「たこ焼き」は小さな地球

 いらっしゃいませ!

 今回のテーマはたこ焼きです。


 たこ焼きは、外国からのお客さんの中でも、好きな人と苦手な人が分かれるストリート・フードかもしれません。


 たこそのものが苦手もいらっしゃいますし、たこ焼きで火傷した! なんて方も多いようです。


 でも、一度虜になってしまえば、病みつきになること間違いなしです。

 たこ焼きは、日本の下町を代表するストリートフードなのです。


 海外では Octopus Balls や Octopus Dumplings という名称で紹介されていますが、日本では Takoyaki、表記は「たこ焼き」です。


 この料理は日本ではとてもポピュラーです。

 とくに夜店や、下校中の寄り道、日本の中学校・高校の伝統行事「文化祭」の模擬店にも欠かせません。


 本場は大阪ですが、日本中どこでも食べることができます。



# たこ焼きのルーツ


 ルーツには諸説ありますが、一般的にはラジオ焼きと明石焼きが融合されたものとされています。


 ラジオ焼きとは、明治時代(1868年〜1912年)ごろに人気だったストリート・フードです。

 たこ焼きに似ていますが、中身がタコではなくすじ肉でした。


 明石焼きはたこ焼きにかなり近い食べ物で、中身も同じタコです。

 この明石焼きをヒントに、ラジオ焼きを発展させたのが、今のたこ焼きのルーツとなります。


 間違えてはならないのは、明石焼きとたこ焼きは明確に違う食べ物だということです。

 どちらもタコ入りの Dumplings ですが、歴史、味、食べ方、食べるシチュエーションまでもが異なります。


 明石焼きについては、また別のコラムで詳しくお話しましょう。


- 明石焼きについて詳しくはこちら。


# たこ焼きの歴史


 たこ焼きは昭和10年(1935年)に「会津屋」の創業者、遠藤留吉によって発明されたとされています。


 ですが、当時のレシピを紐解くと、現代のたこ焼きとはかなり異なるようです。

 これが今のたこ焼きになるまでには、面白い歴史があります。


 当時、たこ焼き屋は手軽に始められるビジネスでした。

 日本中にたこ焼き屋が乱立しました。


 当時のたこ焼きは今よりも固いものでした。

 ある日、大阪のたこ焼き屋職人が生地を水増しすることを思いつきました。

 小麦粉よりもだし汁のほうが安価ですので、薄めれば薄めるほど儲かるというわけです。


 しかし、これが思いがけなく大当たりしました。

 濃度の薄い生地は焼くのに時間がかかりますが、表面はサクッとクリスピーに、中はとろりと柔らかい独特の食感が生まれました。

 これが、新しもの好きの大阪の庶民の心を掴んだのです。


 この独特の食感を「外カリ、中トロ」といい、美味しいたこ焼きの表現の一つとして定着しています。

 中には、たこ焼きを地球と表現する人もいます。

 固い地殻の中には熱々のマグマで満たされているというわけです。


 さて、生地が柔らかいほうが美味しいとなると、他の職人たちも次々と真似をし始めます。

 研究に研究が重ねられ、新しい味付けも次々に生まれました。


 生地が柔らかくなると、焼くのが難しくなります。

 気軽に始められるビジネスだったはずが、「職人技の競い合い」へと発展します。


 客のほうも口が肥えて、あそこのたこ焼きが旨い、いやあっちの店が日本一だとこだわり始めます。


 こうしてたこ焼きは今のスタイルになった――というのが、とあるたこ焼き職人から教わった歴史です。


 この話が真実なのかどうかは確かめようもありませんが、大阪に住んでみるとありそうな話だと感じます。

 大阪の商人は「始末 - Shimatsu」を大切にします。

「始末」とは「ケチ」に近い概念ですが、もう少しだけポジティブな印象の言葉です。

「ムダを省き、今あるものを大事にし、より良い結果を求める」というのが近いかもしれません。


 そんな大阪でたこ焼きが独自の進化を遂げ、いつしか「たこ焼きといえば大阪」のイメージは不動のものとなりました。


 ちなみに、日本では有名な話ですが「大阪の家庭には必ずたこ焼きの型がある」と言われています。

 たこ焼きをひっくり返すテクニックも、大阪には上手な人が多いようです。


 かく言う筆者の家にも、たこ焼きの型が4種類もあります。


 ▽


 たこ焼きには地域差があります。


 大阪だけ見ても、東〜南側は薬味をたっぷり使い、タコも大きな豪華なものが好まれます。


 対して西〜北側は、たこ焼きのルーツである明石焼きの影響が強く、贅沢さはありませんが、生地の味で勝負するようなシンプルなものが好まれるようです。


 といってもそれは昔の話。

 まだ傾向はあれど、今となってはありとあらゆるスタイルが混じり合い、新しいスタイルのたこ焼きも沢山生まれました。


 大阪の外に目を向けてみれば、群馬県で生まれた大人気たこ焼きチェーン店「銀だこ」などは、完全にニューウェーブと言えるでしょう。

 仕上げに油をたっぷり使い、表面をうんとカリっとさせたたこ焼きは、日本のみならず外国人観光客をも虜にしています。

 伝統的なたこ焼きにプライドを持つ大阪人の中には「あれはたこ焼きじゃない、たこ揚げだ」と言って眉をひそめる人もいますが、先入観を捨てて食べてみれば驚くほど美味しいです。

 あれも一つのたこ焼きの進化系に違いありません。

 美味しいものは沢山あったほうが良いと思います。


 こうした論争も楽しみの一つです。

 みんな、こうしたプライドのぶつかり合いを楽しんでいます。


 つまり、それほどまでにたこ焼きは魅力のある食べ物だということです


 ▽


 近年、継承者不足で老舗と言われるたこ焼き屋が少しずつ減っています。

 文化を継承すべく、Japanese Junk Food Maniax が集めた珠玉のたこ焼きのレシピを紹介しましょう。


 - たこ焼きのレシピはこちら

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