「とんかつ」は分類不能

 いらっしゃいませ!

 今回は大人気、とんかつについてのお話です。


 とんかつと言えば、安くてボリュームのある、ガッツリ系メニューです。

 ベジタリアンの方や、油を避けたい人でもない限り、大体の人が大好きなメニューなのですが、「最近は外国でも大人気」だと聞いて、ちょっと驚きました。


 というのも、とんかつは日本料理の中でもちょっと特殊な立ち位置だからです。



# とんかつはカテゴライズが難しい


 これまで「外国料理と洋食は全くの別物だよ」というお話をしてきましたが、とんかつは一体どういう立ち位置なのか。

 出自とすれば、洋食で間違いはありません。

 実際とんかつは洋食屋さんでも提供されますが、どちらかと言うと専門店で食べることが多い気がします。


 洋食屋さんのとんかつは「ポークカツレツ」などと表記されることもあり、いかにも外国料理っぽい味と見た目をしています。


 対してとんかつの専門店は、大体において和風のテイストのお店が多く、添えられるものもご飯、お味噌汁、お漬物、千切りキャベツあたりが定番です。

 つまり、とんかつは洋食らしさがあまりないのです。

 では純粋な日本食かと言われれば、外国からやってきた料理が元になっていることはみんな知っています。

 じゃあ外国料理なのか、と聞かれれば「いや、日本の料理だよ」と答えたくなります。


 これだけ身近な食べ物なのに、その立ち位置をぱっと答えるのが難しいのです。


 - 洋食についてはこちら



# とんかつの歴史


 出自を見れば一目瞭然ですが、「とんかつは日本ナイズドされた外国料理」で間違いありません。

 ただ、日本の食事スタイル……つまり「おかずとご飯で食べる文化」にあわせて、徹底的にご飯に合うようにアップデートし尽くしたため、元の料理の面影がなくなっています。


 とんかつには元となる料理があります。

 諸説ありますが、良く言われるのは2つ。

 ドイツの仔牛料理であるシュニッツェル、そしてフランス料理のコートレットです。


 1890年頃、日本で始めてとんかつの原型が現れます。

 当時、その料理を「コートレット」を英語読みして「カツレツ」と言いました。

 この「カツ」こそが、とんかつの「カツ」です。

 とんかつの「トン」は豚肉のことなので、豚のカツレツでとんかつというわけですね。


 ここで面白いのが、いつの間にか「カツ」=「パン粉をつけて揚げたもの」という認識が広まったことです。

 だから、◯◯カツ、といえば、なんらかの材料にパン粉をつけてディープフライしたものという意味でまちがいありません。


 思えばコートレットから始まり、遠くまで来たものです。


 - おかず文化についてはこちら



# パン粉と Breadcrumbs


 パン粉の存在についても語らねばなりません。


 私達日本人にとっては、パン粉は外国生まれの素材です。

 実際、外国で販売されているような目の細かい粒の揃ったパン粉も「細挽きパン粉」として売られています。

 つまり、PANKO も Breadcrumbs も「どちらもパン粉」だと思っていたわけです。


 なのに「PANKO が海外で大人気」などと言われれば「えっ、そもそもあなたがたの発明じゃなかったの?」と不思議に思うのは当然です。


 調べてみると、PANKO とは粗挽きのパン粉のことで、Breadcrumbs とは形状や素材、作り方まで異なるようで、逆に勉強させられる結果となりました。


 Breadcrumbs はフランスパンなどのリーンなパンを乾燥させて粉砕するのに対し、PANKO は糖分の少ないラウンド・トップ・ブレッド(日本では「山型イギリス食パン」と呼びます)を材料とし、乾燥させずに細かい刃物で引き裂くように粗挽きに仕上げます。

 ちなみに真っ白なのは焼き目がつかないように特殊な方法で焼き上げたパンを使っているからで、実はヘタの部分も全て PANKO に含まれています。


 手作りする場合は、ある程度細かく切ってから冷蔵庫で冷やしてからフードプロセッサーで軽く回すか、なるべく刃の鋭いおろし金を使うとある程度うまくいきます。


 できたパン粉は「生パン粉 Nama-PANKO」といい、とんかつで使われるパン粉は主にこれになります。


 生パン粉は日持ちしませんが、乾燥させて長期保存できます。

 一般家庭で使うなら、乾燥パン粉のほうが扱いやすいですね。

 霧吹きでまんべんなく水分を与え、小一時間置けば元のふわふわの状態に戻ります。



# とんかつの楽しみ方


 とんかつの食べ方としては、定番はやはり「とんかつソース」でしょうか。

 他にも食べ方は塩、味噌ダレ、大根おろし、卵とじ(カツ丼の具部分のような煮物)など色々ありますが、やはり一番メジャーなのがこのソースです。


 とんかつソースとは、ウースターソースをベースに作られた日本独自のソースで、日本人の口に合うようにとことんカスタムしてあります。

 カラシ(Japanese style mustard)やすりごま(Ground sesame seeds)を混ぜることも多いです。

 とんかつソースとカラシをとんかつにかけて、ご飯といっしょに頬張れば、だいたいの日本人はみな幸せな気持ちになります。


 外国料理が元になっていても、徹底的に日本人の口に合うように変化していった結果、今では胸を張って日本料理を名乗れる存在になりました。



 今では外国でもとんかつソースが手に入りやすくなったといいます。

 パン粉も、どこのスーパーマーケットでも手に入るくらいメジャーな存在になったと聞きます。


 そうなれば、もうとんかつ作りを邪魔する要素はありません。

 あなたの家の近所のスーパーマーケットで当たり前に手に入る材料で、美味しいとんかつを作ることができます。


 ぜひトライしてみましょう。


 - 日本のソースについてはこちら

 - カツ丼についてはこちら

 - かつサンドについてはこちら

 - カツカレーについてはこちら

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ジャパニーズ・ジャンクフード・マニアックス カイエ @cahier

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