二年後の流れ星

藤泉都理

二年後の流れ星




 暗闇の中。

 恐ろしいほどに静かな海面で。

 ぷかりぷかり。

 仰向けになって浮きながら、夜空を見つめる。


 恐ろしいほどに、次から次へと弧を描いては姿を消していく数多の流れ星。

 一つの流れ星が消える前に三回唱える事ができれば、その願いを叶えてくれると言う。


 今なら叶え放題だな。


 ぷかりぷかり。

 凪いでいる海面。

 泳ぐ気力も体力もまだある自分。


 願いを三回唱えるつもりはない。

 たったの一回。

 一回だけだ。


 俺は誓いを立てる。

 夜空を支配するすべての流れ星に。


 そして、二年後の流れ星に言ってやるのだ。

 声高々と。


 二年前の誓いを果たしたぞ。

 海から這い出て、己の土地を獲得してみせたぞ。

 そう、必ずや、言ってやる。











「何を叫んでいたの?」

「お嬢様。いえ。あまりに流れ星が美しかったので。つい、興奮してしまいまして。お恥ずかしい姿をお見せしました。申し訳ございません」

「いいのよ。あなたはいつも物静かなのだから、偶には大声を出さないと」


 お嬢様は微笑を浮かべると、両の口の端に手を添えて、ただ一音だけを大声を上げて言った。


「私も偶には大声を出さないとね」

「………私は何も見ておりませんでした」

「………そう。ありがと」


 お嬢様は縦巻ロールの長い金髪を払っては、護衛と一緒にこの場から立ち去った。


(悪役令嬢、か)


 漸との思いで海から這い出た先で拾われたのが、この悪役令嬢の邸だった。

 海から這い出たはいいものの、結局は、海の生物を納める仕事を授かって、毎日毎日海に足を運んでいるわけだが、それでも、二年前に己自身に立てた誓いは果たす事ができて、今日。

 二年前よりも数が少なくなった流れ星に、声高々に言ってやったのだ。


 そして、三回、願い事を唱え。ようとしたが、結局、何も言えずに流れ星はうんともすんとも言わなくなってしまったのだ。

 何を願えばいいのか、わからなかったのだ。

 拾ってくれた恩を返す為に、何を願えばいいのか。

 この家の繁栄。

 いいや、違う。


 悪役令嬢と、いつも後ろ指を指されながらも、澄ました表情と態度を崩さないお嬢様が、腹の底から声を出せる日々が、今日よりも明日、明日よりも明後日、日を重ねるごとに多くなりますように。


(………いや、それよりも。あれか。あれだな。うん)


 お嬢様と護衛の恋のキューピッド役を買って出て、二人を見事にくっつけてみせよう。


 俺がそう誓いを立てた時。

 夜空を喰らい尽くすほどの、巨大な流れ星が一つ、姿を現しては、瞬く間に消え去ったのであった。











(2024.4.19)



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二年後の流れ星 藤泉都理 @fujitori

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