ジャパニーズ・ジャンクフード・マニアックス

「スパゲッティ・ナポリタン」は外国への憧れとロマンでできている

　いらっしゃいませ！

　今回はスパゲッティ・ナポリタンについてお話しましょう。

　よく「茹でたパスタにケチャップをかけたもの」だと誤解されている、一部ではパスタへの冒涜と見做されている料理です。

　実際は、パスタソースに大量のケチャップを使うだけで、ケチャップをそのまま使うわけではないのですが、悪名高さでは日本のジャンクフードでも随一かもしれません。

　このスパゲッティ・ナポリタンという奇異なるパスタ料理には、美しい誕生秘話があります。

　このパスタの歴史を知れば、あなたのスパゲッティ・ナポリタンの印象はガラリと変わることでしょう。

　結論から先に申し上げましょう。

　スパゲッティ・ナポリタンとは、100年前の日本人たちの、外国への憧れとロマンでできているのです。

# スパゲッティ・ナポリタンに対する海外の評価と誤解

　外国の人が嫌がる日本料理といえば、いくつか思い当たるものがあります。

　一番に思い浮かべるものは、やはり納豆でしょうか。

　卵の生食もそうで、この日本独特の文化に気味悪さを感じる人は多いようです。

　人気の寿司や刺し身も、少し前までは野蛮な食文化だと言われていました。

　しかし、ちょっと変わった文化も、良いものであれば受け入れられていくものです。

　寿司の人気はもちろんのこと、納豆はイベント感のある健康食として認知され始めていますし、最近では卵かけご飯も一部の外国人に人気があると聞きます。

　日本でも YouTube などでマーマイトやシュールストレミングを食べて悶絶する動画が人気ですが、数年後には普通に受け入れられているかもしれませんね。

　そんな中、世界的に有名なのに、まったく受け入れられていない日本料理もあります。

　それがスパゲッティ・ナポリタンです。

「ナポリタンが大好き！」という外国人はあまり見たことがありません。

　パスタにケチャップをかけるなんてけしからん！ というのがその理由のようですが、実は日本でもナポリタン以外にはケチャップ味のパスタはありません。

　というのも、日本では本格的なイタリア風のパスタを尊ぶ風潮があります。

　いかに本場どおりであるか、原典に忠実かは、日本人の料理マニアたちにとってとても重要です。

　だから、もしもうっかりインターネット上でスパゲッティ・アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノについて語ったりすれば、即座に大論争が始まります。

　反面、スパゲッティ・ナポリタンを始めとする日本風のパスタについては、やかましい原理主義者たちも寛大です。

　決して論争に発展したりはしません。

　なぜなら、本場のパスタとは明確に違うジャンルの料理だと考えられているからです。

　では、その２つが何が違うのでしょうか。

　それは、外国料理と洋食の違いです。

　日本では、「外国料理」とは別に「洋食」というジャンルがあるのです。

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# スパゲッティ・ナポリタンの歴史と今

　スパゲッティ・ナポリタンが生まれたのは1945年、日本が第二次世界大戦で敗戦した年だとされています。

　元になったのは、進駐軍（日本を一時的に管理していたアメリカ軍）で食べられていた、ケチャップと具材を和えたスパゲッティですが、目指したのは 1927年に同ホテルのフランス人総料理長が考案した、スパゲッティ・ナポリターナだったそうです。

　といっても諸説あり、アメリカのミートボールスパゲッティが元になっているという話や、ホームシックにかかったアメリカの将校のために作られたといった逸話も残されており、どれが本当かは定かではありません。

　当時の日本人は新しく入ってきた外国の文化、ことに本格的なフランス料理やイタリア料理、アメリカのジャンクフードに強く惹かれました。

　大量に持ち込まれるようになった外国文化は、新しもの好きの日本人に熱狂的に受け入れられました。

　しかし問題がありました。

　肝心の材料が手に入らなかったです。

　そのうちの一つが、缶詰のトマトでした。

　当時の日本人は、なんとかしてそれを再現しようと工夫しました。

　そうした状況のなか、なんとかして外国風の料理を作ろうと、手に入りやすかったトマト・ケチャップを代用して産み出されたのがスパゲッティ・ナポリタンなのです。

　つまり、スパゲッティ・ナポリタンとは80年前の日本人にとって、外国への憧れやロマンが詰まっているのです！

　スパゲッティ・ナポリタンを生み出したとされるホテルニューグランドでは、今でも生まれた当時の味でスパゲティ・ナポリタンを楽しめ、人気を博しています。

　反面「アップデートを止められない」という日本人の悪癖により、スパゲッティ・ナポリタンは今日もアップデートし続けています。

　単に美味しくなれば良いわけではありません。本格的な外国料理になってしまわないように、レトロな洋食らしさを失わないよう細心の注意を払って、今もスパゲッティ・ナポリタンの新しいレシピが生まれ続けています。

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