第16話 温水シャワー


「「「おおお~!」」」


 セシルとミーシャが作ってくれた晩ご飯を並べるとやってきた開拓民から声が上がった。


 残念ながらここには本当に何もないから、木の板の上に皿を置いていて、地面に座って食事を取る。早くテーブルやイスなんかも揃えていきたいな。


「ほ、本当に食べてもよろしいのですか? まだ我々は何も働いていないのですが……」


 恐る恐るといった様子で聞いてくる60代くらいの男性に僕は答える。


「今日はたくさん食べて移動の疲れをゆっくりと癒してね。肉はあまりないけれど、野菜はたくさんあるのでいくらでも食べていいから。もちろん明日からはちゃんと働いてもらうよ。それと僕のことはレオルで大丈夫だからね」


「は、はい! レオル様、もちろんです!」


「すげえ! レオル様、ありがとうございます!」


 もうひとりの男性は30代後半の男性だけれど、足を引きずっている。もしかしたら怪我などで足を悪くして働けなくなったとかかな。


 レッドディアの肉はそんなにないけれど、野菜は開拓者スキルで設置した畑から山ほど収穫できるからね。ちなみにまだ僕の開拓者スキルのことはみんなに話していない。


「本当にありがとうございます!」


「お兄ちゃん、ありがとう!」


「こ、こら! レオル様でしょう!」


「気にしないで大丈夫。あんまり急いで食べるとお腹がびっくりしちゃうから、ゆっくり食べるんだよ。明日からもお腹いっぱい食べられるから、焦らなくていいからね」


「うん!」


 やっぱり僕は威厳よりもみんなで仲良くご飯を食べられる方がいいな。


 こっちの20代くらいの女性と5歳くらいの男の子はとても痩せている。父親が亡くなって、食べるのにも困っていたのかもしれない。もうひとりの女性と女の子も同じような事情かな。


「ほう、こいつは初めて見る野菜じゃが、どれもうまいのう! こいつは酒に合うわい!」


 そして最後のひとりは背が低くて白いヒゲがボウボウに生えているドワーフの男性だ。ドワーフは手先が器用な種族でとても酒を好む種族だと聞いている。僕も街中で見たことはあるけれど、実際に近くで見るのは初めてだ。


 それにしても、他の開拓民はみんなボロボロの服でとても痩せているけれど、彼だけはそんなことがないし、自分で持ってきたお酒をがぶがぶと飲んでいる。あまり生活に困っているようには見えないけれど、どうしてここに来てくれたんだろう?


「レオル様、彼はあの町に住んでいた私の昔の友人です。開拓地で様々な物を作る必要があると思い、声を掛けました。ここに来るか分からなかったため、ご報告が遅くなってすみません」


「あっ、そうなんだ。本当にありがとう、ルーベル」


「とんでもございません。差し手がましい真似をお許しください」


 僕が不思議に思っていると、すぐにルーベルがその疑問に答えてくれた。確かにこの開拓地ではこれから様々な物が必要になってくる。資材については開拓者スキルで手に入るけれど、資材を使って家具や道具を作り出す人材は必須となる。


 今の食事も地べただし、テーブルやイスなんかは早急になんとかしたいと思っていた。


「おう、あんたがレオル様じゃな。儂はギルじゃ。こやつには昔ちょっとした借りがあってのう。少なくともしばらくの間は開拓を手伝ってやるわい」


「ありがとう、ギルさん。この開拓地にはまだ何もないから、来てくれて本当に助かるよ」


「……話には聞いておったが、本当に儂のようなドワーフにも普通に話してくれるのじゃな。ギルでええ、これからよろしく頼むぞ、レオル様」


「うん、こちらこそよろしくね!」


 ああ、確かに貴族は人族以外の種族を見下していることが多いんだよね。僕は前世の知識もあるし、種族ごとに様々な優れたことができることを知っているから、そんな気持ちにはならなかった。


 ……アルマ義兄さんは思いっきり人族以外を見下している感じだったもんね。




 みんなだいぶお腹が空いていたようで、セシルとミーシャが作ったご飯をたくさん食べてくれた。現在この開拓地で採れる野菜はキャベツ、ラディッシュ、豆苗、サヤエンドウ、スナックエンドウ、もやし、枝豆、大豆だ。


 いろいろとバリエーションが出てきたところだけれど、味付けが塩だけなのが少し寂しいところかな。


「それじゃあ、順番にここで身体を洗ってね」


 食事が終わって、家屋の後ろにあるシャワー室へと開拓民のみんなを案内する。


 これはルーベルとセシルが作ってくれたシャワー室だ。外から見えないように木の板で四方を囲んで、頭上にこちらも木製のタンクがあってそこに水を入れられるようになっている。開拓民のみんなが来る前に僕たちで井戸の水を貯めておいた。


「それじゃあ、ミーシャ。お願いするよ」


「任せて、レオルお兄ちゃん! いくよ~えい!」


「「「おお~!!」」」


 ミーシャが両手を前に出す。掛け声と共に空中に火の球が現れ、少しずつ大きくなっていく。そして火の玉は水を溜めたタンクの中へと吸い込まれて、一瞬で水がお湯へと変わっていく。


 ミーシャが火魔法を使えるのと、水がいくらでも出てくる井戸のおかげで、この開拓地ではお湯のシャワーを浴びられるのだ。

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