第4話 女騎士の命を救え!


「そのままその人を支えていてください! 俺が治します!」


 俺は血まみれの女騎士を抱いて泣きじゃくる、リーダーを怒鳴りつけた。


「治すって……できるのか!?」


「ま、任せてください!」


 俺は女騎士へ屈み込み込んだ。

細身で、顔立ちも良い、とても美人な女性だった。

 歳はおそらく二十代の前半。ただの貧乏おじさんだった頃の俺なんて、触れるさえできないような相手だ。

そんな若くて綺麗な人を、こんなところで、しかも酷い形で死なせるだなんて、勿体無い!


(大丈夫……今の俺なら……できる! この人を助けられる!)


 まずは解析魔法をかけて、体の状態を確認。

やはりこうした状況解析魔法の結果も、かなり早く脳裏に投影される。


(俺は戦闘寄りの魔術師で、回復は不得手……だけど!)


 気持ちを落ち着け、心からこの女騎士を救いたいと願った。

するとその願いは傷を癒す風の精霊を、傷を治す光の精霊を俺の魔力経路へ案内した。


「いと可憐なる風の精霊よ……我へ慈悲の力を与えたもう……」


左手には風の精霊を、


「いと愛情深き光の精霊よ……我へ命を繋ぐ奇跡を与えたもう……」


右手には光の精霊が降臨してくれた。


 通常の魔力経路では複数の精霊へ同時に呼びかけるのは難しい。

反発し合い、暴走する危険性があるからだ。

しかし、俺の中では風の精霊も、光の精霊も祝詞を受けて、力の発揮を心待ちしているのがよくわかった。


「ヒール! リザレクション!」


 右手の蘇生魔法は傷の状態の確認と致命傷の治癒。

 左手の回復魔法は致命傷を血肉の再生によって塞いでゆく。


 回復専門の魔術師ならば自分の医療知識で患者の状態を確認し、適切な場所へヒールをかけることによって治癒を行う。

しかし俺はそうした知識はからっきしなので、医療知識や状態確認は光の精霊にお願いする形とした。

このやり方が奏功し、女騎士の傷は塞がり、どんどん血色を取り戻してゆく。


「す、すごい……魔術の同時発動を、いとも容易く……君は一体……?」


 リーダーは唖然とした様子で俺の治癒状況を見ていた。

実際、発動した俺自身も内心では驚いている。

これは稀有な状況だった。

そしてそれほど俺の魔力経路は最適化されているのだと思い知る。


「あ、ん……隊長……?」


 やがてすっかり顔色の良くなった女騎士が薄目をあけた。


「ジェシカぁー!! 良かった、本当にぃ!!」


「ふぇ!? な、なんですか急にぃー!!」


ああもう、見せつけてくれちゃって。

きっとリーダーさんとジェシカさん? はいい関係なのだろう。


 ならなおのこと救えて良かったと思った。

大事な人が目の前で苦しんでいる姿は見ていられないという気持ちはよくわかったからだ。


 だって俺は、あの時のエマを救えなかったし、誰も俺たちへ救いの手を差し伸べてはくれなかったのだから……。


 俺は残り二人の深手を負った男性騎士のところへ向かい、治癒を施してゆく。

彼らは女性騎士よりはだいぶマシな傷だったので、あっさりと治すことができたのだった。 


「この度は救っていただいたばかりか、仲間の命をも救ってくださり誠にありがとうございました!」


 すっかり元気を取り戻したリーダーと、騎士たちは綺麗に整列して深々を誠意を示してくれた。

さすがは国が認めた優秀な人たちだ。

雑な冒険者と違って、やっぱり品が良い。


「いえ! できることをしたまでですので! それで、ええっと、一つ確認をとっておきたいことが……」


 俺は徐に死霊竜から取り出した竜玉を取り出した。

瞬間、取り出された青く透き通るような宝玉を見て、騎士の面々は目を丸くする。


「こ、こんな綺麗な竜玉みたことがないわ。もしかしてあの死霊竜から……?」


女騎士のジェシカさんの問いに、俺は首肯をして見せる。


 王国騎士団は国の依頼を受けてダンジョンの調査や、危険生物の除去、可能であれば希少品の保護を行うこともある。

だからこういうした珍しい竜玉も保護対象になるとは思うが……


「これって、一応俺が死霊竜を倒した成果なんで、こちらの所有物ってことでいいですよね……?」


死霊竜の第一発見者はこの騎士団の人たち。

しかし実際に倒したのは俺。

この場合、どちらのこの竜玉の所有権があるからしっかり確認しておきたかった。


 当然、リーダーさんは第一発見者として難しい顔をしていた。


「もう! 今回くらいは良いじゃないですか、隊長! この子が死霊竜を倒して、私たちの命さえも救ってくれたんですよ!」


「しかしだな……」


「ケチくさい男の人ってなんか嫌ね……」


 ジェシカさんへそう言われ、リーダーさんは顔を真っ青に染めた。

二人の部下はクスクスと笑っている。


 やがてリーダーさんは道具袋から質感の良い紙を取り出した。

そこへさらりとサインを施し、紙をこちらへ差し出してくる。


「王国騎士団28番隊分隊長フォード・フランソワーズの名において、その竜玉の権利を委譲する。これは君の成果だ。好きに使ってくれ! しかしくれぐれも悪いことには使ってくれるなよ? わかったな?」


 こうして衛士のお墨付きをもらうことができた。

俺の今の見た目は10代そこそこのガキンチョ。

もしこの竜玉を持ち込んでも、舐められて買い叩かれるのが目に見えていたからだ。

しかし騎士団の承認サイン入りの譲渡証書があれば、たとえどんな見た目をしていようと、公正な取引が約束される。


(……これ売れば一体いくらになるんだ……たぶん、一生遊んで暮らせるくらいの大金が……!)


 若がえる前の人生では到底手にできない大金であるのは明白だった。


「それでは我らはこれで! この度は救ってくれて本当にありがとう!」


リーダーのフォードさんは、そう言って出立しようする。

するとジェシカさんは手招きをしていた。


「君、ちょっとこっち!」


俺が近寄ってみると、急に女騎士のジェシカさんはーー!

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