第12話 バフ効果――パルとの二夜目
「今日は本当にありがとう」
夕食を終え、火を囲んでいる最中、俺はパルへ道中のお礼を告げた。
ちなみにピルはすでにテントのなかで、穏やかな寝息をあげている。
「い、いえ……保護をしていただいているので、これぐらいして当然かなと……」
パルは戦う姿を見られたのが、少し恥ずかしいと言ったところだろうか。
「あんなに綺麗な格闘術は始めて見たよ。すごいと思った」
本音を言葉にし、素直に告げる。
するとパルは意外そうな顔をした。
「そ、そうですか? 嫌じゃなかったですか……?」
「嫌? なぜそう思う?」
「まだ国があった頃、私の周りにいた男性は割と引いてまして……セイバータイガーなどをキック1発で倒してしまう女は、野蛮だって……」
「野蛮なものか。むしろ俺は、戦うパルの姿に見惚れてしまっていたぞ。フォームも綺麗でカッコよかった」
俺の賛辞にパルは「ありがとうございます」と応じた。
「初めて戦う姿を褒められて嬉しいです。しかもそれがトーガ様だったなんて……うふふ……」
そして笑顔を浮かべつつ、俺が彼女のために森の奥からとってきた、甘い果実へ齧り付く。
戦うパルもかっこいいが、やはりこうして幸せそうに微笑んでいる方が彼女にはよく似合っていると思う。
「格闘術はどこで?」
「小さい頃から、武闘家の先生に習っていまして。でも最近は奴隷としてろくなものを与えられておらず、この力もずっと発揮できずにいました……」
「そうなんだ」
「でも……今日、こうし久々に拳を振えたのは、トーガ様がこうして栄養たっぷりの食べ物を与えて下さったり、優しくしてくださったり……」
「?」
「だけど、1番の理由は……たぶん……えっとぉ……」
突然、パルは言い淀み、耳の先を真っ赤に染める。
「トーガ様の影響……が、あるのかもしれません……」
「俺の影響?」
「はい……だから、その、ええっと……」
パルは俯き加減で肩を寄せ、俺の手をそっと握りしめてくる。
そうされ、俺の心臓はすぐさま強い鼓動を放ち始める。
「ピルはもう寝てますし……」
声と態度からパルが何を求めているのかわかった。
若返った体は即座に反応を示し、ムクムクと情熱が湧き始める。
「い、良いのか? 今夜もその……」
「はいっ。先ほどの影響の考察も兼ねていますし……私もすごく……お願いできませんか?」
お互い"若い"ということだろう。
本当に若かった頃はこの若さを持て余していた。
でも、今はパルという相手をしてくれるパートーナーがいる。
これほどありがたいことはない。
「じゃあ、あっちへ行こうか」
「はいっ……! 今夜もよろしくお願いします……」
俺はパルの手を引き、大樹の裏へ向かってゆく。
そしてすぐさまお互いに顔を寄せあった。
「トーガ様っ……! んっ……! すき、ですっ……! だいすきぃ……! はむっ、んんっ……!」
昨晩と同様に、俺とパルは深く濃厚なキスから始めることにした。
昨晩でコツを掴んだのだろうか、パルは積極的にこちらを求めてくる。
やがて十分なキスを終えお互いに高まったところでーーパルへ、近くの大木に手を付くよう指示を出す。
パルは少し首を傾げつつ、それでも素直にこちらへ背を向けて、木の幹へ両手をついた。
「こ、今夜は、こんな体勢でなさるのですか……?」
「怖いか?」
「トーガ様のお顔が見られないので、ちょっと……」
不安げに背を向けるパルの頭を撫でてやる。
すると彼女は柔らかな笑みを浮かべてくれた。
「怖くならないよう努力する。それにこの体勢のほうが繋がりが深くなるんだ」
「そうなんですか、昨日よりも深く……ふふ……ありがとうございます、トーガ様! 私、頑張りますねっ! では……遠慮なく、どうぞっ……!」
