第7話 勉強会(笑)
高校生活が始まって初の中間テストがそろそろ始まろうとしていた。
蓮の入部試験の翌々日にはテスト一週間前となる為、二人は勉強会をすると決めた翌日から早速放課後に教室へ残って勉強会を始める事にした。
終礼が終わると小岩井と蓮は顔を見合わせ、アイコンタクトと身振りでどう座って勉強するのかを相談する。
するとそこに割って入るように江川がやってきた。
「おっす!蓮!ちょっと走りに行かんか?」
「だから僕は陸上部には入らないって。」
蓮がにべもなくそう言い切ると少し残念そうに眉頭を寄せ上げて笑う江川。
「小岩井さんは?」
「……。行くわけないやん。」
「だよなー!」
そう言って笑う江川と無表情の小岩井。対象的な二人を見て少しだけ蓮は疎外感に浸る。
それに気がついたのか、そう出ないのかは分からないが、江川は「今日まで部活やから!」と言って走って教室を出て行ってしまった。
時間がたち二人きりになった教室で、互いに机を90度回転させ、向き合うように座る。
「私は別に教えてもらうとか嫌やで?」
「大丈夫だ!僕も教えるの下手だから先生に聞け!」
小岩井にとって勉強は詰め込んだ知識のパズルの様なものだった。つまり、自分の力で『分からない』を『分かる』に変えるのが好きで、分からないからと言ってすぐに聞くのはあまり好きでなかった。
「んじゃ、なんのための勉強会なんよ……。」
「何を言う『勉強してるか見張る会』の略して勉強会でしょ?」
「んや、ちゃうやん!絶対にちゃうやん!なんかもっと……小説とか映画でありそうな、『ここはこの公式を使って……』って感じやん!『勉強を教え合う会』やん!?」
「あれはフィクションだ!そもそも僕らが使ってる数学の青本なんて、分かんなかったら問題下に丁寧な解説が全部書いてるだろ!」
小岩井は予想していた状況と違う様で不服そうに手のひらを額に押し付けて顔を天井へ向けた。
「ほら!文句言ってないで早く準備しろ!」
早速お互い数学から取り掛かる。
この学校に来てまだ1ヶ月半ほどしか経っていないため、教科書や参考書がまだ綺麗なのは理解出来る。
それでも小岩井の使う問題集は折り目一つも着いておらず、家でも勉強したことがないことは一目瞭然だった。
思い返してみれば授業中に教科書を開いているところを見たことは殆どない。
彼女の発言に間違いは無いようで、そんな綺麗な問題集に折り目を一度つけると、彼女は勉強にのめり込む。
その様子を見て自分も負けじと勉強にのめり込むフリをした。
蓮には個人的に思う青春七不思議というものがあった。
一つは合唱コンクール。何故本気で歌うのか、など友達のいなかった蓮には青春において不思議なことが沢山あった。
その中の一つ。やたらと勉強会や勉強の通話などをしたがる理由というのがある。
結局はどうせ遊ぶために集まっているだろうにわざわざ勉強会と銘打っている理由がわからない。そもそもさっきも言った通り、答えや解説を見ればそこに分からない理由が載っているのに何をそんなに尋ねることがあるのか甚だ疑問だ。
――おっと、勉強中に変なこと考えすぎだ……。
蓮は余計な思考を勉強へと向け直す。
じっと勉強をしていると、いつの間にか1時間が経っていた。いつもであればポモドーロ式を利用して25分か50分毎に一度タイマーが鳴り休憩を挟んでいる。
いつも通り休憩を挟もうと考えた蓮は顔を上げて目の前の席で勉強をする小岩井の方を見る。
普段正面から見ることがほとんどなかった彼女の顔。
頭のてっぺんが見える。いつもはこんな至近距離でまじまじと見ることのない旋毛が見え、思ったより小さな頭がこちらに向けられている。
――まつげ長いな……。
これまで見たことの無い小岩井の物理的にも新鮮な一面。
蓮が手を止めて小岩井のことをまじまじと見つめても、彼女はそれに気づく様子を見せずに黙々と数式をノートに書き込む。
その姿に蓮は勝手ながらに敗北感を持ち、「休憩したい」と言い出すことが負けのような気がして言い出せなかった。
――負けてられないな。
そう思うと多少の疲れなんて関係なく集中することが出来た。
二人は気がつくと放課後から2時間ほど勉強しており、外は薄暗くなっていた。
言い出すのにはやはり多少の抵抗感があったが蓮は仕方なく「そろそろ終わるか。」と言い出し勉強会を切り上げることにした。
先に列車から降りた蓮はこの2日間のことを思い返す。
自分は今まで『何をすべきか』という理論値に身を任せて判断を委ねて、その通りに生きてきた。
走るのには多少自信があった。陸上部の無かった中学生時代では学年で自分は一番で誰にも負ける気はなかった。勉強もするようになってからはクラスで負け知らずだった。
シャトルランの時に馬鹿なことをしていたサック。
全国統一模試で残念な結果だった小岩井。
正直言うと僕はいつの間にか他人の事を下に見ていた。
自分以外が少しばかり馬鹿に見えて、くだらない存在に見えていた節がある。
けれどそんな人達が、実は自分よりも高みにいる。
――色々足りないもんばっかだな僕……。
どれ一つとして真面目に取り組んだことがない自分に、一番足りないのが努力であることは明白だった。
「まぁ、まだ本気出してないだけだしな……!」
――それに偏差値の高いこの学校で一番にはなれなくても入学できただけで上々だ……。
そう自分に言い聞かせて帰路に着く。
蓮の中の理論値はそんな考えを否定したが、それは蓮自身には聞こえなかった。
胸にあるしこりの違和感は、いつの間にか感じなくなっていた。
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