ様、ここは私が!」


「いや、考えがある。パルは他の皆の安全を!」


「承知しました!」


 俺を守ろうと立ち塞がるパルを下がらせ、自らが前へ出た。

そして無造作に手を掲げる。


「なっーー!?」


 盗賊の剣が、俺の目の前で""ガキィン!"と音をたて、動きを止める。

腕に纏わせた氷が、鎧のように刃を受け止めていたからだ。


「こ、このクソガキがぁ!」


 盗賊は一歩引き、態勢を整えると、あらためてこちらへ斬撃を加えてくる。


(盗賊にしては勿体無いほど、鮮やかで、正確な剣筋だな。もったいない……)


 おそらく、この盗賊の持つ剣術の前では、ほとんどの人間はあっという間に切り殺されてしまうことだろう。

 しかし、俺はそんな斬撃を意図も簡単に、しかも最小限の動作で避け続けている。


「なんであたんねぇんだ! くっそぉぉぉ!!」


 なかなか、当たらない斬撃に憤る盗賊。


 確かにこの盗賊の剣術は素晴らしい。だが、俺を切りつけることはおろか、指一本触れることさえ絶対にできない。

 なぜならば、俺には風の精霊シルヴェストという強い味方がいるからだ。


「ちくしょう! ちくしょう! ちきしょうぉぉぉ!」


 風の精霊シルヴェストは、盗賊の刃が起こす、微弱な空気の流れの変化を掴み取り、次どこに刃が過るかを逐一教えてくれている。

だから俺は、特に意識せずとも、精霊に身を任せていれば、容易に斬撃が避けられるのだ。


「素敵です! トーガ様!」


「とーがさま、すっごぉい!」


「ま、全く……やっぱりトーガ君って、規格外ね……私たちの出番、ないじゃないの……」


 そんな俺のことをパルやピル、他の皆さん、そして"ターゲット"であるジェシカさんも"しっかりと見てくれている"


(狙い通りの展開だ。今の俺はよく目立っているぞっ!)


 俺は内心で、そうほくそ笑みながら、手刀に氷を纏わせ、盗賊の剣を受け止める。

そして勢いよくその手を振り抜けば、盗賊の手から剣が抜け、綺麗な弧を描いたのちに地面へ突き刺さる。


「さぁ、覚悟しろ!」


「は、はは……! 舐めんじゃねぇぞ、クソガキ! これが見えねぇかぁ!」


 焦った盗賊は、俺の狙いーー"目立つこと"ーーをより華やかに演出してくれような行動に出た。

奴は懐から、禍々しい意匠の"魔物寄せの鐘"を取り出してくれたのだ。


「しねぇぇぇ! このくそがきゃぁぁぁぁ!!」


 盗賊が鐘を鳴らす。

その不穏な鐘音はすぐさま地面へ無数の隆起を促し、砂塵を巻き上げる。


「キシャアァァァァァ!!


 魔物寄せの鐘によって引き寄せられたのは、見上げるほどの巨躯を誇る、地中の大みみずーーサンドワーム。

 冒険者界隈、ひいては王国騎士団でさえも、出会ったらまず死を意識してしまうほどの難敵である。

 しかもそんな魔物が3体同時。

かつての俺ならば、この状況に自身の終末を覚えていたことだろう。


 だが、今の俺はーー笑みすら浮かべる余裕がある。

こんな魔物など、造作もなく蹴散らす自信がある。


「さて、どの魔術で仕留めるか……」


 すでに周囲には火のサラマンダー、水のアクアス、氷のエルザ、風のシルヴェスト、光のディアナ、雷のサンダルガといった数多の精霊たちが現れ、俺からの招聘を心待ちにしてくれている。


(ここは一撃必殺の雷の力を使うのが、華々しいか……)


 そう考えると、サンダルガが嬉しそうに俺へ寄り添ってくる……が、突然間に黒い影が現れ、雷の精霊サンダルガがさっと姿を引っ込めた!?


『ワタシをエラベ! ワタシを使え! イトシキ、トーガ・ヒューズぅぅぅ!!』


 代わりに俺へ接近し、行使するよう促す、不穏かつ強大な力の気配はまさか!?



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