狼少年の話
「それはきっと、カナタくんのイマジナリーフレンドだよ」
イマ……フレ?なにそれ。
ぼくはイケメンせんせいにしつもんした。
したら、せんせいはスマホでケンサクして、いろいろムズカシイせつめいをしたけれど、ぼくのかおをみて「わかんないよねぇ」と、まゆげをさげた。
イケメンなのになさけないかお。
「簡単に言うと、子供の頃に現れる、空想のお友達……かなぁ?」
って、ぼくにきかれてもしらないよ。ますますなさけなくて、マジがっかりなんですけど。
いまぼくは、ほいくえんの『はんせいしつ』で、おこられているまっさいちゅうだ。
りゆうは、おひるねのじかんにぬけだして、おそうじちゅうだったイケメンせんせいをおもっきしおどろかせちゃったから。
『はんせいしつ』はホントはべつのおなまえがある、とくべつしつだ。
おとなようのイスとテーブルがおいてあって、よくママたちとせんせいがおはなしするおへや。
でもときどき、ヒドいイタズラをしたこもよばれて、せんせいにおこられるおへやでもあった。
ぼくははじめてよばれたから、さいしょはドキドキしてたんだ。
いっぱいどなられて、ゲンコツされちゃうのかな。
そんなふうにかんがえて、ちょっとビビッてたんだけどさ、なんかビビッてソンした。
したって、せんせいはなんもわかってないんだも。
ぼくの『オオカミさん』のはなしをホンキにしゃちゃって、イマフレなんていいだした。
「最近、お
そういって、せんせいはぼくのあたまをナデナデして、りょうかたをポンポンした。
シンケンなそのひょうじょうはマジイケメンで、じょしたちがさわぐのも、ママたちににんきがあるのもなっとくだ。
「先生のフォローが足りなくて、ごめんね」
でもはっきりいって、ただのバカだ。
『ざんねんイケメン』って、じつざいするんだなぁ。
いま、ぼくのいえがいつもとちがうのは、ホントのはなし。
パパのほうのおばぁちゃんがしんじゃったんだ。
さいしょはおじいちゃんがじこって、びょういんにはこばれて、アイ……なんだっけ?
たくさんチューブにつながれるところ。あそこでセイシのサカイをさまよったんだって。
ママたちオトナがびょういんによばれていたそのとき、ぼくはイトコのおねえちゃんふたりと、おじいちゃんのいえでおるすばんさせられていた。
さっぽろのとなりまちにあるおじいちゃんのいえはなまらひろくて、ふだんだったらぜんぜんへっちゃらなんだけど、そのよるは6ねんせいのおねえちゃんと、4ねんせいのおねえちゃんとぼくのさんにんぽっちじゃ、マジこころぼそかった。
おじいちゃんがしんじゃうかもっておもったら、よけいにこわくなって、なきそうだった。
したら6ねんせいのおねえちゃんが、「お爺ちゃんが助かりますようにって、お祈りしよう」っていいだしたんだ。
わしつにあるくろいおぶつだんには、ごせんぞさまがいらっしゃるんだって。
おじいちゃんのとおいごせんぞさまは『やまのかみさま』にまもられているから、きっとおじいちゃんもまもってくれるって。
そんなおねえちゃんのいけんに、ぼくもさんせいしたんだ。
ぼくは、やさしくていっぱいあそんでくれるおじいちゃんがだいすきだから、シンケンにオイノリしたよ。
かみさまどうか、おじいちゃんがなおりますように。
おじいちゃんがしんじゃいませんように。
おじいちゃんをつてれいかないでください。
かわりにおばあちゃんをあげますから、どうかおじいちゃんはかえしてください。
したらつぎのひ、おじいちゃんのイシキがもどったってママからきいて、なまらおーよろこびしたんだ!
