第2話 開拓者スキル
「レオル様、どうされました!」
僕がいきなり大きな声を出したから、メイドのセシルがいつの間にかどこかから取り出した2本のナイフを両手で持って周囲を警戒している。
「だ、大丈夫! 少し驚いただけだよ。みんなはこのウインドウが見える?」
「ウインドウですか? そもそもウインドウというものがよく分かりませんが、私にはレオル様の前に何もないように見えますが……」
「ミーシャも何もないように見えるよ?」
「私にも何も見えませんな」
「そ、そっか……」
どうやらみんなにこの半透明のウインドウは見えていないみたいだ。試しにウインドウへ触れてみたら、僕の右手はそのまま抵抗もなくすり抜けていった。いきなりのことで訳がわからないけれど、僕にはひとつだけ心当たりがあった。
「開拓者スキル……」
もしかするとこれは僕のスキルなのだろうか?
教会で祝福の儀を受けてからの2年間、開拓者というからには開拓をするスキルかもと思って、色々なことを試してみたけれど、一度として開拓者というスキルが発動したことはなかった。
「レオル様のスキルですか! 生産系のスキルと仰っておりましたが、いったいどのようなスキルなのでしょう?」
「……ええ~と、ちょっと待ってね。詳しく見てみないとまだ分からないや」
僕の目の前に突然現れたウインドウにはこの世界の文字ではなく、前世の日本語で次のように書かれていた。
『ここを開拓しますか? 【はい】 【いいえ】』
……とりあえずはいを押さないと何も始まらないようだ。やっぱりこのスキルは開拓ができるスキルなのだろうか?
少なくともこの土地の現状より悪くなることはなさそうだし、【はい】をタッチしてみた。すると何かを触った感触があってウインドウが切り替わる。
『レオルの開拓地』
レベル:1
ポイント:200P
……いや、開拓地って目の前には何もないんだけれどな。このポイントというものは何だろう?
ウインドウの左側には『ステータス』、『施設』、『作物』、『武器』、『その他』と表示されている。どうやら今の画面がステータスのようだ。続けて施設をタッチしてみる。するとまた画面が切り替わった。
・木製の家【小】(50P)
・井戸(20P)
・トイレ(20P)
・畑(20P)
「こっ、これは!?」
続けて作物をタッチしてみた。
・エンドウ(5P)
・枝豆(5P)
・キャベツ(5P)
・ラディッシュ(5P)
どうやらこのスキルは家を建てたり、畑を作ることができるらしい。なんだか前世の知識にあったシミュレーションゲームみたいだ。
「……あの、レオル様。ここまでだいぶ長い道のりを進んでまいりましたし、だいぶ疲れておいででしょう。しばらく馬車の中で休まれてはいかがでしょうか?」
「ルーベルの言う通りです。一度馬車の中に戻りましょう」
「レオルお兄ちゃん、無理せずに休んだ方がいいよ!」
……やっぱり、みんなにはおかしくなったと思われているみたいだ。確かにこの状況なら、絶望しておかしくなったとしても不思議ではないよね。だけど僕は普通の子供じゃない。
僕には物心がついた頃から、前世の知識がある。この作物の欄に書いてある野菜はどれもこちらの世界にはない作物だった。
……この知識を使って何かできないかと考えたけれど、残念ながら子供の僕にはうまくそれを活かすことができなかった。
僕にはあまり戦闘の才能がなかったようで、最後のチャンスである祝福の儀で戦闘系のスキルを授からなかったから、今こうしてここにいるわけだ。
とはいえ、今ではある意味それでよかったとも思っている。この世界だと戦闘系のスキルを得て最前線で戦うのがとても名誉なことらしいけれど、当然その分死にやすい。前世の平和な日本という国の知識を持っている僕は人と殺し合いをするのをできるだけ避けたいと思うようになっていた。
前世の知識の中には戦闘に関わる知識もあったけれど、その知識が大量の人の命を奪うことになるのは容易に想像できたから、それだけはしなかった。
「……まずは家が欲しい。いや、このポイントをどうやって補充できるのか分からない今、50もポイントを使うのはどうなんだろう? 最悪馬車の中で寝ることもできるし、まずは水の確保が最優先かな」
みんながブツブツと呟いている僕を更に心配してくれているようだけれど、今の僕にとってはこのスキルにすべてを賭けるしかない。そうなるとこのポイントは短絡的に使わずにちゃんと考えてから使うべきだ。
……よし、全部の項目を確認したけれど、やっぱり一番にほしいのは井戸だな。
僕はウインドウを操作して施設項目にある井戸をタッチした。
『井戸を20Pで設置しますか? 【はい】【いいえ】』
さらに確認のウインドウが出てきたので、【はい】をタッチした。
「んなっ!?」
「こ、これは!?」
「うわあ~なにこれ!」
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