第3話 王国騎士団の危機を救え!
「お、おい! しっかりしろ! アンソニー! ボブ! ジェシカぁー!!」
一様に白銀鋼の装備した一行のリーダーが、ほぼ戦闘不能の仲間へ必死に呼びかけをしている。
しかし傷が酷く、このままでは死を待つばかり。
いくら誉高く、相応な実力を兼ね備えたケイキ王国のエリートである"王国騎士団の一員"であっても、この状況を打開する術はなし。
「GAAA!」
「ひぃっ!!」
目前の腐肉を巨大な"かつて竜"だった存在は、腐肉を撒き散らしながら大きな咆哮を上げる。
相手は死霊となれど、巨大な体躯との力を誇る、死霊竜(ドラゴンゾンビ)
圧倒的強者の一角である。
すでに王国騎士団は壊滅状態で、生還は絶望的であった。
そんな彼らへ向け、死霊竜は魂までをも焼き尽くすと言われる黒炎を吐き出す。
騎士団のリーダーは仲間ともども死を覚悟する。
しかし黒炎は突如、目の前に現出した光の障壁によって偏向する。
彼らを守った光の障壁は、黒々とした髪が印象的な、少年魔術師が発動させたものだった。
●●●
(無詠唱でこの防御力……!? 若返った俺の魔術の威力は素晴らしいな!)
扱っている自分でさえ、驚きを隠せないでいると、
「き、君は……?」
先ほどまで死霊竜に襲われていた騎士団のリーダーが、驚いた様子の顔をむけてくる。
(君って……そうか、今の俺の見た目は、このリーダーよりも圧倒的に年下な10代半ば程だからか……)
「ここは俺に任せて、あなた方は後ろへ下がっていてください!」
とりあえず、怪しまれないよう俺はリーダーへ敬語で退避を叫んでおいた。
「あ、き、君!!」
俺はリーダーの言葉を聞き流し、死霊竜へ突っ込んで行った。
ーー相手は王国騎士団でさえ太刀打ちが困難な死霊竜。
「試し撃ちにはおあつらえ向きな相手か!」
死霊竜は俺の存在を感知したのか、瞳の腐り落ちた眼窩を向けてくる。
敵は腐臭を漂わせつつ、顎から黒炎を吐き出してくる。
(こっちか!)
かなり余裕のある回避行動が取れ、思わず笑みがあふれた。
精霊たちは、まるで俺を守るかのように、死霊竜の黒炎の行き先を逐一告げてくれる。
(まずは無詠唱でやってみるか!)
死霊竜へむけて手をかざし、狙いを定める。
熱い炎を意識すると、俺の魔力経路がカッと熱くなった。
俺の体を通して、無邪気なサラマンダーが、現世を覗き見る。
「いっけぇぇぇー!!」
「GAAAAA!!!」
飛び出した矢の形をした炎ーーファイヤーボルトが、死霊竜の角を粉々に砕いた。
更に奴の頭部を赤々とした炎が包み込み、大炎上をさせる。
(無詠唱でこの物理攻撃力! 加えて炎上による継続ダメージ! まるで詠唱ありの魔術発動時の威力だな、これは!)
とはいえ、相手は死霊に堕ちたとしても、かつては神聖的な存在であった竜。
この威力でも一撃必殺ではなかったようだ。
まぁ、最初からそれは想定済みだから、問題はないが。
「GAAA! GAAA!!!」
死霊竜は怒り狂い俺を噛み砕こうと迫る。
しかしそれの攻撃さえも、精霊たちが危険を知らせてくれるので、難なく回避することができた。
俺は軽やかなステップで死霊竜の攻撃を回避しつつ、無詠唱ファイヤーボルトを次々撃ち込んでゆく。
「GA……GAAA……!」
蓄積ダメージによって、死霊竜はいよいよその場に蹲った。
狙っていたのだ、
俺は蹲る死霊竜の前へ立ち、両手を突き出した。
「偉大なる炎の精霊よ……我へかの敵を貫き、焼き尽くす灼熱の力を与えたまえ……」
ーー全身へ張り巡らされた魔力経路が、体の内側で真っ赤に発火した。
賞賛と願いの祝詞を受け、サラマンダーが歓喜しているのがわかった。
熱く、心地よい魔力の感触が手のひらへ収束し、真っ赤に輝く矢を形成する。
「爆ぜ、そして燃え尽きよ! ファイヤーボルトぉーっ!」
腕を振り抜くと、赤く燃える矢が、空気を焼きながら発射された。
矢は死霊竜の腐り切った頭部へ突き刺さる。
「GAAAAAーーーー!!!」
死霊竜はたった一度だけ、空気をも震撼させる断末魔をあげた。
しかしそれっきり。
死霊竜の頭部はファイヤーボルトによって一撃粉砕。
衰え知らずの炎は、そのまま腐食した竜の体を包み込み、肉を焼き、骨を溶かす。
焼却よって生じるはずの不快臭さえ、炎が焼いてゆく。
業火はあっという間に死霊竜を焼き尽くし、細かな塵へと変えるのだった。
(やはり詠唱をした方が威力は上がる……魔術の法則はこれまで通りだから、やはりここは死後の世界ではなく、現世ということだろうか……?)
それにしても、自分でも驚くほどの破壊力だと思った。
まさかファイヤーボルト程度の魔法で、これほどの威力が出せるとは……
もしもこれが上級魔法であったなら、死霊になるまえの竜さえ倒せるのではないかと思えてならない。
ふと焼き尽くした死霊竜の灰の中に、キラリと光る真っ青な宝石を発見する。
「こ、これは……まさか竜玉!?」
数万年生きた竜の体内には、非常に価値の高い石が形成される。
それを竜玉という。この死霊竜はおそらく、伝説級の竜の成れの果てだったのだろう。
(こんなに透き通るような竜玉は初めてみたぞ。売却すれば一体どれほどの金が……)
いきなり大金の塊が目の前に現れ、さすがの俺も動揺で体が震えて仕方がない。
「しっかりしろ、ジェシカぁー!!」
後ろから悲壮な男の声が聞こえてくる。
先ほどまで死霊竜と対峙していたリーダーが、虫の息となっている女騎士を抱きしめている。
俺はとりあえず竜玉のことは置いておいて、二人の元へと走った。
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