オイノリがきいたのかなぁ。
でもかわりにおばあちゃんがしんじゃった。
びょういんで、ママとおばあちゃんがケンカしたっけ、おばあちゃんのケツアツ?がいっきにあがってたおれちゃったんだって。
なんかね、おじいちゃんがさいしょにきゅうきゅうしゃではんそーされたとき、ママにでんわしたのにぜんぜんでなかったとかいって、おばあちゃんがなまらおこったんだって。
たおれちゃってから、おばあちゃんずっとぐあいがわるくて、けっきょくなおらなかったみたい。
かなしいな。
ぼく、ホントはおばあちゃんのこと、きらいだったんだ。ないしょだよ。
だってね、よくママのことおこったり、ぼくだけにこっそりと、ママのわるぐちいってくるんだ。
ぼくはママがだいすきだから、わるぐちいわれてなまらくやしかった。
だからおばあちゃんなんてきらいだったけど、でも、いなくなってほしくなかったよ。
だってホントにかなしくて、なみだがいっぱいでたんだ。
それからぼくのいえは、『おそうしき』とか『かいご』とか『どうきょ』とかで、パパとママがまいにちはなしあいをしてるんだ。
ってか、ほとんどケンカみたくなっちゃっててさ。
おウチのなかがどんよりしていて、なんだかくうきがすいずらいの。
マドをあけてもかわんなくて、ヤなカンジなんだ。
ママはまえよりもいそがしくなっちゃったし、パパもおそくまでかえってこないし、ぼくもすこしほいくえんをおやすみしてた。
ひさびさにきたほいくえんには、おともだちがいっぱいでうれしかった。
くうきもラクラクすえて、みんなでたのしくあそんだよ。
あのニューゲームもまだつづいててあんしんした。
ぼくたちサクラぐみのあいだでは、ちょっとまえから、『おにごっこ』と『かくれんぼ』と『だるまさんがころんだ』それから『じんろうゲーム』をちょうがったいさせた、シンカケイおにごっこがバズッてるんだ。
そのなも『オオカミごっこ』!
かくれた『オオカミ』を『ちょうろう』と『むらびとたち』がさがしだす、いきるかしぬかのデスゲーム。
ペナッたヤツにはバツゲームもよういされていて、だんしだけじゃなくじょしにもにんきのムネアツゲームなんだ。
ぼくはひさびさにゲームができてなまらたのしかったんだけど、マジひさびさすぎてペナッちゃった。さいあく。
でもルールはぜったいだ。ぼくはおとこらしくバツゲームをうけることにした。
バツゲームのないようはまいかいちがうんだけど、こんかいは『イケメンせんせいをちょうビビらそう』にけっていした。
いまのせんせいはわかいおとこのひとだし、ちょっとくらいじゃビクともしないってみんないうし、ぼくもそうおもって、だからおもいきってやることにしたんだ。
まえにいたアイドルみたくカワイイおんなのせんせいは、さいしょはにんきものだったけど、さいしゅうてきにじょしたちからこうげきされて、なきだしちゃったことがあったっけ。
ゆきがっせんのタマにだれかがイシコロいれて、ソレがせんせいのオデコにめいちゅうしたっけ、リュウケツさわぎになっちゃったんだよね。
あのひからアイドルせんせいはこなくなっちゃうし、ぼくもチをみてビビっちゃったから、こんかいはウマくやらないとね。
おひるねちゅうのおへやをこっそりぬけだしたら、ちょうどイケメンせんせいがしゃがんでカベのらくがきをおそうじしてた。
チャンス。せなかがガラアキだ。
ぼくはそーっとちかづいて、みどりのポロシャツのせなかを、おもっきしドーンッておっつけてやったんだ。
「ぅわあああっ?!」
イケメンせんせいはイケメンらしくないひっくりかえったこえでさけんで、ついでにじぶんもひっくりかえった。
したら、せんせいのながいあしがバケツをキックして、おみずがバッシャーン!
