13
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「はぁっくしょ」
猫背は鼻をすする。やはりこの時期の屋外には長居したくない。マスクと花粉用メガネを装着していても、防げないものは防げないのだ。
猫背は近所の遊歩道を歩いていた。両手で抱えるのは買い物用のエコバッグ。スーパーの帰りだった。
土曜日ということもあり、穏やかな春の陽気に満ちた道は散歩をする人々で溢れている。芝生にはレジャーシートを広げた一団もおり、絶好の外出日和だった。
「ほら、また背中曲がってますよ」
そして猫背が歩く脇には、細かく姿勢を注意してくる累がいた。
「猫背で背骨が曲がると見た目が悪くなるだけじゃなくて、筋肉が固まるし内臓が圧迫されるしで、百害あって一利なしなんですよ」
恐らく累は、猫背の母もしくは累の母から派遣されたのだろう。猫背の食生活を監視するためだ。まったく、離れて暮らしていてもけっこう干渉される。
まぁ実際、昼食が納豆一パックになったり、なんなら食事を抜くこともあるわけだが。
「あの~、別に帰り道まで付き添ってもらわなくても大丈夫なんだよ?」
「私もちょうど散歩したかったんですよね。今日は部活もないし。それに、適度な運動は免疫力の向上にも繋がりますから、散歩くらいは積極的にした方が良いです」
累は健康志向だ。この真面目さを、少しは学べということだろう。
「ほらまた、背中曲がってますって」
累に背中を小突かれると、背筋を伸ばさざるを得ない。猫背は情けない声を上げる。
「はぁ~日光と花粉と背中が辛いよぉ~」
「薬中のシャブ抜きじゃないんですから、もうちょっとシャキッとしてください」
「シャブ抜きって、すごい言葉知ってるね累ちゃん……」
累は事も無げに髪を払う。
「今見てるドラマ、薬中の探偵がシャブ抜きする話なんですよ。面白いですよ」
どんなドラマだ。探偵モノの裾野は太平洋みたいに広い。
「……薬中ねぇ」
猫背はわずかに歩調を緩める。
「? 久々の外出で靴擦れですか? おぶりましょうか」
「いや、いい……」
重度の猫背は薬中に比肩するという事実に、落ち込んだだけだ。
高校生に姿勢を心配されている時点で大人としてみっともないというのに、その上おんぶにだっこになったらいよいよ目も当てられない。猫背は買い物袋を抱えなおした。
青ネギが飛び出している。ネギは姿勢が良くて羨ましいことである。
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