第14話 成長の検証


「レオル様、ただいま戻りました」


「お帰り、ルーベル! ゲットーも無事で良かったよ」


 4日後の夕方、近くの村へ買い出しに出掛けていたルーベルと馬のゲットーが無事に帰ってきた。


 結局ルーベルたちが帰ってくるまで魔物に襲われるようなことはなかった。その間は野菜の世話をしたり、家の周りだけじゃなくて畑や井戸全体を囲むために設置する予定の木の柵の準備をしてきた。


 夜は見張りをして、日中はセシルが休んでいたから、あんまり進んでいなかったけどね。


「レオル様もご無事で何よりです。開拓に必要な道具や塩などの食料を買い付けてまいりました」


「本当にお疲れさま。詳しい話はあとで聞くよ」


「すぐにご飯の準備をしますね」




「ほう、これがラディッシュですか。歯ごたえもあって、爽やかな味がしてとても美味しい野菜ですな。それにまさかたったの2日で収穫できるようになるとは……」


「ブルルル!」


 ルーベルが帰ってきて、数日ぶりにみんなで晩ご飯を食べている。ルーベルとゲットーは初めてラディッシュを食べているけれど、気に入ってくれたようでなによりだ。


「それに成長したラディッシュからラディッシュの種を収穫することができたんだ。新しく種から育てたラディッシュもまたたったの2日で収穫できるし、あとは畑を休めなくても野菜が育つみたいなら、食料問題については完全に解決したと言ってもいいかもしれないね」


 この5日間でラディッシュを2回も収穫することができた。ラディッシュはちょうど2日経つと収穫できるようになり、収穫をせずにそのまま植えておくとさらに半日で花が咲いて種が実る。


 その種を新たに植えたところ、またたったの2日で収穫することができた。しかも収穫した種もすべて発芽してまた数十個のラディッシュが2.5日周期で収穫できるので、少なくともラディッシュについてはいくらでも収穫できるように。


 今のところ2回連続で同じ畑にラディッシュを育ててみたが、2回目も問題なく収穫出来て味も変わらなかった。同じ畑で同じ野菜を何度も育てていくと成長が悪くなるという知識があるけれど、今のところはまったく問題ない。


 開拓者スキルでポイントと引き換えて一瞬でできた畑だし、畑を休めなくても何度でも同じ野菜を育てることができるのかもしれない。これについてはあえて何度も畑の同じ場所で同じ野菜を育てることでどうなるかを検証してみるつもりだ。


「それは素晴らしい。他の野菜ももうすぐ収穫できるようですし、食料についてはとても期待できそうですな」


「ええ、すべてはレオル様のおかげです」


「レオルお兄ちゃん、すご~い!」


 うん、僕も正直に言ってこの開拓者スキルがこんなにすごいなんて思ってもいなかった。これは本当に嬉しい誤算だ。


「私の方でも街で野菜の種や苗を購入してきたので、明日になったらここの畑へ植えてみましょう。だいたいの収穫時期も確認してきたので、その成長速度がどうなるのか確認したいところですね。また、街からの帰りにレオル様から頂きました種をバルトルの森の入り口に植えてきました。明日どのように成長したかを確かめてきます」


「うん。この結果でいろいろと分かるね。でも森に行く時は気を付けてね」


 こちらの世界の野菜の種や苗をこの畑に埋めるとどう成長するのか検証しておきたい。それとは逆に開拓者スキルで手に入れた種を普通の土にまくとどう成長するのかもあわせて検証してみる。


「それでポイントが今日で100Pになったんだけれど、どうしようかなと思って。野菜についてはもう十分過ぎるほど収穫できそうだから、もうひとつ家屋を建ててもいいかもしれないね」


「そうですな。これから開拓民の受け入れも始まるわけですし、もうひとつ家屋があっても良いかと思われます」


「うん。もし開拓民が来なくても、キャベツや大豆なんかは収穫してからしばらくもつみたいだし、日差しの中に晒しておくよりも家屋の中に入れておいた方がいいよね」


 畑にとりあえず全部の野菜を植えてみたはいいけれど、植えすぎたから収穫しても僕たちだけじゃ全部食べられない。しばらくもつ野菜なんかは小屋の中に入れて保管しておいた方がいい。


 それでも余る野菜はこのひび割れた大地が少しでもマシになるかもしれないから土に植えておこう。確か枯れてしまったり腐った野菜なんかも地面の栄養になるはずだ。


「それにいつまでもみんな一緒で寝るわけにはいかないからね。これからは男女で寝る場所は分かれて――」


「却下です」


「なんで!?」


 話の途中なのにいきなりセシルの却下が入った。僕の意見に反対することなんてあんまりないのに!?


「また魔物が襲ってくることがあるかもしれませんからね。寝る時はできるだけ私たちで固まって寝た方がいいでしょう」


「確かに今日はみんなで寝るけれど、周囲の柵をすべて作り終えたら分かれて寝ても大丈夫だよ。それに今建てている家のすぐ近くに建てるから、魔物が攻めてきてもすぐに対応できるからね」


「………………」


 セシルがものすごく悲しそうな顔をしている。いや、僕だってまだ10歳だけど男なんだから、このままずっと女性と一緒に寝るのはさすがにまずいよ。


「レオルお兄ちゃんはミーシャと一緒に寝るのは嫌なの?」


「……もちろん嫌じゃないよ」


 さすがにその聞き方はずるいよ、ミーシャ。泣きそうな顔でそんなことを言われたら嫌と言えるわけがない。


「じゃあ、ミーシャはレオルお兄ちゃんと一緒に寝るね!」


「そうですか……レオル様は私にたったひとりで寝ろと仰られるのですね……」


「……分かったよ。しばらくの間はみんなで寝よう」


「はい!」


 セシルが満面の笑みを見せる。ルーベルはなんだか微笑ましそうに僕たちを見ているし、なんだかなあ……


 まあ、安全面のこともあるし、もうしばらくはみんなで一緒に寝るとしよう。

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