「明石焼」、カヌレとの意外な類似性

 いらっしゃいませ!


「明石焼 - Akashi-yaki」という料理をご存知でしょうか。

 たこ焼きのルーツにあたる、日本人なら誰でも知っているようなメジャーな軽食です。


 ふわふわの玉子入りの生地にタコを入れて焼いた平べったいボール状の料理で、たこ焼きとは生地、焼き方、提供スタイルまで全て異なりますが、一番の違いは「だし汁」(うどんのスープのようなもの)につけながら食べることでしょうか。


 この食事スタイルの関係で、基本的には歩き食べはできません。

 だからでしょうか、一般的にはたこ焼きよりもやや上品な位置づけで、食にうるさい外国人観光客たちにもまだ見つかっていないようです。


 日本に来られた時に「明石焼を食べたい」などと言えば、案内役の人に「こいつ、通だな」と思われるに違いありません。



# 呼称問題 〜 明石焼と玉子焼


「明石焼 - Akashi-yaki」の「Akashi」とは、地名です。


 明石市は、神戸と同じ兵庫県にある市です。

 漁港として有名で、「明石の鯛と蛸」といえば超高級ブランドです。


 この明石市、日本においてはもう一つ非常に重要な意味を持ちます。

 ご存知の通り日本列島は非常に東西に長い形をしておりまして、北海道と沖縄ではまったく気候が異なります。

 ですが、日本の標準時は協定世界時+9時間。日本であればどこでも共通です。

 これは東経135度である明石が基準となっており、このことは小学生時代に授業で学びます。

 だから日本人は「明石」と聞けば「明石焼と標準時」と思い浮かべたりします。


 しかし、当の明石へ足を運んでみると、明石焼を「明石焼」とは呼びません。

 明石では明石焼のことを「玉子焼 - Tamago-yaki」と呼びます。

 正式名称は「玉子焼」で、「明石焼」は俗称なのです。


 「玉子」とは Egg のことです。

 一般的には「たまごやき」といえば日本スタイルのオムレツを指し、タコの入った郷土料理を玉子焼と呼ぶのは、明石の人だけでしょう。


 これでは紛らわしいですので、明石以外の土地ではこの料理を明石焼と呼ぶわけですね。


 明石の老舗で「明石焼を一皿」などと注文すれば「玉子焼を一皿ね」と訂正されるかもしれませんが、日本ではよくあること。

 こうしたこだわりのぶつかり合いや論争も、一つの楽しみと言えます。



# たこ焼きとの関係


 たこ焼きと明石焼の関係は、日本の寿司とカリフォルニアロールの関係に近いかもしれません。

 どちらも美味しい料理には違いありませんが、カリフォルニアロールはあくまで後から産まれたニューウェーブです。

 それでもアメリカでは、日本スタイルの寿司よりもカリフォルニアロールのほうがメジャーです。


 同じように、明石焼をルーツに生まれたたこ焼きのほうがメジャーになってしまいました。

 明石焼とたこ焼きでは、明らかにたこ焼きのほうがジャンク感があり、このあたりもカリフォルニアロールに近いかもしれませんね。

 たこ焼きは食べ歩きにも向いており、<link>お祭り</link>での提供やテイクアウトのしやすさもあって、圧倒的な人気と知名度を誇るようになりました。

 たこ焼きがメジャー過ぎて、明石焼を「柔らかくて、出し汁につけて食べるたこ焼き」だと思っている人もいるくらいです。


 元祖たる明石焼は、もっと繊細な料理です。

 出し汁につけて食べる関係で、腰を落ち着けて食べる必要があり、お店も落ち着いた雰囲気のお店が多いようです。

 専門店に入ると、注文が入ってから銅製の型に生地を流し、熟練の業で焼き上げ、木でできた専用の板にぽんとひっくり返して提供されます。

 生地はたこ焼きよりもずっと柔らかく、まん丸にはなりません。

 表面には焼き目がついておらず、きれいに並んださまは上品な印象を受けるでしょう。

 それを出し汁につけながら頂くのですが、これがもう絶品です。

 派手さはありませんが、一般的な「ジャンクフード」と並べてしまうのは申し訳なくなるような、独特の世界観を持つ繊細な料理と言えるでしょう。


 - 明石焼のレシピはこちら

 - たこ焼きのレシピはこちら

 - たこ焼きについての記事はこちら



# カヌレとの以外な類似性


 ところで、カヌレ(Cannelé de Bordeaux)というお菓子をご存知でしょうか。

 フランスはボルドー産まれの焦げ茶色をしたバニラ風味の焼き菓子で、日本では1990年代に爆発的なブームが起こりました。


 このカヌレというお菓子には、面白い誕生秘話があります。

 ボルドーといえば世界でも一位二位を争うワインの名産地ですが、このワインの沈殿物を取り除くために、卵白が用いられていたのです。

 当然、卵黄が大量に余ります。

 これを使い、名物として考え出されたのがカヌレというわけです。


 では明石焼はというと、時代は江戸時代(1600〜1850)に遡ります。

 明石は「明石玉」と呼ばれる装飾品の生産地でした。

 明石玉は珊瑚のように美しく、加工もしやすい大人気商品でしたが、これに卵白が使われるのです。

 この時余ってしまう卵黄と、同じ明石の名物であるタコを組み合わせて作られたのが、今では「明石焼」として愛される郷土料理だったのです。


 こうしてみると、カヌレと明石焼には不思議な共通点がありますね。

 どちらも銅製の型で焼くのが本式である点にも、なにか不思議な<link>縁</link>を感じます。

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