第9話 パルとの初夜
パルは暗闇の中でもはっきりわかるほどに、顔を真っ赤に染めてそう言ってきた。
「か、身体って……まさか!?」
「は、はい……ご想像通りのこと、です……」
パルは途切れ途切れにそう言いつつ、何度も俺の膝を手で擦っていた
まるで上等な羽毛で撫でられているかのような、くすっぐたくもあり、気持ちのいい感触だった。
「いや、そういうのは良い」
「え?」
「そういうことしたいがために、君たちを救ったわけじゃない」
しかし流されるのは良く無いと思い、きっぱりそう言い切った。
俺は膝からパルの手をそっと退けた。
すると彼女は、僅かに悲しそうな表情を浮かべる。
「やはりシフォン人では、お相手をしてくださらないのですか?」
「……そうだ。俺たちタルトン人は、君たちシフォン人から国と自由を奪った。これ以上、君たちから無理やり何かを奪うことなんてしたくはない……」
俺たちタルトン人の国ケイキは、数十年前パルの故郷であるシフォン人の国パウンドへ軍事侵攻をし、無理やり併合してしまっていた。
この両国には根深い領土問題があり、長年睨み合いを続けていたからだ。
「そんな……トーガ様が責任を感じることではない気がしますが……」
関係があるからこそ、俺は口を閉ざしてしまった。
なぜならば、俺はかつて、パウンドにおけるシフォン人の制圧作戦に参加したことがあるからだ。
ーーボン・ボンに右足をやられ、エマを失った俺は、大切な人も、自信も、そして金さえも失っていた。
辛いことを忘れたい気持ちや、生きるための金が急いで必要だった。
だから俺は、大戦末期に、後方での支援任務要員ーー補給部隊の援助・護衛ーーとしてこの戦争へ自ら参戦していた。
不幸中の幸いか、俺自身はシフォン人へ直接手を下すことはなかった。
だからと言って、俺があの戦争と全く関係がないなどという顔はできない。
「……トーガ様はとても真面目な方なのですね。民族の問題を、ご自身の問題として捉えていらっしゃる……貴方のような、心が清らかな方に救っていただき、私たちは幸福です……」
違う、と否定がしたかった。
だがこの10代の見た目では、戦争に参加したことがあるなどと語っても信じては貰えないだろう。
「もしもどうしてもお礼が支払いたいというのなら。別の方法で支払ってくれれば良い」
「……わかりました。で、では、お礼、で無ければ良いということですね……?」
「は?」
「私が……そうしたい、といったら貴方はどうしますか……?」
よくパルの様子を観察してみれば、彼女はさっきからずっと呼吸を荒げつつ、しきりに太ももを擦り合わせていたことに気がつく。
明らかに、そういうことがしたいのだと手に取るようにわかった。
「どうしてそんな状態に……?」
「私もピルほどではありませんが、魔力への感受性があります。おそらく、トーガ様の魔力に私の体が反応して、このようなことに……」
やはりこれも、先ほどのジェシカさん同様に、俺の魔術経路が上質なものに変化したためだろうか。
上質な魔力経路は独特の雰囲気を放ち、同性へは敬意と羨望、異性へは興奮と好意を引き寄せる効果があるらしい。
「あとは打算もあります。私は貴方のそばへ居続ける限り、いつでもどこでも、この身体を提供します。代わりにその間は、ピルのことを私以上に守っていただきたいのです」
「打算を口にするほど、君の心も清らかということだな?」
そう返すと、パルはクスクスと笑い出し「打算は言っちゃダメでしたね」と微笑む。
このパルというシフォン人の娘はとても綺麗で、それでいて愛らしい。
「トーガ様……私は、トーガ様にして頂きたいと心から願っています。ですが判断はお任せします。するなら……楽しくしたい、ですから……」
頬が熱くなり、胸がキュッとしまって心地よい苦しさを覚える。
したい気持ちは多分にある。
いきなりのことに戸惑っているのもまた事実。
しかし今いっぽ躊躇してしまうのは、気恥ずかしさがあるためか。
(いや、もう、そういうことを言い訳にするのは……若返った時に辞めるって決めたんだ)
かつて本当に若かった頃、俺はエマと、今のパルとのような雰囲気になったことがあった。
しかし当時の俺はどうしようもないガキで、意気地なしの根性なしで。
結局その機会を逃して、その後すぐにボン・ボンの襲撃に遭ってしまい、お互いにそれどころではなくなってしまった。
(……もう後悔なんてしたくはない。この二度目の人生は好きなように生きてゆくと決めたのだから……!)
「ひゃっ! ト、トーガ様……?」
俺はパルの肩を掴み、綺麗な顔立ちをまっすぐ見据える。
途端、彼女は雪のように白い肌を真っ赤っかに染めた。
肩を掴んでいるだけでも、彼女の強く拍動が伝わってくる。
さっきは自ら煽るようなことを言っていたけど、もしかしてパルは……?
「こ、これから先はどうしたら、いいですか……? 実は良くわかっていなくて……お好きなようにしてくださればと……」
やっぱりパルはこうしたことは"初めて"のようだ。
ならお誘い通りに、好きなようにさせてもらうとしよう。
「ん……」
緊張しているのだろう。
柔らかい感触はあるものの、パルの唇は固く閉ざされていた。
それでは気持ちよくならないだろうと思い、彼女の下唇をこちらの唇で甘く挟んでゆく。
「んふっ……!? んっ……」
二人で必死に舌を絡めあい、唾液を交換し続ける。
深いキスを終え、唇を離してもこちらとパルの間にはトロリとした銀の架け橋がかかっていた。
「はぁ……初めてしましたが……キスってすごく気持ちがいいんですね……」
キスだけでこのリアクションは嬉しい。
きっとパルはとても敏感な体質なのだろう。
「ご経験、豊富なのですか……?」
キスを終えたパルは、頬を朱に染めつつそう言った。
こちらも初めてだと告げる。
一応、こちらは素人童貞なので、嘘ではない……。
「そうですか! 良かったぁ……私が貴方の初めての人に……ふふ……」
パルは綺麗な人だ。
でもこうして笑うと、ピルのようなやや幼い可愛らしさを覗かせる。
たまらなくなった俺は、より強くパルを求めてゆくーー
●●●
「……これで私は、トーガ様のものですね」
行為を終えてしばらく経ち、呼吸が落ち着いてきたころの頃のこと。
パルは俺へ密着しつつ、耳元でそう囁いてきた。
「ものって、俺は君たちを今までのような奴隷扱いをするつもりでは……」
「ありがとうございます。そう思っていただけて……でも、だからと言って、そのぉ……」
突然、パルは言葉を詰まらせ、耳の先まで真っ赤に染め始める。
彼女が何を言いたいのかは、なんとなくわかる。
「すごく気持ちよくて、幸せな時間だった。パルさえ良ければ、またこうして付き合ってくれるとありがたい」
頭を撫でつつ、そう告げるとパルは少女らしい笑みを浮かべて「はいっ!」と元気に答えたのだった。
それから俺とパルは、何度も抱き合いった。
出会った当初は硬い表情の多いパルだったが、今ではすっかりこちらへ甘えるようになってきている。
行為は最高のコミュニケーションと聞いたことがあるが、どうやら本当のことだったらしい。
やがて体力が尽きた頃、妹のピルが起きるまでという条件で、身を寄せ合ったまま眠りにつく。
「お休みなさい、トーガ様。これからも末長く、妹ともどもよろしくお願いしますね」
これからもっと、この子のことを……パルのことを深く知って行きたいと思った。
だって、俺たちの関係も、俺の第二の人生も始まったばかりなのだから。
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