第15話 開拓民


 この不毛の大地で開発を始めてから2週間が経過した。


 あれからいろいろな野菜を収穫することができて、日々の食卓がだいぶ豊かになってきた。キャベツやグリンピースも順調に育って、本当に前世の知識通りに育ってくれた。


 収穫の量については僕たちだけではむしろ多すぎてしまうほどだ。余ってしまった野菜は勿体ないけれど、地面に埋めてこの土地の栄養へなるようにしている。それと成長が早すぎるから、収穫のタイミングも結構難しいんだよね。


 特にエンドウは絹サヤと呼ばれる種が小さくサヤを食べる状態から、すぐに成長して豆が大きくなりグリンピース、あるいはサヤごと食べるとスナップエンドウという状態へ成長する。絹サヤの状態でいる時間はわずかだから、ちゃんと収穫の時間を見計らわないといけない。……畑のタイムテーブルみたいなのを作った方がいいかもしれないね。


 そして街でルーベルに購入してきてもらったこちらの世界の野菜の種や苗を畑に埋めてみたけれど、開拓者スキルで手に入れた種のような成長速度はなかった。一応芽は出てくれて、苗も枯れることなく育ってくれているから、普通の畑として育てることはできるみたいだ。


 ルーベルが森に植えてくれた種についてもすぐに成長することはなかった。どうやら、開拓者スキルによって設置した畑で開拓者スキルで手に入れた種を育てないと駄目らしい。


 とはいえ、この成長速度の作物が世界中に広まったらいろいろと問題も起こるだろうから、ある意味良かったのかもしれない。


「いよいよかあ……どんな人が来るんだろうね」


「たとえ一人も来なくとも、私はレオル様のお傍におりますので」


「ミーシャもいるよ、レオルお兄ちゃん!」


「2人ともありがとう。でも数人くらいは来てほしいなあ」


 そして今日はいよいよ初めての開拓民を受け入れることになる。


 少なくとも水や食料について心配しなくていいのは本当に助かった。僕たちがもらった支度金は本当に少ない金額だったから、開拓民の食料をすべて購入していたらすぐに底をついていたに違いない。


 ……というか、この土地では作物を育てられないから、開拓者スキルがなければすべてを捨てて逃げ出すしかなかったよ。


「新しい家屋をもうひとつ追加して、周辺に木の柵を設置したから多少はマシになってきたね」


 現在この開拓地にあるのは2つの家屋と2つの畑、井戸とトイレだけで、村とも言えないレベルだけれど、これでも最初に比べたらだいぶまともになったのだ。


 やはり不毛の大地と呼ばれるだけあって、魔物もブラックウルフ以降は一度だけ痩せたレッドディアという魔物が現れただけだったな。ちなみにそのシカ型の魔物は僕たちで美味しくいただいた。


 木の柵もあることにはあるけれど、それほど高くない上にあんまり頑丈でもないからもう少し補強したいところかな。小さな魔物だったらともかく、大きな魔物が来たらひとたまりもない。まあ、こんな場所に大きな魔物が来ることはないと思うけれど。




「あっ、ルーベルおじちゃんが戻ってきたよ!」


 そしてついにゲットーの引く馬車がこの開拓地へ無事に戻ってきた。ルーベルも僕たちに手を振っている。


「ただいま戻りました、レオル様。開拓地への移住を希望する方々をお連れしました」


「ありがとう、ルーベル」


 ルーベルの前に並んだ開拓民は7人。予想通りと言うべきか、定員の10人すらいかなかったらしい。いや、むしろこんな不毛の大地にある開拓地にまで来てくれた人が7人もいるなんてありがたいことだ。


「ほ、本当にこんな場所に畑がある!?」


「まさか、バルトルの大地で作物が育っているなんて!?」


 やってきた人たちはここにある畑で野菜が育っていることにとても驚いている。やっぱり周りはヒビ割れている土地なのに黒い土とそこから生えた緑の植物は違和感しかないよね。


「初めまして。この開拓地を任されているレオル=フリードルと申します。この度はこの開拓地までいらしてくれてありがとうございます。見ての通りまだ何もないので、ぜひ皆さんの力を貸してください」


 一応は僕も貴族の端くれなので、初対面の挨拶はしっかりと行う。ここで威厳を示すようにルーベルやセシルからも言われているけれど、10歳の時点でなかなか難しい気がする……


「こ、これはフリードル様! も、勿体なきお言葉をありがとうございます!」


「ははあ!」


 やってきてくれた開拓民たちが片膝をついて僕に跪く。とりあえず向こうもこちらを敬ってくれているみたいでなによりだ。


 改めて開拓民たちを見てみると、女性や子供や年配の男性が多い。当然だが、バルトルの開拓地へ来てくれる時点で、いろいろと現在の生活がうまくいっていないのだろう。


 犯罪者やあからさまに怪しい希望者は除外してもらっているから、職を失った市民なんかが多いのかな。もう少し開拓地を広げられたら、他の近くの街から開拓民を募集してもいいかもしれない。


「とてもお疲れのようですから、まずはみんなで食事を取りましょう」

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