第13話 ラディッシュ
「それじゃあ昨日植えたラディッシュを収穫しよう」
いろいろと作業を終えて、いよいよラディッシュを収穫する。いくら収穫できる時間が短い野菜とはいえ、まさか2日かからずこんなに早く成長してくれるなんて驚きだ。
開拓者スキルのウインドウの説明によると、ラディッシュの収穫方法は普通に葉っぱの根元を持って引き抜くだけらしい。
「5分の1くらいはそのまま育てて、ラディッシュの種を収穫するからね」
「承知しました」
「分かった!」
このままラディッシュを植えておくと、ラディッシュから生えた葉に花が咲いて、花が枯れた頃に種を収穫できるみたいだ。そのためラディッシュは全部収穫しないで、その一部を取っておく。
そしてその種をもう一度この畑に植えてどう成長するのかを確認していきたい。開拓者スキルでポイントと引き換えた種から育つ作物の種は同じように成長するのか、何度も同じ畑で野菜を連続して育てると作物の育ちが悪くなるかといろいろ確認することがある。
「おお、本当に真っ赤だ」
黒い土から引き抜いたラディッシュは真っ赤な小さなかぶだった。元の世界の知識にはあるけれど、実際に実物を見るのはこれが初めてになるもんね。
「レオルお兄ちゃん、ミーシャも抜けたよ!」
「うん。すごいぞ、ミーシャ!」
「えへへ~」
ラディッシュを両手に持ちながらはしゃぐミーシャ。確かに野菜を収穫するのって結構楽しいかもしれない。まあ、たった2日足らずで収穫できちゃったからあんまり感慨みたいなのはないけれどね。
「なるほど、生でそのまま食べられるのは良いですね。瑞々しくてとても美味しいです」
「こっちの葉っぱを炒めたのも美味しいね!」
「うん、それに彩りがすこし豊かになったね」
今日の晩ご飯は豆苗ともやしとラディッシュのサラダ。豆苗とラディッシュの葉っぱとワイルドボアの肉を炒めた料理だ。ほんの少しずつだけれど、食卓が毎日豊かになっていた。
「いろんな栄養も取れてきたし、とてもいい感じだね」
「はい。まさかこのような地でこんなにおいしい野菜が収穫できるようになるとは思ってもいませんでした」
「美味しいよ、お兄ちゃん!」
やっぱり人間は食卓が豊かになると活力が出てくるな。ここに来た時はどうなることかと思ったけれど、何とかなりそうで本当に良かった。
あと贅沢を言えば、味付けは塩だけじゃなくてもう少しいろいろな調味料なんかが欲しいところだ。人間美味しいものを食べることができるともっと欲がでてきちゃうな。
「……セシル、大丈夫?」
「はい、まったく問題ありませんよ。あまり寝られないのですか?」
夜、今日はルーベルがいないということもあって、夜はセシルが一晩中見張りをしてくれることになった。僕は見張りは必要ないと言ったんだけれど、ルーベルとセシルがルーベルのいない間だけはセシルを見張りに立てると譲ってくれなかった。
ミーシャはともかく、僕も見張りを手伝いたいけれど、この10歳の身体はすぐに眠くなってしまうんだよね……見張りの途中で寝てしまったら、そちらの方が余計に危険だ。
ルーベルは馬車を飛ばして一番近い村まで向かってくれているけれど、どんなに早くても明後日の夜まではかかってしまう。日中は僕とミーシャで辺りを警戒しつつ、セシルには少し休んでもらっていた。
「うん、ミーシャはもう寝ちゃったけれど、僕はあんまり寝付けなくて……」
ミーシャは本当の妹ではなく、街を歩いていた時に両親を失って飢えていたミーシャを僕が保護して屋敷のお世話係として雇った。出会った時はとても痩せていたけれど、今ではとても可愛らしい女の子へと成長している。
そのあとミーシャが祝福を受けた際に火魔法スキルがあることが分かった。そのまま領地に残ってアルマに仕えることもできたのにそれを断って僕についてきてくれたのは、その時の恩があったからだろうな。
「私のことはお気になさらず、ゆっくりと休んでください。私は日の出ているころに少しだけ寝させてもらったので大丈夫ですよ」
「うん、僕もすぐに寝るよ。本当に無理はしないでね」
ちなみにルーベルはセシルと同じで先代――僕の両親のころから仕えていた執事だ。執事なんだけれど、僕やセシルに戦闘の仕方を教えてくれた師匠でもある。
……いや、なんで執事が戦闘の訓練をしてくれるのか意味が分からないよね? 大丈夫、僕もなんで執事のルーベルがそんなに強いのか知らないから。ルーベルは僕が生まれた頃から両親に仕えていてくれたから、お父様とお母様に情があって僕についてきてくれたのかもしれない。
セシルも僕のお父様とお母様が生きていたころから仕えていたけれど、そこまで長い間仕えていたわけじゃない。なぜか僕にとても忠誠を誓ってくれているけれど、ミーシャみたいに恩があったり、ルーベルみたいに情があるというわけでもないんだよね。いつかは聞いてみよう。
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