ろうかもせんせいも、みずびたしになっちゃった。
ぼくはくつしたがぬれただけですんだけど、せんせいはジャージのおしりがビチョビチョで、おもらししたみたくなっちゃった。
ウケる。
イケメンせんせいはビビッておくちを「あ」のカタチにしたまんま、かたまってた。
コレでバツゲームクリア!ってよろこんだのに、なんかほかのせんせいたちがやってきて、えんちょうせんせいになまらおこられた。
ぼくだけじゃなくイケメンせんせいもおこられて、ふたりして、こぼれたおみずをゾウキンガケしたんだけど、そのあと『はんせいしつ』によばれちゃった。
しっぱいしたなぁ。
それでぼくは、おとなようのイスにすわってあしをブラブラさせながら、イイワケをかんがえてた。
「カナタくん、なんでこんなことしたのかな」
いまかんがえてるからだまってて。
「きみは普段おとなしくて、こんなことするような子じゃない。なにか理由があるんじゃないのかな」
だからぁ。ソレをかんがえてるんだってば。
バツゲームのコトをバラすワケにはいかない。ともだちはうらぎれないし、「そんな遊びなんて、もうしちゃいけません!」とかいわれたらたいへんだ。
ぼくのせいであのゲームがフウインされたらどうしよう。
ぼくたちはあのゲームに、マジでハマっていて、おうちでもきょうだいでやってるこもいるくらいだ。
ぼくはひとりっこだから、パパやママをあいてにやったことがあるけど、あのときはウマくいかなかった。
やっぱ、ともだちどうしじゃないとダメなんだ。
だからぼくは、ウマいイイワケをかんがえてたんだけど、なかなかおもいつかなくて、ついオオカミのせいにしちゃったんだ。
オオカミさんがやれっていったの。
オオカミさんがおみみのちかくで、こっそりいったの。
いまだ、やれって。
したらイケメンせんせいは、「その声はいつから聞こえるの?」「姿は見えるの?」「傍にいるの?」なんてシツコクきいてきて、こまったぼくはしたをむいてナキマネしたら、イマフレのわだいになったんだ。
ぼくはてっきりすぐウソがばれて、ヒドくおこられるってカクゴしてたのに。
どうおもう?こどものウソもみぬけないなんて、ヤバくない?
もとがイケメンだから、よけいクソダサイよね。
「カナタくん、気づいてあげられなくてごめんよ……」
ぼくのかたをポンポンしたとおもったら、いきなりせんせいにギュッてハグされた。
「きみ、誰かに命令されて、イヤって言えなくてあんなことをしてしまったんじゃないのかな」
イケメンせんせいがぼくのおみみのちかくでささやいた。
そのイケメンボイスに、じょしだったらキュンしちゃうかもだけど、ぼくはおとこだ。
「もしかしてだけどカナタくん。イジメられたりしてないかな……?」
はぁ?イジメ?なにソレ。
サクラぐみに、そんなクソダサイまねするヤツいないけど?!
せんせいはぼくのともだちをワルモノにするき?
それに、ぼくはイジメのひがいしゃで、メイレイされてせんせいをみずびたしにして、そんでイマフレみたいなモーソーのともだちつくってる、いえにもほいくえんにもいばしょがないカワイソウなこどもだっていいたいワケ?!
バカにするな。
あたまにきた。
このせんせいはダメだ。
じぶんのクラスのこと、なんにもみてない。
せんせいがそんなだったら、みんなとソウダンして、アイドルせんせいみたくなってもらうしかないよね。
ぼくはせんせいにハグされたまま、ぎゃくにせんせいのおみみにささやいた。
オオカミさんがいるよ。
6ねんせいのおねえちゃんがいってたよ。
『やまのかみさま』は『めがみさま』でね。
オオカミをケンゾクにしてるんだって。
カッコイイじゃん。ぼくのイマフレ。
オオカミさんが、せんせいのことみてるよ。
「ぇえ?」
せんせいはピクンとからだをふるわせて、ぼくからちょっとはなれた。
「カ、カナタくん?」
そうしてぼくのおかおをのぞきこんできた。
だから、ぼくもせんせいのおめめを、じーっとみかえしてやったんだ。
せんせい。
せんせいはぼくのテキ?それともミカタ?
テキにはようしゃするなって、オオカミさんがいってるよ。
どっち?
ねぇ、どっち?
了
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