14
*
まぶたの裏に明るさを感じる。眠っている間にアイマスクがどこかに飛んで行ってしまったらしい。嫌な時間の到来だ。
猫背は開かない目を抱えたままなんとか布団から這い出ると、力の入らない指で空気清浄機のボタンを押し、すぐにすごすごと布団の中に戻った。
まだ眠い。昨日は久々に運動をした。といっても買い物ついでの散歩だけだが、肉体には思った以上に堪えたようである。八時間以上ぐっすりと眠っていたようだ。
二度寝しようかとも思ったが、今入眠してしまうと次に目覚めるのは昼頃になってしまいそうだ。強引に目を覚まさせるために、仰向けのままスマホを顔面の真ん前に構える。ブルーライトが瞳を焼く。涙が出た。
夜間に更新されたタイムラインをスワスワ(スワイプの擬音)と遡る。とりとめのない情報が流れて消えてゆく。
夜の間になされる投稿は、病んでいるものが多い。朝になったら消すといいつつ寝落ちしているユーザーばかりだった。皆一様に似たような暗い色味のプロフィール画像で、個性が無いなぁと思う。
鬱っぽいっていうか頽廃的っていうか。道徳とかを信じないタイプのアカウントばかり。
(………………)
そんな有象無象の病み垢の大群を眺め、猫背はある一つの可能性を思いついた。最近で一番気になっていたことである。
猫背は一週間前の日付を指定して検索をかける。
「——————」
重大な情報というものは、寝ぼけた頭脳にも容赦なく割り込んでくる。
できれば杞憂のままであってほしかった。しかし予想外に予想通りの検索結果に、猫背は血の気が引いた。眠りの海に半身を沈めていた頭脳が急速に覚醒していくのを感じる。
猫背は飛び起きた。これでは眠っている場合ではない。いつになく真剣な顔で外出の準備をする。
累が頻繁に部屋を掃除しに来てくれていたため、洗濯が滞っていなかった。今日着る服があってよかった。猫背は急いで着替えると、黒のカーディガンを羽織って部屋を出た。
足早に目的地へ向かう。
花粉舞う春の日、こんな朝早くから外出したくはなかった。
しかし。
「わずかな可能性でも、人命がかかっているなら動かざるを得ない」
猫背はマスクの中で呟いた。
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