パルは自ら綺麗な曲線を描いているお尻を突き出してきた。
俺は早速、彼女のお尻へ手を回してゆくーー
●●●
「やっぱり……トーガ様、私の予想は正しかったです!」
散々行為をし、余韻に浸るべく抱きしめ合っている中、ふとパルがお腹をさすりながらそう言ってきた。
「予想?」
「はい! おそらく私が力を取り戻せたのは、こうしてトーガ様に抱いていただいたことが1番の要因だと思います!」
「そ、そうなのか……?」
「はい! 証拠にこちらをご覧ください」
そういってパルは、先ほどまで自分が縋り付いていた大木の幹を拳で叩いた。
かなり軽く叩いたように見えたが、大木は激しく枝葉を揺らし、やがて葉っぱが雪のようにハラハラと舞い始める。
その葉っぱへパルは目にも止まらぬ速さの手刀を過らせた。
葉っぱはあっという間に細かい塵となり、闇の中へ消えていったのだった。
「す、すごいな……」
正直な感想を漏らすと、パルは満面の笑みを浮かべた。
「昨晩から、こうお腹の辺りから、カーっとトーガ様みたいな、あったかい感覚が湧いて、身体中に巡ってきているんです!」
そういえば、魔術学会発行による、強い肉体的な接触は相手の力を高めるーー"バフ"効果という内容の論文があたっと思い出した。
まさか強い肉体的な接触とは、こういうことだったとは……
「ありがとうございます、トーガ様。やはり貴方に出会い、こうして抱いてもらえて大正解でした! これからもよろしくお願いしますね!」
「俺は、良いが……パルはその、色々と大丈夫なのか?」
意味がわからないのか、パルは首を傾げた。
「いや、こう毎晩していると、たぶんあっという間に妊娠しちゃうと思うのだが……まぁ、俺はパルとの子供だったら……」
「そこは大丈夫です。実は私たち……そういう奴隷として売られる予定だったんです。なので、事前に魔術師から避妊の呪いをかけれていまして……」
「そうなのか……俺だったら、そんな呪いぐらいすぐに解くことができるが……」
するとパルは俺の手をギュッと握り締めて、首を横へ振って見せる。
彼女の顔は予想通り真っ赤っかだ。
「しばらくはいいです……この呪いのおかげで……心置きなくトーガ様からバフをいただけますから……」
「分かった。パルがそれで良いのなら」
「ご面倒をおかけしますトーガ様。できれば……御身を守るためと思って……で、できたら毎晩バフをいただけると嬉しいです……!」
「できるだけ頑張る」
俺とパルは再び口付けをかわし、深い交わりを再開する。
もしもおじさんのままだったらこうはできなかっただろう。
やはり若さは偉大で、最高だと思うのだった。
●●●
「わぁー! すっごく大きなまちぃー!!」
ピルは目下に広がる大都市の景観に目を丸くしている。
目下に広がっている大都市の名はフルツーー俺のホームタウンであり、ケイキでも屈指の大都市だ。
ようやく俺たちは深い森を抜け、街へ入ろうとしている。
俺たちは山を降り、他の行商団と混じって、入場審査の列へ並ぶ。
審査といっても、入場の理由説明と、何かしらの身分証明書の提示をするだけ。
しかしフルツへの入場希望者は普段から多く……
「けっこうかかりそうですね……?」
「この雰囲気だと入場まで半日といったところだな」
「半日ですかぁ……」
パルはややゲンナリした様子を見せた。
自然な顔が見えて、彼女との距離の縮まりが体感でき、嬉しくはある。
しかし、
(半日ここで時間を無駄にするのは確かに惜しいな。なにかショートカットができる良い手はないものか……)
そんなことを考えつつ、列に並んで順番を待っている時のこと。
列の前方がにわかに騒がしいことに気がつく。
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