第3話 不思議な井戸


 確認のウインドウで【はい】を選択すると、僕が設置をしたいと思った場所へ突然井戸が現れた。


 それまで草木一本生えていないひび割れていた大地の上へ石が積まれてできた円柱、そしてその中心には間違いなく先ほどまでなかった深い穴ができている。穴は結構深くて見えないけれど、井戸というからには下には水が溜まっているに違いない。


 ありがたいことに縄の付いた木製の桶も井戸と一緒に現れている。たぶんこの木の桶を使って井戸から水をくみ上げろということなのだろう。


「さ、先ほどまで間違いなくこんなものは存在しておりませんでしたな。やはりこれはレオル様の開拓者というスキルのお力なのでしょうか?」


「そうみたいだね。この桶で水を汲めるんだと思うよ」


 井戸の横にある桶を井戸の中に放り込むと、チャポンという音がした。やっぱり井戸の下には水があるみたいだ。


「お、重い……」


 そして水が入った木の桶を上まで引っ張り上げようとしたのだけれど、水の入った桶は僕の想像以上に重く、子供の力では持ち上がらなかった。


「レオル様、私にお任せください」


「うん。ありがとう、セシル……」


 男として情けない限りだけれど、残念ながら子供の僕よりもセシルの方が力はあるんだよね……


「こ、これは素晴らしい! こんな土地から水が出てくるとは!?」


「すごいよ、レオルお兄ちゃん!」


 ルーベルとミーシャが驚きの声を上げる。確かにこんなに干からびた土地から水ができるなんて驚きだ。地面の下には水でも溜まっていたのだろうか? それとも井戸を作った時に水まで現れたのだろうか?


 いろいろと検証が必要になりそうかな。もしも水が無限に供給されるとしたらとんでもないことだ。あとはこの水が飲めるかも確認しないといけない。まずは煮沸してから飲んでみて、そのあとは少量ずつそのまま試しに飲んでみて――


「冷たくてとてもおいしいですね」


「ちょっとセシル!? まだ飲めるか確認していないのに!」


 いろいろと確認をする工程を全部すっ飛ばして、セシルが桶から手で水をすくって井戸の水を飲んでしまった。こんな場所でお腹を壊してしまったらどうするんだよ!


「レオル様のスキルによって出たものでしたら大丈夫ですよ」


「……次からはちゃんと確認をしてから行動するようにお願いするよ」


「はい、レオル様の仰せのままに!」


 僕に全幅の信頼を置いてくれるのはありがたいけれど、こういうのはちゃんと検証をしないと駄目だからね……




「……というわけで、僕の『開拓者スキル』はポイントというものを使って、この井戸みたいに家屋や畑や作物なんかを作り出す能力みたいだね」


 そのあとは井戸の水を煮沸して少量を飲んでみて問題ないかを確認しつつ、みんなにも僕の能力を僕の分かる範囲で説明をした。


 というか、このスキルについては僕にも分からないことが多すぎる。とりあえずポイントを消費して何かを作り出すことができるみたいだけれど、どうやったらそのポイントを補充できるのかとか、レベルがどう関係するのか分からないことだらけだ。


 もう一度ウインドウを確認してみたけれど、説明みたいな項目はなかった。とりあえず井戸の分の20Pは減っていて180Pになっているのは確認した。


「なるほど、開拓者とはそういったスキルなのですか……これは本当に素晴らしいスキルですね。レオル様のお力があれば、この不毛の大地でさえも開拓が可能かもしれませんな」


「ええ、さすがレオル様です! レオル様のお力があれば、この地に国を作ることすら可能ですね!」


「セシル、さすがにそれは飛躍し過ぎだから!」


 井戸や畑を作ったところで国も何もないだろうに……それにここは義父が治めているフリードル領だから、どんなにこの領地を大きくしたとしても、国にはならない。


 でももしかしたら村や街なんかは作れるかもしれないという希望が出てきた。このレベルというものが上がれば、作れるものがいろいろと増えるかもしれないからね。


「レオルお兄ちゃん、これからどうするの?」


「……そうだね。このスキルでいろいろとできるみたいだし、少しだけここで頑張ってみようと思っているんだ」


 正直に言って、この土地を見た時には開拓なんて諦め、支度金を持って他の領地に逃げることも考えていたけれど、開拓者のスキルがあればこの不毛の大地を開拓できるかもしれない。


「ふむ、これは面白くなってきましたな。年甲斐もなく血がたぎってきましたぞ!」


「もちろん私はレオル様がどのような道を進もうと、その隣を歩むまでです!」


「ミーシャもお兄ちゃんとずっと一緒だよ!」


「みんな、ありがとう!」


 ここまでついてきてくれたみんなのためにも、この不毛の大地で頑張ってみるとしよう。




「それじゃあ、もうすぐ日も暮れそうなことだし、50Pを使って家屋を作ってみようか?」


「いえ、レオル様。まだそのポイントというものがどのように補充すればよいのか分かっておりません。馬車でも雨風を防ぐことはできますし、木材さえあれば不格好ながらも家屋を建てることもできます。それよりも今後作ることができるか分からない畑やトイレなどにポイントを使用するべきかと愚考します」


「……なるほど。確かにルーベルの言う通りだね」


 ここまで来る道中は馬車の中で寝ていたことだし、それが数日延びても耐えられる。それよりもこの荒れ果てた土地に畑を作れるかどうかや、セシルやミーシャもいることだし、トイレを作る方が重要そうだ。


「ミ、ミーシャもトイレを優先した方がいいと思うの!」


 ミーシャはちょっとモジモジしながら顔を赤くしている。もしかしたら今トイレへ行きたいのかもしれない。


「……メイドはトイレには行きませんので、レオル様にお任せします」


 いや、メイドがそんな能力を持っているなんて聞いたことがないよ……もしかすると、セシルもトイレに行きたいのかな?


 そういえば僕もトイレに行きたくなってきた。よし、次はトイレを作ってみよう。

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